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50.俺、引きこもる
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結局、殿下が来なかったので、俺はアンのことを相談することもできずに、厨房の床で寝ることになった。
(どうして、こうタイミングが悪いかな)
昨日も第一研究所の奴らは長いこと居座っていたらしい。そのせいで夕食が随分と遅れてしまった。
今朝も早くから来るかもしれないというので、ミモさんと話し合った結果、俺は厨房に引きこもることになった。基本的に厨房の出入り口には鍵を掛け、食事の時間になったら鍵を開けて「提供中」の札を出す。食事提供中は、俺はできるだけ見えない位置に隠れている……うん、考えただけで窮屈だ。
殿下がいないなら、ミモさんにアンのことを相談するべき……と思ったが、なんとなく相談できなかった。だって、相談するってことは、裏切り者がいるかもしれない、って言うことに等しい気がしたんだ。殿下だったらいいのかと言われそうだが、直に毎日研究員と密に接しているミモさんと比べ、少し上から俯瞰している殿下の方が、正直打ち明けやすい。もちろん、これは俺の勝手な感傷なんだが。
『……』
『……』
『……』
そんなことを考えながら朝食用のスープの味付けをして、卵とハム&チーズの二種類のサンドイッチを作っているが、すごく視線を感じる。いや、分かってる。エン・スイ・アンの三人だ。
三人いるといつもの胸ポケットも狭くなるので、小さな籠を作業台の端に置いて、そこに入ってもらったのだ。万が一のときにすぐ隠れられるように布巾を被せて、寝てても構わないと言ったのだが、籠のふちに手をかけて、じっとこちらを見ている。手伝うタイミングを窺っているようだが、残念ながら、今朝は簡単に済ませるので、手はいらない。
山のように作ったサンドイッチに乾燥防止の布巾をかけ、鍋の隣に皿を積んだところで準備完了。俺は扉の近くで耳を澄ませ、誰もいないことを確認して、素早く「提供中」の札を掛ける。ちなみにこの札はエンツォ作だ。真面目なだけかと思ったら、予想以上にマメな人だった。
そうして氷室に引っ込んだ俺は、今までつい掃除を優先して後回しにしてしまっていた、食材の整理に取りかかる。
いや、今までだって食事を作るついでに、ちょこちょこと整理はしてたんだ。でも、こうして時間ができたこの機会を逃すのは勿体ないだろ? 冷気の強い氷室の奥のスペースで、食材どころか霜と同化してるんじゃないかってのもありそうだし。
三人の入った籠を入り口近くに置くと、三人はそれぞれ俺の両肩と頭の上に陣取った。ちなみに頭の上をゲットしたのはエンだ。彼ら的には一番よい場所らしく、スイとアンがうらやましそうに見上げている。
『ママ、何するの?』
「ちょっと在庫整理と危ない食材の処分かな」
考えてみれば当然の話だ。ちゃんとした料理人がいなかった期間、芋のように茹でるだけ、焼くだけといった簡単な調理法で作れる材料は、それこそどんどん消費されただろう。だが、逆にアク抜きなどが必要な食材はどうなるだろうか。答えはもちろん、使われずに忘れ去られる、だ。
ということで、今日の目標は使えない食材の処分だ。もちろん、その他の在庫も確認するけどさ。
俺は奥の方から氷室を確認していく。予想通り、霜だらけで元の形状が一見して分からない食材を発見する。うん、これは……勿体ないな、かたまり肉だ。スジ肉っぽいから煮込む時間で敬遠されたんだろう。だが、さすがに俺もいつから放置されているのか分からない肉に手は出したくない。それ以外に食材がない、という差し迫った状態ならやむを得ず、ということもあるだろうけど。
『ちょっと暗いし寒いし怖いですの』
「基本的に俺たちしかいないから、大丈夫だよ」
というか、闇の精霊が暗がりを怖がるとか……笑い話にしかならないな。
(どうして、こうタイミングが悪いかな)
昨日も第一研究所の奴らは長いこと居座っていたらしい。そのせいで夕食が随分と遅れてしまった。
今朝も早くから来るかもしれないというので、ミモさんと話し合った結果、俺は厨房に引きこもることになった。基本的に厨房の出入り口には鍵を掛け、食事の時間になったら鍵を開けて「提供中」の札を出す。食事提供中は、俺はできるだけ見えない位置に隠れている……うん、考えただけで窮屈だ。
殿下がいないなら、ミモさんにアンのことを相談するべき……と思ったが、なんとなく相談できなかった。だって、相談するってことは、裏切り者がいるかもしれない、って言うことに等しい気がしたんだ。殿下だったらいいのかと言われそうだが、直に毎日研究員と密に接しているミモさんと比べ、少し上から俯瞰している殿下の方が、正直打ち明けやすい。もちろん、これは俺の勝手な感傷なんだが。
『……』
『……』
『……』
そんなことを考えながら朝食用のスープの味付けをして、卵とハム&チーズの二種類のサンドイッチを作っているが、すごく視線を感じる。いや、分かってる。エン・スイ・アンの三人だ。
三人いるといつもの胸ポケットも狭くなるので、小さな籠を作業台の端に置いて、そこに入ってもらったのだ。万が一のときにすぐ隠れられるように布巾を被せて、寝てても構わないと言ったのだが、籠のふちに手をかけて、じっとこちらを見ている。手伝うタイミングを窺っているようだが、残念ながら、今朝は簡単に済ませるので、手はいらない。
山のように作ったサンドイッチに乾燥防止の布巾をかけ、鍋の隣に皿を積んだところで準備完了。俺は扉の近くで耳を澄ませ、誰もいないことを確認して、素早く「提供中」の札を掛ける。ちなみにこの札はエンツォ作だ。真面目なだけかと思ったら、予想以上にマメな人だった。
そうして氷室に引っ込んだ俺は、今までつい掃除を優先して後回しにしてしまっていた、食材の整理に取りかかる。
いや、今までだって食事を作るついでに、ちょこちょこと整理はしてたんだ。でも、こうして時間ができたこの機会を逃すのは勿体ないだろ? 冷気の強い氷室の奥のスペースで、食材どころか霜と同化してるんじゃないかってのもありそうだし。
三人の入った籠を入り口近くに置くと、三人はそれぞれ俺の両肩と頭の上に陣取った。ちなみに頭の上をゲットしたのはエンだ。彼ら的には一番よい場所らしく、スイとアンがうらやましそうに見上げている。
『ママ、何するの?』
「ちょっと在庫整理と危ない食材の処分かな」
考えてみれば当然の話だ。ちゃんとした料理人がいなかった期間、芋のように茹でるだけ、焼くだけといった簡単な調理法で作れる材料は、それこそどんどん消費されただろう。だが、逆にアク抜きなどが必要な食材はどうなるだろうか。答えはもちろん、使われずに忘れ去られる、だ。
ということで、今日の目標は使えない食材の処分だ。もちろん、その他の在庫も確認するけどさ。
俺は奥の方から氷室を確認していく。予想通り、霜だらけで元の形状が一見して分からない食材を発見する。うん、これは……勿体ないな、かたまり肉だ。スジ肉っぽいから煮込む時間で敬遠されたんだろう。だが、さすがに俺もいつから放置されているのか分からない肉に手は出したくない。それ以外に食材がない、という差し迫った状態ならやむを得ず、ということもあるだろうけど。
『ちょっと暗いし寒いし怖いですの』
「基本的に俺たちしかいないから、大丈夫だよ」
というか、闇の精霊が暗がりを怖がるとか……笑い話にしかならないな。
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