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42.俺、内部事情を知る

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 まだ第一研究所の人達が居座っているのなら、夕食の仕込みをどうしようか……と悩む。さすがにそろそろ手をつけないとマズい時間なんだが。

「だから、アタシが来たのよ」
「うん?」

 どうやら、マルチアはミモさんの指示で俺を探しに来ていたらしい。

「アタシの得意なのは風魔法だから、足音や匂いといった気配を消すのはお手の物なのよ」
「つまり?」
「アンタを厨房に連れて行けって。普通、研究員は他所よその厨房なんて入らないし、安全だろうから」

 マルチアの説明によれば、無属性の魔晶石を手に入れるために、研究員のプライベートスペース――つまり、この寮にも入りかねない勢いだということだ。なんとはた迷惑な。
 俺はマルチアに手を引かれ、厨房へと歩く。俺とマルチアの周囲に風の結界とやらが張られているらしいが、まったく分からない。

「あと、精霊はできるだけ使わないで隠しておいて」
「理由を聞いてもいいか?」
「精霊がいることがバレても厄介だから。力を使うとバレる確率が上がるの。言っておくけど、奴らにとっちゃ、精霊も魔晶石と同じだから」

 誰かと契約していようがお構いなしに持っていかれるわよ、と忠告され、俺はちらりと胸ポケットの中を窺った。エンとスイが少し怯えたようすでコクコクと頷いているところを見ると、二人も危機感を感じているらしい。
 本当は今日もエンとスイに夕食の支度を協力してもらおうと思っていたんだが、無理そうだな。まぁ、自力でできないことはないので、久々に自分一人でこなすのも悪くない。

 厨房に無事到着した俺は、エンとスイにポケットの中にいるよう言い含めてから、気合いを入れるように腕まくりをした。

§  §  §

「なるほど。勉強になるな。さすがマルチア」
「ちょっと、『さすが』ってアタシを何だと思ってたのよ!」

 夕食の片付けと朝食の仕込みをする俺の隣にいるのは、本人曰く「貧乏くじを引いた」マルチアだ。
 どうやら粘り強いのが二人ほど研究室に居座っているらしく、俺は万が一にも存在を知られないようにとマルチアによって護衛されている。護衛と言っても、相手がこっちに来そうな気配を察知したら逃げたり隠れたりするだけだが。
 で、単に座っているだけで暇そうだったので――片付けの手伝いは断られたので――アウグスト殿下を取り巻く情勢についてちょろっと尋ねてみたら、すごくわかりやすく説明してくれた。正直、意外だった。もっとこう、殿下愛に溢れて身のない説明が続くんだと思ってたのに、簡潔にまとめて教えてくれたんだよ。ほんと、びっくりだ。

「だから、殿下としては、成功し過ぎてもいけないけど、かといって足下をすくわれてもいけないのよ」

 その絶妙な加減をしているからこそすごいんだと、マルチアの殿下賛美が始まる。なるほど、最初に重要なことを言って、後から絶賛するパターンだったか。俺は心の耳栓をした。

――――マルチアの話をまとめると、後継者は第一王子と確定したわけではないらしく、まだアウグスト殿下が次期王位――いや、次期魔王と言った方がいいのか――につく可能性はあるようで、権力トップにしがみつきたい方々の暗躍とか根回しとか色々あるらしい。殿下と第一王子の仲は悪くないらしいが、何しろそれぞれの支援者が二人を近付かせたがらないので、そこはマルチアにもよく分からないんだとか。
 それで、第一王子をトップに頂く第一研究所は一方的に第二研究所を敵視するだけでなく、自分たちより格下だと勝手に位置づけてあれこれ高圧的にやらかすんだとか。そこには万が一第二研究所が成果を上げれば、相対的に第一研究所の評価が下がり、連鎖的に第一王子の評価も下がるという考えもあるんだろう。
 あとは、アウグスト殿下が最近、過剰魔力の副作用もなく元気なことも、第一王子の陣営を焦らせているらしい。副作用を理由の1つに挙げて、トップに相応しくないと言っていたらしいからな。
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