40 / 57
40.俺、深淵を覗く
しおりを挟む
『ミンナ、ツナガッテルヨ?』
『世界についての知識は共有していますが、閲覧権限があると言いますか……』
昼食の支度が一段落したのをいいことに、詳しく話を聞いてみると、どうやら精霊はその属性に関わらず、知識は根っこで繋がっているらしい。ただ、どこまでその知識を見ることができるのか、というのは、精霊としての格によって制限されているのだとか。
え、この話って、俺が知ってて大丈夫なのかな。
「いや、全然大丈夫じゃないからな」
「あ、エンツォ。昼食か?」
どうやら俺たちの話を聞いていたらしく、何やら頭痛を堪えるような仕草で厨房の入り口に立っていたのは、エンツォだった。その大きい図体にも関わらず、魔族偽装した俺と同じぐらいの――とても他人に危害を加えなさそうな――角の大きさには、安心感がある。
「今の話、一応ミモさんに上げとくぞ?」
「エンツォがそう言うってことは……」
「初耳だ。ミモさんレベルなら知った話なのかもしれないが、上げとくにこしたことはないからな」
「そうなのか……」
何やら精霊という存在の根幹に関わる話だったらしく、苦労性のエンツォは頭痛がする思いだったようだ。
「なんか、すまん。あぁ、皿に盛るから、ちょっと待ってくれ」
茹でておいた麺をさっと水で洗い、皿に盛ると、茹でた薄切り肉と野菜をその上に乗せて、最後にセサミをふんだんに使ったソースを掛けた。今日は少し蒸し暑いので冷製パスタだ。研究室は空調が効いているから、あまり関係ないけど。
「たぶん、ミモさんのことだ、根掘り葉掘り聞いてくると思うから、頑張れ」
「お、おぅ?」
そういえば、スイが飛び出したときも、目を輝かせて観察していたっけ。ミモさんの研究って、精霊と深く関係があったりするのかな。
「いや、違う」
エンツォに尋ねてみれば、精霊とは直接関係ないジャンルらしい。ちなみにミモさんの研究内容を尋ねてみたけど、さっぱり分からなかった。魔道具製作における魔力循環の効率化とその障害となる通魔時のロスの回避のためのスマートグリッドの構築云々……って言われても、何がなんだか。とりあえず、魔力を無駄なく使うためにどうすればいいかって話らしいけど。
「なんていうか、やっぱり国で運営してる研究所なわけだし、みんなすごいんだろうなぁ」
昼食を乗せたトレイを手にしたエンツォを見送った俺は、なんだか場違い感というか劣等感というか、疎外感に近い感情に打ちのめされていた。いや、人間と魔族、って時点でアウェーなのは分かってるんだけど、やっぱり、お邸で使い潰される予定だった俺とは、全然違うんだよなぁ。
汚い寮とか、散らかされた通路とか、隅に埃の溜まった研究室を思うと、そうは見えないんだけどさ。
『ママモ、スゴイ!』
『そうです。母上も掃除・洗濯・料理と幅広くこなしています』
「ありがとな」
ちょっと落ち込みそうになっただけなのに、ちゃんと励ましてくれるエンもスイもいい子だよなぁ。あぁ、癒される。
「でも、まだ増えるんだろうなぁ。研究員たちの予想だと、殿下のおかげで次もまた火属性っぽいけど」
『ママ、ヒノセイレイ、エンダケ!』
『エンの言う通りです。新たに火の属性が凝っても、火の精霊は生じません』
「え? どういうことだ?」
もしかして、また精霊の存在の深淵を覗き込むような話なのかと、ちょっと腰が引けながらも詳細を促す。
エンとスイが交互に説明してくれたことによると、どうやら基本的に精霊の生じるスポットには1つの精霊しか生じないらしい。たとえば火山口に火の精霊が生じると、そこはその精霊の司る場になり、そこから何度噴火をしても、その火の精霊の力になるだけで、新たな精霊は生じないんだとか。もちろん、同じ山でも別の火山口が出来れば話は別だが。水の精霊についても同じで、泉の湧き出るスポットなどで一度精霊が生じたら、2人目以降は生じないらしい。もちろん、何らかの理由で一人目がその場所を離れた場合は、2人目が生じるらしいが。
「そうすると、俺っていうスポットに、エンとスイの二人が生じたことになるんだけど、それはいいのか?」
『属性が異なるため、共有という形になっているようです。非常に稀な例ですが、複数属性のスポットというのもありますので』
スイは火山の噴火で火の精霊が生じ、噴火口が閉じて雨水などがたまれば水の精霊が生じることもあるという話をしてくれたが、そもそも噴火口が閉じるとか、よく分からない話だったので、一応納得したような相槌だけは打っておいた。いや、普通に暮らしてるだけなら、火山とか噴火口とか縁がないよな?
「色々と教えてくれてありがとうな。俺も頑張って勉強して、エンやスイのことを理解できるようになっておかないとな」
俺から生じたとは思えないぐらい良い子な二人の頭を撫でると、なんだか心が穏やかになる。
だが、そんな平和な時間は、駆け込むようにやってきたミモさんの怒濤の質問攻撃にあっけなく終了を告げたのだった。
『世界についての知識は共有していますが、閲覧権限があると言いますか……』
昼食の支度が一段落したのをいいことに、詳しく話を聞いてみると、どうやら精霊はその属性に関わらず、知識は根っこで繋がっているらしい。ただ、どこまでその知識を見ることができるのか、というのは、精霊としての格によって制限されているのだとか。
え、この話って、俺が知ってて大丈夫なのかな。
「いや、全然大丈夫じゃないからな」
「あ、エンツォ。昼食か?」
どうやら俺たちの話を聞いていたらしく、何やら頭痛を堪えるような仕草で厨房の入り口に立っていたのは、エンツォだった。その大きい図体にも関わらず、魔族偽装した俺と同じぐらいの――とても他人に危害を加えなさそうな――角の大きさには、安心感がある。
「今の話、一応ミモさんに上げとくぞ?」
「エンツォがそう言うってことは……」
「初耳だ。ミモさんレベルなら知った話なのかもしれないが、上げとくにこしたことはないからな」
「そうなのか……」
何やら精霊という存在の根幹に関わる話だったらしく、苦労性のエンツォは頭痛がする思いだったようだ。
「なんか、すまん。あぁ、皿に盛るから、ちょっと待ってくれ」
茹でておいた麺をさっと水で洗い、皿に盛ると、茹でた薄切り肉と野菜をその上に乗せて、最後にセサミをふんだんに使ったソースを掛けた。今日は少し蒸し暑いので冷製パスタだ。研究室は空調が効いているから、あまり関係ないけど。
「たぶん、ミモさんのことだ、根掘り葉掘り聞いてくると思うから、頑張れ」
「お、おぅ?」
そういえば、スイが飛び出したときも、目を輝かせて観察していたっけ。ミモさんの研究って、精霊と深く関係があったりするのかな。
「いや、違う」
エンツォに尋ねてみれば、精霊とは直接関係ないジャンルらしい。ちなみにミモさんの研究内容を尋ねてみたけど、さっぱり分からなかった。魔道具製作における魔力循環の効率化とその障害となる通魔時のロスの回避のためのスマートグリッドの構築云々……って言われても、何がなんだか。とりあえず、魔力を無駄なく使うためにどうすればいいかって話らしいけど。
「なんていうか、やっぱり国で運営してる研究所なわけだし、みんなすごいんだろうなぁ」
昼食を乗せたトレイを手にしたエンツォを見送った俺は、なんだか場違い感というか劣等感というか、疎外感に近い感情に打ちのめされていた。いや、人間と魔族、って時点でアウェーなのは分かってるんだけど、やっぱり、お邸で使い潰される予定だった俺とは、全然違うんだよなぁ。
汚い寮とか、散らかされた通路とか、隅に埃の溜まった研究室を思うと、そうは見えないんだけどさ。
『ママモ、スゴイ!』
『そうです。母上も掃除・洗濯・料理と幅広くこなしています』
「ありがとな」
ちょっと落ち込みそうになっただけなのに、ちゃんと励ましてくれるエンもスイもいい子だよなぁ。あぁ、癒される。
「でも、まだ増えるんだろうなぁ。研究員たちの予想だと、殿下のおかげで次もまた火属性っぽいけど」
『ママ、ヒノセイレイ、エンダケ!』
『エンの言う通りです。新たに火の属性が凝っても、火の精霊は生じません』
「え? どういうことだ?」
もしかして、また精霊の存在の深淵を覗き込むような話なのかと、ちょっと腰が引けながらも詳細を促す。
エンとスイが交互に説明してくれたことによると、どうやら基本的に精霊の生じるスポットには1つの精霊しか生じないらしい。たとえば火山口に火の精霊が生じると、そこはその精霊の司る場になり、そこから何度噴火をしても、その火の精霊の力になるだけで、新たな精霊は生じないんだとか。もちろん、同じ山でも別の火山口が出来れば話は別だが。水の精霊についても同じで、泉の湧き出るスポットなどで一度精霊が生じたら、2人目以降は生じないらしい。もちろん、何らかの理由で一人目がその場所を離れた場合は、2人目が生じるらしいが。
「そうすると、俺っていうスポットに、エンとスイの二人が生じたことになるんだけど、それはいいのか?」
『属性が異なるため、共有という形になっているようです。非常に稀な例ですが、複数属性のスポットというのもありますので』
スイは火山の噴火で火の精霊が生じ、噴火口が閉じて雨水などがたまれば水の精霊が生じることもあるという話をしてくれたが、そもそも噴火口が閉じるとか、よく分からない話だったので、一応納得したような相槌だけは打っておいた。いや、普通に暮らしてるだけなら、火山とか噴火口とか縁がないよな?
「色々と教えてくれてありがとうな。俺も頑張って勉強して、エンやスイのことを理解できるようになっておかないとな」
俺から生じたとは思えないぐらい良い子な二人の頭を撫でると、なんだか心が穏やかになる。
だが、そんな平和な時間は、駆け込むようにやってきたミモさんの怒濤の質問攻撃にあっけなく終了を告げたのだった。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる