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39.俺、疑問を持つ

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 荒くなった息を涙目で整えていた俺に、エンが飛びついてくる。

『ママー、ダイジョブ?』
「あぁ、ありがとう、エン」

 癒されるなぁ。エンは本当にいい子だ」

『母上?』

 俺は頬にしがみついていた精霊を手のひらに載せた。フォルムはエンと同じく幼児のような3頭身の人型。違うのは、薄い水色をしていることと、エンみたいに拙いしゃべり方じゃないところか。

「あぁ、君は水属性の精霊ってことでいいのか?」
『そうです。母上の身体の中で、外に出られる日を心待ちにしていました』

 なんだか、しっかりしてるな。シンシアが水属性が強いみたいだけど、性格はシンシアに似てないし、すぐに俺の身体に戻りたがっていたエンとも違って自立心旺盛だ。

『あまり力を蓄え過ぎると母上の身体が保たないので、少し早めに出てしまいましたが、大丈夫でしたか?』
「……あ、あぁ、大丈夫」

 いや、いま聞き捨てならないことがあったんだけどな! 俺の身体が保たないって、どういうことだよ!

『母上、僕に名前を貰えませんか?』
「そうだな。じゃぁ、スイでどうだろう」
『ありがとうございます』

 水の精霊スイとしっかり契約したところで、俺は一連の流れをしっかり見物――観察?――していたミモさんに向き直る。

「ミモさん、もしかして、俺の中に精霊が居座り続けると、大変なことになるってことですか?」
『否定はできねぇが、あまり心配しなくてもいいってよ』

 代弁者のネズミ氏の言葉に俺は首を傾げる。

『その水の精霊の言うように、あんまり居座り続けると、お前っちの身体は壊れるんだろうぜ? だけどな、エンのときを思い出してみろよ』
「って言われても」

 同じように苦しい思いをして吐き出したことしか覚えていないいだが。

『エンは出るつもりがなかったのに、出ただろ? 生まれた精霊の意思は関係ねぇ。ある程度になりゃ、自動的に吐き出すようにはなってんだろーぜ』
「なるほど……?」

 確かに、エンが戻りたがっていたってことは、エンにとって外に出ることは不本意だったんだろう。それでも出てしまったのなら、ネズミ氏の言うように、ある程度になれば、自動的に外に出るのか。

『まぁ、進んで母体を壊すよーな真似は、誰だってしねぇよ』
「母体言うな」

 というか、今回、だれも教えていないのに「母上」呼びなのはどういうことなんだよ!


§  §  §


「おぉー、すごいな、スイ」

 茹でた薄切り肉は、スイの出した冷水であっという間に熱が取れた。なんて便利なんだ。

『この程度であれば、朝飯前ですよ、母上』
『ママー、エンモ、ナンカ、テツダウ!』

 張り合っているのか、張り切っている様子のエンには悪いが、今日の昼食にはエンの出番はない。

「そうだな。今日は後でちょっとした焼き菓子でも作ろうか。そのときは、エンが手伝ってくれるか?」

 俺の提案に、こくこくと勢いよく首を縦に振るエン。あぁ、癒されるなぁ。
 料理に火は欠かせないし、そこに頑張れば氷も作れるというスイまで加わって、おさんどんは随分とレパートリーが増える。ここぞとばかりに殿下が料理本をくれたしな。明日は水菓子に挑戦してもいいかもしれないな。

「そういえば、エンやスイがいた俺の中って、どうなってるんだ?」

 相反する属性は反発しあって暴発するとかいう話も、確か研究員同士の口論のときに聞いたし、まさか俺の中に属性ごとにきっちり分けた仕切りとかあるわけもないし、……なんだか不安に思って口に出すと、エンとスイが顔を見合わせた。

『グルグルデ、ウニウニナノ!』
『強いて言うならば、創世の頃に世界の素となった混沌のようなものでしょうか』

 なんだろう。二人の発言が不穏にしか聞こえない。特にスイは、その知識はどこから来るのかと尋ねたい。

「ちゃんと聞いたことはなかったけど、エンやスイは精霊として生じたときから、なんていうか言葉とか、色々な知識があるよな? どうしてなんだ?」

 すると、二人はまた顔を見合わせた。張り合っているから、仲が良くないのかと心配したけど、こうして見ると、そんなことはないようだ。
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