33 / 57
33.俺、仮説を聞く
しおりを挟む
「えーと、注がれた魔力が俺の中で属性と魔力に分かれて、魔力は無属性の魔晶石になって、属性がこうなったと?」
「そうだ。理解力は悪くないな。よいことだ」
いやいや、頭を撫でられても嬉しい年齢じゃないぞ。いや、嬉しくないかと言われれば、殿下に褒められたことは嬉しいけどさ。
「殿下からもらった魔力は火属性が強いから、火属性の精霊になって俺から飛び出したっていうことですか?」
「うむうむ、賢い賢い」
意地でも「生まれた」という言葉を使わないようにして確認すると、またさらに頭を撫でられた。俺、殿下から見るとちっちゃい子供なのかな?
『パパ! エン! ナデテ!』
「おぉ、そうかそうか。撫でて欲しいか」
俺の手のひらで両手を広げてアピールするエンを、アウグスト殿下は寛大にも撫でている。いや、寛大にって言うよりは、面白がっている感じだな。どちらにしても、殿下にも危害が加わらないみたいなので、そこに関しては一安心だ。
「オレの立てた仮説については、あとでミモに検証させることにしよう。また火の精霊が生まれるかもしれんし、別の属性の精霊かもしれぬがな」
「……」
「なんだ。不景気な顔だな」
「いや、エンが出てくるとき、結構苦しかったんで」
「ふむ……」
殿下はまじまじと俺の顔を見つめた。顔立ちの整った殿下に見つめられると、なんだか気恥ずかしくて困る。
「産みの苦しみというのは、そういうものではないのか?」
「産んでないです! 吐き出してるだけですから!」
俺の言葉に、大口を開けて笑った殿下は、「なるほど、引っかかっているのはそこか」とバシバシと膝を叩いた。
「普通、男なのに『ママ』って呼ばれても微妙だと思います」
「道理だな」
そこは同意を示してくれる殿下だが、その目は諦めろと言っている。まぁ、エンに定着してしまったのは、たぶんもう戻せないのは研究員たちに聞いた。精霊と契約するときは、最初が肝心なんだっていう経験談とともに。
だから、それを知っていながら、どうして俺の「ママ」呼びを推奨したのかなぁ……!
§ § §
『ママ! ここ?』
「あぁ、頼むよ」
結論、エンはとっても良い子でした、まる。
エンが出て来たときは、どうなることかと不安になったもんだが、殿下に失礼はしないし、調理場で食材を指定通りに炙ってくれるし、ゴミも燃やしてくれるし、暗い場所で明かりになってくれるし、結構いいこと尽くめで嬉しい。
今も鶏の手羽肉を炙っていい感じの焦げ目を作ってくれている。もちろん、オーブンだけでちゃんと火は通っているんだが、こういう焦げ目による食感って、侮れないんだよ。食べるときに皮がパリッってしてた方が美味しく感じるだろ? そういうことだ。
主席研究員であるところのミモさんによると、殿下が披露した仮説は信憑性が高いってことで、次に俺から出て来るのは――くどいようだが、決して『生まれる』んじゃない――同じ火の精霊か、水の精霊じゃないかという予測が立てられた。火はアウグスト殿下の、水は……シンシアが水属性が強いらしい。まぁ、注意を受けるまで結構作ってたし、今もちょくちょく作らされてるからな。それは納得だ。
ミモさん――正確には代弁役のネズミ氏――が教えてくれたんだが、精霊というのは、相手が好意的で、かつ、こちらの提示した名前を受け入れた時点で、契約が結ばれた状態になるらしい。精霊と契約を結ぶのは、個人の資質に左右されて難しいものなんだそうだが、そもそも俺の中に凝った属性から生じる時点で、俺を親と認識するらしく、エンとの契約はスムーズに進んだ。
ただ、今後も同じようにいくとは限らないため、身体に変調があれば、すぐに教えるように言われた。ミモさんが俺のことを心配してくれるんだ、と思ったけど、精霊が生じる瞬間をよく見たいだけなんだと、後でエンツォに教えてもらった。本当に俺の存在って軽いよな。
「そうだ。理解力は悪くないな。よいことだ」
いやいや、頭を撫でられても嬉しい年齢じゃないぞ。いや、嬉しくないかと言われれば、殿下に褒められたことは嬉しいけどさ。
「殿下からもらった魔力は火属性が強いから、火属性の精霊になって俺から飛び出したっていうことですか?」
「うむうむ、賢い賢い」
意地でも「生まれた」という言葉を使わないようにして確認すると、またさらに頭を撫でられた。俺、殿下から見るとちっちゃい子供なのかな?
『パパ! エン! ナデテ!』
「おぉ、そうかそうか。撫でて欲しいか」
俺の手のひらで両手を広げてアピールするエンを、アウグスト殿下は寛大にも撫でている。いや、寛大にって言うよりは、面白がっている感じだな。どちらにしても、殿下にも危害が加わらないみたいなので、そこに関しては一安心だ。
「オレの立てた仮説については、あとでミモに検証させることにしよう。また火の精霊が生まれるかもしれんし、別の属性の精霊かもしれぬがな」
「……」
「なんだ。不景気な顔だな」
「いや、エンが出てくるとき、結構苦しかったんで」
「ふむ……」
殿下はまじまじと俺の顔を見つめた。顔立ちの整った殿下に見つめられると、なんだか気恥ずかしくて困る。
「産みの苦しみというのは、そういうものではないのか?」
「産んでないです! 吐き出してるだけですから!」
俺の言葉に、大口を開けて笑った殿下は、「なるほど、引っかかっているのはそこか」とバシバシと膝を叩いた。
「普通、男なのに『ママ』って呼ばれても微妙だと思います」
「道理だな」
そこは同意を示してくれる殿下だが、その目は諦めろと言っている。まぁ、エンに定着してしまったのは、たぶんもう戻せないのは研究員たちに聞いた。精霊と契約するときは、最初が肝心なんだっていう経験談とともに。
だから、それを知っていながら、どうして俺の「ママ」呼びを推奨したのかなぁ……!
§ § §
『ママ! ここ?』
「あぁ、頼むよ」
結論、エンはとっても良い子でした、まる。
エンが出て来たときは、どうなることかと不安になったもんだが、殿下に失礼はしないし、調理場で食材を指定通りに炙ってくれるし、ゴミも燃やしてくれるし、暗い場所で明かりになってくれるし、結構いいこと尽くめで嬉しい。
今も鶏の手羽肉を炙っていい感じの焦げ目を作ってくれている。もちろん、オーブンだけでちゃんと火は通っているんだが、こういう焦げ目による食感って、侮れないんだよ。食べるときに皮がパリッってしてた方が美味しく感じるだろ? そういうことだ。
主席研究員であるところのミモさんによると、殿下が披露した仮説は信憑性が高いってことで、次に俺から出て来るのは――くどいようだが、決して『生まれる』んじゃない――同じ火の精霊か、水の精霊じゃないかという予測が立てられた。火はアウグスト殿下の、水は……シンシアが水属性が強いらしい。まぁ、注意を受けるまで結構作ってたし、今もちょくちょく作らされてるからな。それは納得だ。
ミモさん――正確には代弁役のネズミ氏――が教えてくれたんだが、精霊というのは、相手が好意的で、かつ、こちらの提示した名前を受け入れた時点で、契約が結ばれた状態になるらしい。精霊と契約を結ぶのは、個人の資質に左右されて難しいものなんだそうだが、そもそも俺の中に凝った属性から生じる時点で、俺を親と認識するらしく、エンとの契約はスムーズに進んだ。
ただ、今後も同じようにいくとは限らないため、身体に変調があれば、すぐに教えるように言われた。ミモさんが俺のことを心配してくれるんだ、と思ったけど、精霊が生じる瞬間をよく見たいだけなんだと、後でエンツォに教えてもらった。本当に俺の存在って軽いよな。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる