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26.俺、備品扱いされる

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 罰ゲームのように殿下と一緒に寝ること数日、いつの間にか俺についてのルールが研究員の間で定められていたらしい。

『1、殿下の魔力で作った魔晶石は順番に従って支給される
 2、追加で魔晶石が欲しい場合は、自分の魔力を渡した上で魔晶石を作り、それを使用する(他研究グループ1名以上の立ち会い必須)』

 正しくは俺についてのルールというよりも、俺が作る魔晶石についてのルールだ。普通、魔晶石を作ると作成者の持つ属性を含む魔晶石が作られるが、どの属性も持たない魔晶石というのは使い勝手の良いものらしく、引く手あまたらしい。俺がじゃなくて、俺が作る魔晶石が。
 詳しい説明を聞けば納得する話だ。以前、シンシアが口にしていた『魔力反発』の件と同じだ。生物から空気中に漏れた余剰魔力が属性の相性によっては大爆発を起こすことがあるらしい。研究所は保有魔力の多い者ばかりなので、余計にその危険度は増す。普通はしっかり魔力制御できているから問題ないそうだが、口論など感情の高ぶりで制御が甘くなると、やっぱり漏れてしまうものらしい。
 研究所の危険度の話は置いておいて、要は研究員がおのおの進めている研究の中でも、同じく属性がネックになっているものがかなりあるらしい。例えば、水を浄化する仕組みを試行錯誤している研究員の魔力が火に偏っていた場合、どうしてもその属性が邪魔をして研究が進まない。かといって、試行のたびに水属性の他人の手を借りるのも煩わしい。そんなところに俺が作る無属性の魔晶石があれば、万事解決というわけだ。

(俺、どう考えても濾過装置だよな……)

 実験動物よりは昇格したと喜ぶべきか、それとも完全に研究所の備品になったことを嘆くべきか、どっちだろうか。
 それでも悲観的にならないのは、厨房を預かるという仕事があることと、殿下の件がある限り身体の安全が保障される確信があるからか。

「ミケー、またよろしくー!」

 追加の魔晶石が欲しくて声を掛けてくる研究員はだいたい決まっている。その一人がこのシンシアだ。ちなみに今日の爪の色は黄緑。

「毎日塗り分けるのは、大変じゃないのか?」
「ん? あぁ、これー? 萌葱色でさわやかっしょ?」

 うっかり黄緑色とか言わなくて良かったと、内心で胸をなで下ろす。お屋敷のメイドたちにも共通するが、俺にとっては些細な違いでも、彼女たちにとっては大きな違いらしいのだ。服の色とかレース模様だとか、うかつなことを口走れば、彼女たちの怒りゲージはあっという間にMAXになる。恐ろしい。

「そうだな。シンシアは爪の先まで気を遣っているんだな」
「分かってるじゃーん。ってことで、魔晶石よろしく!」

 研究室の隅に放置されていた戸棚を拭いていた俺は、容赦なく測定器の方へと引きずられる。この「引きずられる」というのは比喩じゃない。魔族だからなのか、シンシアは力が強いんだ。

「じゃ、シャラウィ、確認よろ!」
「了解なんだねぃ」

 もはや慣れたこのパターン。シンシアに顎で使われるシャラウィは俺の魔力を測る。そしてシンシアに魔力を注がれて、再び魔力を測る。その差分だけ魔晶石を作るってわけだ。

「……なぁ、疑問に思ったんだが」
「何?」
「シンシアは研究のために無属性の魔晶石を使ってるけど、それだと最終的にできあがるのって、無属性の魔晶石が前提のものにならないのか?」

 俺の疑問に何か問題があったのか、シンシアはシャラウィを見た。

「そ、それは……」
「あー……、これは予想外だねぃ」
「ちょっとシャーくん?」

 シンシアは肩をすくめたシャラウィを睨むように見ている。

「方向性に問題ないかどうかの基礎実験に使うならともかく、実用化を目指す段階で乱用するのはあまりよくないんだねぃ。そこはミケーレの指摘通りなんだねぃ」
「な、なんだってシャーくんがそんなこと言うのよ!」

 おや、これはもしかして、シンシアより年下のシャラウィの方が優秀とかそういうフラグか?
 ちょっと俺はわくわくしながら成り行きを見守ることにした。

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