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22.俺、地位を知る

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『それで、酵母と食材の注文についてだったな?』

 ミモさんの肩に乗るネズミが教えてくれたところによると、酵母は氷室ではなく、厨房の棚に保管してあったが、長いこと放置されてダメになっていたので、廃棄したとのことだ。氷室には保管温度の関係で入れられないらしく、発注するしかないとのこと。
 食材の注文については、ミモさんが管理しているそうな。これまでは研究員が作りやすい、または、保存のきく食材を中心に発注していたが、俺がここに来たので、注文内容も変えるらしい。

『ただ、外部とてめぇと接触させるわけにはいかねぇからな。食材が配達されるときは、研究室に引っ込んどいてくれよ』
「でも、注文した食材がちゃんと届いてるかどうかの確認は」
『悪いがな。人間なんぞをここに迎え入れることに前例もなけりゃ、人間を虫けら同然に扱う輩も多いんでな』
「……虫けらかよ」

 そりゃ、俺なんかでご機嫌を取れるなら、ほいほい差し出すわな。それだけの力の差があるってことか。

『そもそもお前を内密に引き入れているからな。バレるのはまずいんだよ』
「了解したよ」

 要は研究員以外に俺という人間がいることが知られると、速攻で命の危険があるかもしれないってことらしい。それならおとなしく従うことに意義はない。俺だって命は惜しいからな。

「あーっ! 主席ってば、こんなとこにいたんだー」

 厨房から頭を覗かせたのは、シンシアだ。扉にかかった指の先は、今日は紅白ストライプに塗り分けられている。

「ミケの実験計画のハンコ欲しいんだけどー?」
『とりあえず見せてみろよ』

 無駄に偉そうなネズミ氏の言葉に、シンシアはツインテールを揺らしながらミモさんに書類を渡す。あれ、もしかして、最初にネズミ氏を連れて来なかったのって、厨房だから遠慮してくれていたのかな。だとしたら、ミモさんって、すごい気遣いの人じゃないか。
 ……って、あれ? 今、シンシアはミモさんを何て呼んでた?

『却下だな。前にも言った通り、被験体の安全確保が甘い』
「って言ったってー、魔力もわかんないんじゃしょうがないじゃーん」

 被験体って、俺のことだよな。安全確保は是非ともお願いしたいところなんだが……。
 おや、ミモさんがこちらを振り向いて、何やら考え込んでいる。

『魔力を感じない? 誰か通魔試験はしたのか?』
「えー? うーんと、誰もしてないかも?」

 俺もそんな謎な試験はしていないと思うので、とりあえずコクコクと頷いてみせる。

『ミケーレ、お前っちは今朝の測定は終わってるか?』
「え? あぁ、朝食の準備が終わったらと思ってたんだが」
『ちょっと、ツラ貸せ』

 ミモさんに手首を掴まれ、引っ張られるように到着した研究室は、まだ半分も仕事を始めていない。室内には8割方いるけれど、寝ぼけ眼だったり、まだ寝袋の中だったりしている。

『おーい、エンツォ。こいつの測定』
「ミモさん!? あ、はい、すぐに」

 やっぱり、俺の聞き間違いじゃなかったんだなぁ。エンツォもまるで上司に仕事を振られたかのような答え方だし。シンシアが「主席」って呼んでたってことは、この研究所の中では偉い方の人なんだろう。子供かと思うぐらいの体格なのに。やっぱり魔族ってよく分からないな。

「……また妙に増えたな。一晩過ぎても増えるときと増えないときの差はなんなんだ」

 エンツォの呟きに、なんだか申し訳ないと思っていたら、両手をミモさんに掴まれた。

『これからお前っちの身体に魔力を通す。違和感があったらすぐ教えろよ?』
「あ、あぁ」

 さっき言っていた通魔試験というのは、文字通り、身体に魔力を通すことらしい。戸惑う俺にエンツォが教えてくれた。本当に配慮の出来る人だよ、エンツォは。

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