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17.俺、ツンされる
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「アンタに餌付けされる研究員ばかりだなんて思わないでよね!」
朝食の準備中にやってきた美女に、突然、指を突きつけられながら宣言された。
正直なところ、痛いところを突かれたなぁ、というのが本音だ。こうやって炊事掃除を受け持つことで、実験動物以外の利用価値を見せれば命の保証がされやすいんじゃないかと思っていたのは確かだ。というか、今までそのことを誰も指摘してこなかったので、もはや俺の価値は実験動物で固定されたまま不動の状態なのかと心配していたぐらいだ。でも、俺にこうして敵意を露わにしている人がいるということは、逆に俺の脱・実験動物の計画は間違っていなかったということでもある。良かった良かった。
そんなことを、ナッツバターを作るためにナッツをひたすらゴリゴリ擂りながら考えた俺は、うんうん、と頷いて作業に没頭することにした。
「ちょ、ちょっとなんとか言ったらどうなの?」
「別に指摘してくれた通りだから、反論も何もないんだが」
人数が多いだけに細かくするナッツの量もなかなかのものだ。オーツ麦をミルクで煮たポリッジに添えるだけなので、一人あたりは少なめで構わないかもしれないが、欲しい量っていうのは個人差があるからなぁ。
「あぁ、リンゴの酸味もあった方がいいよな。生で食べるにはちょっと鮮度がアレだったし、一緒に煮るか」
「ちょっと無視しないでよ!」
さっきまで厨房の入り口にいた美女は、いつの間にか俺の間近まで来て声を張り上げた。
仕方なく改めて美女を見る。頭のてっぺんに慎ましやかな大きさながらネジのように螺旋状になっている凶悪な角を持っていた。頭突きされたら俺は死ぬ。俺を睨む瞳は黒に近いぐらいに濃い青色だった。なお、白衣を羽織っていても分かるほどボンキュッボンの素晴らしい身体をお持ちだが、完全に敵意を向けられているので、俺としてはささやかな観賞用にするしかない。
「えーと、どちら様?」
「話すのは初めてね。研究員のマルチアよ。今日の食事当番でもあるわ」
「なるほど。それじゃ、リンゴの皮を剥いて摺り下ろしてくれるかな、とりあえず3つ。で、1つは皮がついたままでいいから薄くスライスしてもらえるかな」
「分かったわ。……って違うわよ!」
「え、食事当番なんだよな?」
「それはそうだけど。問題はそこじゃなくて……」
「餌付け云々については作業しながらでもいいだろ? 朝食も早い人は早いから、とっとと作っちゃおう」
「え? えぇ……」
どんだけ怖い人だろうかと思っていたら、意外と素直な人で、俺はほっと胸をなで下ろした。
「なんでアタシがリンゴの皮むきなんて……」
「難しいなら、俺の代わりにナッツを混ぜ続けてくれてもいいよ。オイルをゆっくり足しながら柔らかさを――――」
「皮むきくらいできるわよ!」
横目で確認すると、ちゃんと常識的な薄さで皮を剥いてくれていたので、俺は安心してナッツバター作りに集中することにした。
朝食の準備中にやってきた美女に、突然、指を突きつけられながら宣言された。
正直なところ、痛いところを突かれたなぁ、というのが本音だ。こうやって炊事掃除を受け持つことで、実験動物以外の利用価値を見せれば命の保証がされやすいんじゃないかと思っていたのは確かだ。というか、今までそのことを誰も指摘してこなかったので、もはや俺の価値は実験動物で固定されたまま不動の状態なのかと心配していたぐらいだ。でも、俺にこうして敵意を露わにしている人がいるということは、逆に俺の脱・実験動物の計画は間違っていなかったということでもある。良かった良かった。
そんなことを、ナッツバターを作るためにナッツをひたすらゴリゴリ擂りながら考えた俺は、うんうん、と頷いて作業に没頭することにした。
「ちょ、ちょっとなんとか言ったらどうなの?」
「別に指摘してくれた通りだから、反論も何もないんだが」
人数が多いだけに細かくするナッツの量もなかなかのものだ。オーツ麦をミルクで煮たポリッジに添えるだけなので、一人あたりは少なめで構わないかもしれないが、欲しい量っていうのは個人差があるからなぁ。
「あぁ、リンゴの酸味もあった方がいいよな。生で食べるにはちょっと鮮度がアレだったし、一緒に煮るか」
「ちょっと無視しないでよ!」
さっきまで厨房の入り口にいた美女は、いつの間にか俺の間近まで来て声を張り上げた。
仕方なく改めて美女を見る。頭のてっぺんに慎ましやかな大きさながらネジのように螺旋状になっている凶悪な角を持っていた。頭突きされたら俺は死ぬ。俺を睨む瞳は黒に近いぐらいに濃い青色だった。なお、白衣を羽織っていても分かるほどボンキュッボンの素晴らしい身体をお持ちだが、完全に敵意を向けられているので、俺としてはささやかな観賞用にするしかない。
「えーと、どちら様?」
「話すのは初めてね。研究員のマルチアよ。今日の食事当番でもあるわ」
「なるほど。それじゃ、リンゴの皮を剥いて摺り下ろしてくれるかな、とりあえず3つ。で、1つは皮がついたままでいいから薄くスライスしてもらえるかな」
「分かったわ。……って違うわよ!」
「え、食事当番なんだよな?」
「それはそうだけど。問題はそこじゃなくて……」
「餌付け云々については作業しながらでもいいだろ? 朝食も早い人は早いから、とっとと作っちゃおう」
「え? えぇ……」
どんだけ怖い人だろうかと思っていたら、意外と素直な人で、俺はほっと胸をなで下ろした。
「なんでアタシがリンゴの皮むきなんて……」
「難しいなら、俺の代わりにナッツを混ぜ続けてくれてもいいよ。オイルをゆっくり足しながら柔らかさを――――」
「皮むきくらいできるわよ!」
横目で確認すると、ちゃんと常識的な薄さで皮を剥いてくれていたので、俺は安心してナッツバター作りに集中することにした。
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