上 下
17 / 57

17.俺、ツンされる

しおりを挟む
「アンタに餌付けされる研究員ばかりだなんて思わないでよね!」

 朝食の準備中にやってきた美女に、突然、指を突きつけられながら宣言された。
 正直なところ、痛いところを突かれたなぁ、というのが本音だ。こうやって炊事掃除を受け持つことで、実験動物以外の利用価値を見せれば命の保証がされやすいんじゃないかと思っていたのは確かだ。というか、今までそのことを誰も指摘してこなかったので、もはや俺の価値は実験動物で固定されたまま不動の状態なのかと心配していたぐらいだ。でも、俺にこうして敵意を露わにしている人がいるということは、逆に俺の脱・実験動物の計画は間違っていなかったということでもある。良かった良かった。
 そんなことを、ナッツバターを作るためにナッツをひたすらゴリゴリりながら考えた俺は、うんうん、と頷いて作業に没頭することにした。

「ちょ、ちょっとなんとか言ったらどうなの?」
「別に指摘してくれた通りだから、反論も何もないんだが」

 人数が多いだけに細かくするナッツの量もなかなかのものだ。オーツ麦をミルクで煮たポリッジに添えるだけなので、一人あたりは少なめで構わないかもしれないが、欲しい量っていうのは個人差があるからなぁ。

「あぁ、リンゴの酸味もあった方がいいよな。生で食べるにはちょっと鮮度がアレだったし、一緒に煮るか」
「ちょっと無視しないでよ!」

 さっきまで厨房の入り口にいた美女は、いつの間にか俺の間近まで来て声を張り上げた。
 仕方なく改めて美女を見る。頭のてっぺんに慎ましやかな大きさながらネジのように螺旋状になっている凶悪な角を持っていた。頭突きされたら俺は死ぬ。俺を睨む瞳は黒に近いぐらいに濃い青色だった。なお、白衣を羽織っていても分かるほどボンキュッボンの素晴らしい身体をお持ちだが、完全に敵意を向けられているので、俺としてはささやかな観賞用にするしかない。

「えーと、どちら様?」
「話すのは初めてね。研究員のマルチアよ。今日の食事当番でもあるわ」
「なるほど。それじゃ、リンゴの皮を剥いて摺り下ろしてくれるかな、とりあえず3つ。で、1つは皮がついたままでいいから薄くスライスしてもらえるかな」
「分かったわ。……って違うわよ!」
「え、食事当番なんだよな?」
「それはそうだけど。問題はそこじゃなくて……」
「餌付け云々については作業しながらでもいいだろ? 朝食も早い人は早いから、とっとと作っちゃおう」
「え? えぇ……」

 どんだけ怖い人だろうかと思っていたら、意外と素直な人で、俺はほっと胸をなで下ろした。

「なんでアタシがリンゴの皮むきなんて……」
「難しいなら、俺の代わりにナッツを混ぜ続けてくれてもいいよ。オイルをゆっくり足しながら柔らかさを――――」
「皮むきくらいできるわよ!」

 横目で確認すると、ちゃんと常識的な薄さで皮を剥いてくれていたので、俺は安心してナッツバター作りに集中することにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

処理中です...