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16.俺、汚部屋を掃除する

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「俺、何やってるんだろうなぁ」

 決められた時間に魔力測定をして、厨房の後片付けと昼食準備をする以外は、シャラウィの部屋でせっせと掃除をしていた。いや、部屋って言っていいのかな、これ。あと、掃除じゃなくてまだ片付けのレベルだよな。
 ちなみに、魔力測定は何故かジジさんに怒鳴られるのがセットになっている。俺はさっぱり魔力なんて分からないのに、理不尽だ。数値に一貫性がないからって怒ることないよな。魔晶石を作っていないので減ってはいないが、増加も微々たるものらしい。
 シャラウィから借りた布で口と鼻を覆い、明らかにゴミと分かるものをポイポイと袋に放り込んでいく。本や書類は埃を払って重ねて置いてある。異臭の元は食べカスや謎の草とキノコのようだが、草とキノコは研究資料らしいので、分別して別の袋に入れた。

「うっわ、カピカピ。これ、何年放置してたんだ?」

 研究所では一番年下だというシャラウィだが、そういえば何歳なのか聞いてなかったな。でも、一年二年で汚せるレベルじゃない気がする。もし、一、二年でここまでの汚部屋を作れるのなら、シャラウィの親は育て方を間違ったと言えるだろう。だって、足の踏み場しかないし。いや、正しくは飛び石か? 奥へ行くための足場だけがぽこっと床が露わになっていた。

「これ、他の研究員も似たような感じになってるんじゃないだろうか。研究室に寝泊まりしてたり、空き部屋が物置になっちゃってるってことは、荷物の整理ができてないってことだろうしな」

 シャラウィの部屋を片付けた後、もしかしたら似たようなお願いをされるかもしれない。それをキツいととるか、小銭稼ぎのチャンスととるかは微妙なところだ。

「お、これは書類か? なんかの図解……いや、違うな」

 ゴミなのかどうか確認するために内容をさらっと確認した結果、なんか申し訳ない気持ちになった。それは親と思われる人物からの手紙で、ついていた図解は見合いの釣書&姿絵のようなものだった。

「いい嫁を見つけたから帰って来いってか。こういうところも人間と魔族で違いはないんだな」

 書類とはまた別の場所にそっと置いておくと、俺は片付けを再開した。


§  §  §


「えー? シャーくんってば、そんなことも説明してないわけー?」

 昼食の準備に来たシンシアに、シャラウィの部屋の掃除の進捗具合を話していると、なぜか呆れられた。

「それぞれの部屋にはー、ちゃんと空気を清浄化させる魔道具があるわけー。それなのにあれだけ臭いってことはー、魔力切れか故障か起こしてるはずだっての」
「そんな魔道具があるのか?」
「厨房にも換気に使ってるのがあるよ。ほらアレ」

 シンシアが指差した先にあるのは、何の変哲もない黒っぽい四角い箱だった。というか、教えてもらわなければ、何も気付かなかったに違いない。それほど存在感が希薄だった。高いところに置いてあるから掃除も後回しだったし。

「部屋にあるのもアレと同タイプのはずだし。シャーくんに確認させときなよー? 壊れててもシャーくんなら直せるだろーし」
「直せるのか」
「作りはカンタンだしー、ウチの研究員なら誰でも直せると思うよー?」

 まぁ、純粋に考えて、第二王子がトップになっている研究所なんだから、ここの研究員ってみんな優秀なはずなんだよな。シャラウィやシンシアの口調を聞いてると、全然そんな感じに思えないけど。

「で、この芋どうすんのー? これ以上ないってくらいキレイに洗ったけど」
「あぁ、くし切りにして揚げるんだ。こっちのボウルに水張ってもらえるか。俺が切るから」

 くし切りにしたジャガイモを水にさらす。今更なんだけど、ここの厨房の包丁が切れ味良すぎて怖い。

「あとはさっき作ったパスタを絡めるソースを作るから、トマトを湯むきしてくれるか」
「ゆむき?」

 俺は首を傾げるシンシアに、湯むきのやり方を教える。簡単な作業だから大丈夫だろうと思って自分の作業の傍らチェックしていたら、面白がってむいてくれた。

「ねー、これつるんってすごいんだけどー」
「そういうもんだからな」

 シンシアの手伝いのおかげもあって、トマトベースにベーコンとスピナッチを加えたソースが完成し、俺は朝食のときのシャラウィを真似して配膳の仕方を大きく書くと、シンシアと俺の分を作る。

「うまー! ちょ、これ好きー!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「もう殿下に料理番として雇ってもらえばいいのにー」
「いや、もう殿下とはそういう話で進んでる」
「え!?」

 シンシアが突然目を丸くして硬直した。
 え、俺、なんかまずいこと言ったか?

「ちょっとー! そーゆーことは早く言ってよねー。あたし料理当番だからって頑張っちゃったじゃん!」
「いや、一応、俺が慣れるまでは当番の人に居てもらわないと困るんだが」
「ええぇぇぇーー?」

 すごい不満そうに口の先を尖らせたので、俺の分のフライドポテトもそっと進呈したら、ちょっぴり機嫌を直してくれた。いや、俺、機嫌を取る必要はあったのか? 殿下も俺が慣れるまではってことで同意してくれたし、別にそれを言えば良かったんじゃ……

「うまー!」

 シンシアが満面の笑みでフライドポテトを食べていたので、まぁいいか、と俺は考えるのをやめた。
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