16 / 57
16.俺、汚部屋を掃除する
しおりを挟む
「俺、何やってるんだろうなぁ」
決められた時間に魔力測定をして、厨房の後片付けと昼食準備をする以外は、シャラウィの部屋でせっせと掃除をしていた。いや、部屋って言っていいのかな、これ。あと、掃除じゃなくてまだ片付けのレベルだよな。
ちなみに、魔力測定は何故かジジさんに怒鳴られるのがセットになっている。俺はさっぱり魔力なんて分からないのに、理不尽だ。数値に一貫性がないからって怒ることないよな。魔晶石を作っていないので減ってはいないが、増加も微々たるものらしい。
シャラウィから借りた布で口と鼻を覆い、明らかにゴミと分かるものをポイポイと袋に放り込んでいく。本や書類は埃を払って重ねて置いてある。異臭の元は食べカスや謎の草とキノコのようだが、草とキノコは研究資料らしいので、分別して別の袋に入れた。
「うっわ、カピカピ。これ、何年放置してたんだ?」
研究所では一番年下だというシャラウィだが、そういえば何歳なのか聞いてなかったな。でも、一年二年で汚せるレベルじゃない気がする。もし、一、二年でここまでの汚部屋を作れるのなら、シャラウィの親は育て方を間違ったと言えるだろう。だって、足の踏み場しかないし。いや、正しくは飛び石か? 奥へ行くための足場だけがぽこっと床が露わになっていた。
「これ、他の研究員も似たような感じになってるんじゃないだろうか。研究室に寝泊まりしてたり、空き部屋が物置になっちゃってるってことは、荷物の整理ができてないってことだろうしな」
シャラウィの部屋を片付けた後、もしかしたら似たようなお願いをされるかもしれない。それをキツいととるか、小銭稼ぎのチャンスととるかは微妙なところだ。
「お、これは書類か? なんかの図解……いや、違うな」
ゴミなのかどうか確認するために内容をさらっと確認した結果、なんか申し訳ない気持ちになった。それは親と思われる人物からの手紙で、ついていた図解は見合いの釣書&姿絵のようなものだった。
「いい嫁を見つけたから帰って来いってか。こういうところも人間と魔族で違いはないんだな」
書類とはまた別の場所にそっと置いておくと、俺は片付けを再開した。
§ § §
「えー? シャーくんってば、そんなことも説明してないわけー?」
昼食の準備に来たシンシアに、シャラウィの部屋の掃除の進捗具合を話していると、なぜか呆れられた。
「それぞれの部屋にはー、ちゃんと空気を清浄化させる魔道具があるわけー。それなのにあれだけ臭いってことはー、魔力切れか故障か起こしてるはずだっての」
「そんな魔道具があるのか?」
「厨房にも換気に使ってるのがあるよ。ほらアレ」
シンシアが指差した先にあるのは、何の変哲もない黒っぽい四角い箱だった。というか、教えてもらわなければ、何も気付かなかったに違いない。それほど存在感が希薄だった。高いところに置いてあるから掃除も後回しだったし。
「部屋にあるのもアレと同タイプのはずだし。シャーくんに確認させときなよー? 壊れててもシャーくんなら直せるだろーし」
「直せるのか」
「作りはカンタンだしー、ウチの研究員なら誰でも直せると思うよー?」
まぁ、純粋に考えて、第二王子がトップになっている研究所なんだから、ここの研究員ってみんな優秀なはずなんだよな。シャラウィやシンシアの口調を聞いてると、全然そんな感じに思えないけど。
「で、この芋どうすんのー? これ以上ないってくらいキレイに洗ったけど」
「あぁ、くし切りにして揚げるんだ。こっちのボウルに水張ってもらえるか。俺が切るから」
くし切りにしたジャガイモを水にさらす。今更なんだけど、ここの厨房の包丁が切れ味良すぎて怖い。
「あとはさっき作ったパスタを絡めるソースを作るから、トマトを湯むきしてくれるか」
「ゆむき?」
俺は首を傾げるシンシアに、湯むきのやり方を教える。簡単な作業だから大丈夫だろうと思って自分の作業の傍らチェックしていたら、面白がってむいてくれた。
「ねー、これつるんってすごいんだけどー」
「そういうもんだからな」
シンシアの手伝いのおかげもあって、トマトベースにベーコンとスピナッチを加えたソースが完成し、俺は朝食のときのシャラウィを真似して配膳の仕方を大きく書くと、シンシアと俺の分を作る。
「うまー! ちょ、これ好きー!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「もう殿下に料理番として雇ってもらえばいいのにー」
「いや、もう殿下とはそういう話で進んでる」
「え!?」
シンシアが突然目を丸くして硬直した。
え、俺、なんかまずいこと言ったか?
「ちょっとー! そーゆーことは早く言ってよねー。あたし料理当番だからって頑張っちゃったじゃん!」
「いや、一応、俺が慣れるまでは当番の人に居てもらわないと困るんだが」
「ええぇぇぇーー?」
すごい不満そうに口の先を尖らせたので、俺の分のフライドポテトもそっと進呈したら、ちょっぴり機嫌を直してくれた。いや、俺、機嫌を取る必要はあったのか? 殿下も俺が慣れるまではってことで同意してくれたし、別にそれを言えば良かったんじゃ……
「うまー!」
シンシアが満面の笑みでフライドポテトを食べていたので、まぁいいか、と俺は考えるのをやめた。
決められた時間に魔力測定をして、厨房の後片付けと昼食準備をする以外は、シャラウィの部屋でせっせと掃除をしていた。いや、部屋って言っていいのかな、これ。あと、掃除じゃなくてまだ片付けのレベルだよな。
ちなみに、魔力測定は何故かジジさんに怒鳴られるのがセットになっている。俺はさっぱり魔力なんて分からないのに、理不尽だ。数値に一貫性がないからって怒ることないよな。魔晶石を作っていないので減ってはいないが、増加も微々たるものらしい。
シャラウィから借りた布で口と鼻を覆い、明らかにゴミと分かるものをポイポイと袋に放り込んでいく。本や書類は埃を払って重ねて置いてある。異臭の元は食べカスや謎の草とキノコのようだが、草とキノコは研究資料らしいので、分別して別の袋に入れた。
「うっわ、カピカピ。これ、何年放置してたんだ?」
研究所では一番年下だというシャラウィだが、そういえば何歳なのか聞いてなかったな。でも、一年二年で汚せるレベルじゃない気がする。もし、一、二年でここまでの汚部屋を作れるのなら、シャラウィの親は育て方を間違ったと言えるだろう。だって、足の踏み場しかないし。いや、正しくは飛び石か? 奥へ行くための足場だけがぽこっと床が露わになっていた。
「これ、他の研究員も似たような感じになってるんじゃないだろうか。研究室に寝泊まりしてたり、空き部屋が物置になっちゃってるってことは、荷物の整理ができてないってことだろうしな」
シャラウィの部屋を片付けた後、もしかしたら似たようなお願いをされるかもしれない。それをキツいととるか、小銭稼ぎのチャンスととるかは微妙なところだ。
「お、これは書類か? なんかの図解……いや、違うな」
ゴミなのかどうか確認するために内容をさらっと確認した結果、なんか申し訳ない気持ちになった。それは親と思われる人物からの手紙で、ついていた図解は見合いの釣書&姿絵のようなものだった。
「いい嫁を見つけたから帰って来いってか。こういうところも人間と魔族で違いはないんだな」
書類とはまた別の場所にそっと置いておくと、俺は片付けを再開した。
§ § §
「えー? シャーくんってば、そんなことも説明してないわけー?」
昼食の準備に来たシンシアに、シャラウィの部屋の掃除の進捗具合を話していると、なぜか呆れられた。
「それぞれの部屋にはー、ちゃんと空気を清浄化させる魔道具があるわけー。それなのにあれだけ臭いってことはー、魔力切れか故障か起こしてるはずだっての」
「そんな魔道具があるのか?」
「厨房にも換気に使ってるのがあるよ。ほらアレ」
シンシアが指差した先にあるのは、何の変哲もない黒っぽい四角い箱だった。というか、教えてもらわなければ、何も気付かなかったに違いない。それほど存在感が希薄だった。高いところに置いてあるから掃除も後回しだったし。
「部屋にあるのもアレと同タイプのはずだし。シャーくんに確認させときなよー? 壊れててもシャーくんなら直せるだろーし」
「直せるのか」
「作りはカンタンだしー、ウチの研究員なら誰でも直せると思うよー?」
まぁ、純粋に考えて、第二王子がトップになっている研究所なんだから、ここの研究員ってみんな優秀なはずなんだよな。シャラウィやシンシアの口調を聞いてると、全然そんな感じに思えないけど。
「で、この芋どうすんのー? これ以上ないってくらいキレイに洗ったけど」
「あぁ、くし切りにして揚げるんだ。こっちのボウルに水張ってもらえるか。俺が切るから」
くし切りにしたジャガイモを水にさらす。今更なんだけど、ここの厨房の包丁が切れ味良すぎて怖い。
「あとはさっき作ったパスタを絡めるソースを作るから、トマトを湯むきしてくれるか」
「ゆむき?」
俺は首を傾げるシンシアに、湯むきのやり方を教える。簡単な作業だから大丈夫だろうと思って自分の作業の傍らチェックしていたら、面白がってむいてくれた。
「ねー、これつるんってすごいんだけどー」
「そういうもんだからな」
シンシアの手伝いのおかげもあって、トマトベースにベーコンとスピナッチを加えたソースが完成し、俺は朝食のときのシャラウィを真似して配膳の仕方を大きく書くと、シンシアと俺の分を作る。
「うまー! ちょ、これ好きー!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「もう殿下に料理番として雇ってもらえばいいのにー」
「いや、もう殿下とはそういう話で進んでる」
「え!?」
シンシアが突然目を丸くして硬直した。
え、俺、なんかまずいこと言ったか?
「ちょっとー! そーゆーことは早く言ってよねー。あたし料理当番だからって頑張っちゃったじゃん!」
「いや、一応、俺が慣れるまでは当番の人に居てもらわないと困るんだが」
「ええぇぇぇーー?」
すごい不満そうに口の先を尖らせたので、俺の分のフライドポテトもそっと進呈したら、ちょっぴり機嫌を直してくれた。いや、俺、機嫌を取る必要はあったのか? 殿下も俺が慣れるまではってことで同意してくれたし、別にそれを言えば良かったんじゃ……
「うまー!」
シンシアが満面の笑みでフライドポテトを食べていたので、まぁいいか、と俺は考えるのをやめた。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる