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15.俺、依頼される

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「まぁ、暇を持て余すよりはいいだろうけど」

 風のように去って行ったシンシアに置いてかれ、ぽつんと呟いたところ、ひょい、とシャラウィが顔を覗かせた。

「朝食の準備、終わったんだねぃ」
「ん? シンシアから聞いたのか?」
「今日も美味しそうな料理ができてるから、食べたい人は勝手に持っていくように触れ回っていたんだねぃ」

 俺は配膳を頼んだはずだったんだが、とも思うが、そもそも研究員も三々五々に来て食べるのが常のようなので、郷に入っては郷に従うべきなんだろう。俺は麺とスープを自分でよそうように告げた。すると、シャラウィは厨房の棚から大きめの紙を引っ張り出し、俺の言ったことをさらさらと書き上げてペタリと壁に貼った。

「こうすればミケーレも自由に動けるんだねぃ」
「なるほど」

 盛る手順を書いておけば、いつ誰が来ても各自でなんとかするだろう。麺やスープが足りなくなったらそれはそれ。もう昨晩みたいに追加を作る気はない。だって人数分作ったし。それでも不足するなら誰かが二人前以上食べてるってことだし。

「それじゃ、ミケーレにはお手伝いを頼みたいんだねぃ」
「? シャラウィは食べないのか?」
「僕は朝は食べない主義なんだねぃ」

 そういう人もいるのか、と頷いていたら、反論のチャンスを失ってしまった。手伝いってなんだ。

「なぁ、シャラウィ?」
「こっちは研究員の寮になってるんだねぃ。まだミケーレの部屋はないけど、空き部屋がないから仕方ないんだねぃ」

 空き部屋がないのは仕方ないだろう。そもそも俺は研究員じゃないし、寮なんて――――

「空き部屋を放置しとくと、みんな勝手に自分の資料や材料や飼料や失敗作を置くから、全部倉庫みたいになっちゃんだねぃ」

 なんか、空き部屋の定義を確認したくなってきた。っていうか、失敗作ってすぐに処分とかしなくて大丈夫なのか? それに飼料っていうことは、何か動物か何かを飼ってるってことだよな? 俺、そんなん見たことないんだけど……。

「あー、ここ。ここが僕の部屋なんだねぃ」

 シャラウィが足を止めたとき、俺は既に口と鼻を押さえていた。

「な、なぁ、シャラウィ」
「なんだねぃ」
「シャラウィの隣の部屋って、シンシアだったりするか?」
「もちろんなんだねぃ。というか、シンシアからミケーレが掃除するって話を聞いたんだけど、どこかで行き違いがあったんだねぃ?」

 シンシアめ。シャラウィの中で、俺が掃除するって確定になってるじゃないか。どんな伝え方をしたんだ。

「できればミケーレにお願いしたいんだねぃ。もちろん、バイト代も払うんだねぃ」
「つまり、払ってでもやって欲しいほど問題な状態だということか」
「も、もちろん僕の部屋なんだから、僕だって掃除したいんだねぃ。でも、自分じゃどこから手をつけていいか分からないし、気がつくと部屋に置いてある資料を読みふけっているんだねぃ」

 こういうところは人間も魔族も変わらないな。片付けている最中に興味を引くものを見つけて、ついついそちらに時間を取られるタイプか。
 どれほどの汚部屋になっているかは知らないが、俺としては願ったり叶ったりな申し出でもある。俺の手は空いているし、身一つでここへ連れて来られた俺は無一文だ。今後どうなるかは分からないが、現金収入はあって困るものじゃないだろう。

 大仰にため息をついて見せた俺は、ゴミ出しなど掃除のルールと掃除道具についてシャラウィから聞き出し、手が空いている時間を使って掃除をすることを了承した。

「あぁ~~、助かるんだねぃ。それじゃ、これが部屋の鍵なんだねぃ。あ、僕は基本的にこの部屋に戻ることはないから、自分のペースでやってもらって構わないんだねぃ」

 どうやらシャラウィも研究室で寝泊まりしているタイプらしい。

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