上 下
12 / 57

12.俺、絶賛される

しおりを挟む
「なぁ、ミケーレ。味見してもいいかねぃ」
「ぜひお願いしたいところだ。何しろ、人間の好みで作ってしまったからな」

 俺は教わった通りにオーブンを温め始めながら、パン生地を手のひらサイズの円に伸ばし、そこに切っておいた具材を乗せていく。その作業をしていたせいで、シャラウィの表情を見ることはできなかった!

「んんんんまぁぁぁぁいっっ!」
「そうか?」
「この白いのは芋だよねぃ? 芋なのにすごく美味いんだねぃ。それにスープも甘みとしょっぱみが丁度良くて、僕の好みなんだねぃ」
「そりゃ良かった」

 パンを天板にできるだけ並べ、オーブンに突っ込む。時間設定は、あぁ、このツマミだっけ。

「シャラウィ、この食事は――――」
「ミケーレっっ!」

 配膳とかはどうするのか確認しようと思った俺の手を、シャラウィが強く握りしめてきた。それこそ、ガシッと音がするぐらいに。

「僕はミケーレを厨房担当に推薦するんだねぃ! 単なるモルモットで終わらせるなんてとんでもない! 毎日僕のために料理を作って欲しいんだねぃ!」
「え、いや……?」

 モルモットで俺の人生は終わらせたくないが、だからと言ってプロポーズめいた言葉には素直に頷けない。
 興奮するシャラウィを宥め、配膳について尋ねてみると、なんと作った後は適当にめいめいが取りに来るんだそうだ。それで一定以上の時間が経つか、全て料理がなくなったら片付ける、というなんとも緩い運用だった。

「あ、ジジさんが呼んでたんだねぃ。時間になったから計測するんだって息巻いてたんだねぃ。回復してたらまた魔晶石を作るって鼻息も荒かったんだねぃ」
「……おぅ」

 俺はオーブンをシャラウィに頼むと、重い足取りで研究室の方へと向かった。
 ジジさんは悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。ただ沸点が低いのが難点だと思うんだよなぁ……。
 とぼとぼと歩いて行くと、研究室の入り口で仁王立ちするおっさんがいた。いや、ジジさんなんだけど。横にも大きいジジさんが、ついでに耳のすぐ上に生えた角が楕円を描くように湾曲して伸びているジジさんが、ただ立っているだけですごい威圧感だ。

「モル、測定したらすぐ魔晶石を作るぞ。一休みして感覚もリセットされただろう」
「……ガンバリマス」

 一休みどころかせっせと掃除と料理をしていたのだけど、それを言い出す勇気もなく、俺は測定器に触れた。

「あぁん?」

 測定結果を見たジジさんの顔が一層険しくなる。怖くて結果を聞きたくないが、たぶん聞かないと話が進まないんだろうなぁ。俺としては、とっとと用事を済ませて料理に戻りたいんだが。

「モル、お前あれから魔晶石作ったか?」
「え? いや、ほとんど厨房にいたから、作ってないけど」

 俺の答えに、ジジさんの眉間の皺がいっそう深まった。

「どうしたんだ、ジジ」
「エンツォ、これを見ろ」

 心配そうに近づいてきたエンツォさんも、測定結果に眉根を寄せた。

「確か、8まで削ったって言ってたよな」
「あぁ、間違いない。魔晶石を作らせ終えた後にも念のために計測したからな」

 二人で顔を寄せ合ってうーんと唸る。え、なんか測定結果がそんなに問題だったのか?

「えぇと、俺も結果を聞いていいか?」
「あぁ。ミケーレ、お前の魔力量が8だったんだ」
「それはさっき魔晶石を作った後の話じゃないのか?」
「今も8のままだ。つまり、全く回復してないってことだ。っていうか、魔族だったら一桁なんざ昏倒してるレベルなんだが、お前、本当に体調に問題ないんだろうな?」
「至っていつもと変わらないよ……」

 心配されているんだろうけれど、瀕死判定されているのかと思うと、ちょっぴり傷つく。
 まぁ、それはそれとして、いったいどういうことなんだろう。驚くほどの魔力量上昇を見せたかと思えば停滞。そりゃ、ジジさんでなくとも困惑するわけだ。

「あー……、とりあえず厨房に戻っていいか? パンが途中だったんだ」
「ん? ミケーレ、お前パンまで焼けるのか?」
「昼飯みたいにふっくらしたパンじゃないぞ? まぁ、炊事洗濯掃除に帳簿つけは散々やらされてたからな」
「へー、じゃぁ試しに今日の夕食はここで食べてみるかな」

 エンツォの言葉に「期待外れだったらすまないな」と予防線を張っておく。相変わらず唸っているジジさんに厨房に戻ることを伝えて、俺はそそくさと研究室を背にした。
 何にしろ、パンの焼き加減が気になるんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...