上 下
11 / 57

11.俺、掃除を終える

しおりを挟む
――――まぁ、あれだ。ここへ問答無用で連れて来られて、俺もストレス溜まってたんだろうな。

 ひとまずギリギリ及第点というところまで掃除したところで、俺は我に返った。正直、シャラウィにはすまなかったと思っている。だが、掃除を手伝わずに道具だけ置いて逃げたので、やっぱり面と向かって謝るのはやめておこう。
 まだシャラウィは戻る様子を見せないので、俺は勝手に氷室の中を確認させてもらうことにする。予想よりは無事な食材が多かったため、遠慮なく使わせてもらおう。やたらと根菜類が多いのは、保存期間が長いからだろうな。

「厨房を利用しない研究員も多いって言ってたっけ。何人分ぐらい作ればいいんだ?」

 本来の食事当番であるシャラウィに確認できればいいんだが、まだ戻ってくる様子はない。まぁ、足りなければ追加で作ればいいか、と割り切って、研究員の半分が食べると仮定して分量を決める。大麦を茹で、サツマイモとジャガイモを蒸し、干し肉でスープのだしを取り、ややしなびかけていた葉物野菜をちぎって軽く塩もみし……なんだか楽しくなってきた。

「パン……も、焼かなきゃいけないのか?」

 ふっくらしたパンを作るには確かそのための種が必要だったはずだ。氷室にはそれっぽいものは見当たらなかった。まぁ、どのみち生地を発酵させる時間はない。
 オーブンの中は、ほとんど使われていなかったせいか、逆にきれいだった。腐部屋の中で唯一きれいだった場所と言っていいかもしれない。まぁ、話を聞く限り、オーブンを使うような料理を作れなかったんだろう。
 オーブンの使い方は後でシャラウィが戻ってきたら聞くことにして、俺はパン生地を先に作るべく小麦粉と塩をオリーブオイルと水で混ぜてこね始めた。不思議なもので、こうして料理をしているときは無心になれる。
 掃除もそうだが、料理をしているときは、これから先、自分がどうなってしまうのかという不安を忘れていられる。お邸で散々こき使われたおかげで身に付いた技が、こんなところで役に立つとは思わなかった。様々な仕事を押しつけられることで培われた掃除と料理と庭仕事と帳簿つけ、それから根性。これを駆使して俺は魔族だらけのこの研究所で生き抜けるんだろうか。
 ボウルの中でなめらかになった生地を濡れ布巾で覆い、俺はサッと手を洗った。スイッチに手をかざすだけで水が出てくるとか、この厨房の様々な仕掛けはすごいと思う。魔族ならではの技術なんだろうか。うちの国に売り出したら、すごく稼げそうな気もするんだが。
 生地を休ませている間に、サラミやパプリカ、ピーマンにタマネギといった具材をスライスしていく。これを先ほどのパン生地に乗せて焼けば、まぁそれなりの味と栄養になるはずだ。
 茹で上がった大麦に蒸したサツマイモを角切りにしたもの、軽く塩もみした野菜をさっくり混ぜ、塩こしょうでサラダの完成。同じく蒸し上がったジャガイモをひたすら潰し、牛乳とバターで少し伸ばしてこれも塩こしょうで味付けすれば、マッシュポテトの完成だ。だしを取っておいた大鍋には、目についた根菜類をサクサク切ってスープに仕立て上げる。少し肌寒い気がするのでジンジャーもアクセントに加えておいた。

「あとはオーブンだな、うん」

 研究室に戻ってシャラウィを探すか、と大きく伸びをしたところで、俺はようやく彼に気づいた。

「シャラウィ?」

 探しに行こうと思っていたシャラウィが、厨房の入り口で口をあんぐり開けて立ち尽くしていた。

「こ、これは、なにがあったんだねぃ!」
「なにって、……あ、もしかして使っちゃいけない食材とかがあったのか? マズいな。それは確認するの忘れてた」
「違うんだねぃ! 厨房はきれいになってるし、美味しそうな匂いはプンプンしてるし、どういうことなんだねぃ!」

 どういうこともなにも、俺が掃除して料理しただけなんだが。

「えぇと、シャラウィ。オーブンの使い方を知ってたら教えてくれないか?」
「オーブン! まさか、まだ作るのかねぃ!」
「作るっていうか、パンを焼きたいんだが」

 俺の説明に、シャラウィの少し尖った耳がぴこぴこっと揺れた。え、耳って動くの?

「すごい! ミケーレは単なるモルモットじゃなかったんだねぃ!」

 シャラウィにさえ実験動物と認識されていた俺は、思わず崩れ落ちそうになったが、喜々としてオーブンの扱い方を説明してくれるので、それはなんとか頭にたたき込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

処理中です...