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10.俺、絶叫する

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「はー……、死ぬかと思った」

 正しくは「殺されるかと思った」だが、さすがにそこまで赤裸々に呟けない。
 あれから、限界ギリギリの30回魔晶石を作らされたが、さっぱり魔力の流れとやらを理解することができなかったわけだが、それはこの研究員たちには予想外だったらしい。何しろ、人間と比べて段違いに魔力を保有する魔族だ。それこそ魔力の流れを感じるのは呼吸するのと同じぐらい自然なことだそうで。つまり、それすらできない俺は「本当に生命活動維持してんの?」と確認されるレベルで……ちょっと泣きたくなってきた。

「まぁ、ジジさんはキレるの早いからねぃ」
「本当に怖かったんだって」

 俺の前に歩いているのは、研究所では一番の年下だというシャラウィだ。当たりも柔らかく、頭の角も後ろ向きに生えてしかもくるりと一回転しているという無害さに、俺の中ではひっそり真面目なエンツォさんの次に親しみやすい研究員と認定している。
 魔力の流れを感じられる、一定の魔力を放出できる前提で組まれていた実験計画の数々が役に立たないものとなり、一週間先まで実験のスケジュールを組まれていた俺は、一転して暇を持て余すことになった。
 奴隷一歩手前レベルでこき使われていた俺としては、暇を持て余すと、なんだか逆に落ち着かないため、何かできることはないかと頼み込んだ結果、食事当番の手伝いをすることになった。厨房への案内をしてくれているのが、今日の食事当番であるシャラウィだ。

「まぁ、食事って言っても、適当に野菜切って、適当に味付けすればいいだけだし、そこまで時間はかからないと思うんだけどねぃ。手伝ってくれるなら大歓迎だねぃ」

 なお、シャラウィがさっきから「ねぃねぃ」言ってるのは、地方の訛りらしい。年若いシャラウィが口にしているからまだ可愛いと思えるが、たとえばジジさんのようなオッサンが口にしていたら、たぶん鬱陶しくて仕方がなかっただろう。

「あぁ、ここだよ」

 開いた扉の先を見て、俺は絶句した。

「食材はこっちの奥に氷室があるから、そこでまとめて保管してあるんだ。使っていい量が決められてるわけじゃないけど、次の食材納入までは持たせないといけないから……」

 シャラウィが説明してくれていると分かっているが、その内容はとてもじゃないが頭に入らない。
 厨房? いや、ここはそんな場所じゃない。あえて名付けるとすれば――――

「こんっな腐部屋で食事なんて作れるかアホ――――っっっ!」

 一歩足を踏み入れればぬるりとした床の踏み心地。おそらく魔法道具であろう火口の周辺には黒に近いほど変色した何かのなれの果てがこびりついている。鍋、積まれた食器類は清潔とは程遠く、とてもそれを使って食事をしたいなどとは思えるはずもなかった。

「食事を作るのなんて後だ! とにかく掃除する! 掃除用具はどこにある!?」

 俺の剣幕に圧されたシャラウィは、少し怯えた様子で、がくがくと首を縦に振っていた。

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