5 / 57
05.俺、爆睡する
しおりを挟む
「オレはアウグスト・レオ・ゲッツィ。お前らの言う魔族を治める王の第二子、まぁ第二王子ってところだ」
ひぃ。
俺の喉がごくりと鳴った。悲鳴をなんとか心の中だけに留められたのだけが幸いだ。
「オレの方に事情があってな。それを解決する方法を神問いした結果、託宣されたのがこれだ」
男――アウグスト殿下は、ぺらりと俺に1枚の紙を見せた。そこには銀器を磨いている俺の姿が黒一色のインクながら写実的に描かれていた。託宣というから曖昧な言葉なのかと思えば、どう見ても俺だった。
「明らかに人間の男だったから、持っている銀器に刻印された家紋を辿って所属している国を特定し、ちょっとトップに交渉した」
「……交渉」
俺が見た王と宰相からは、むしろ脅えが見えたんだが。交渉という名の脅迫だったんじゃなかろうか。
「お前がどう役に立つのか分からんのでな、オレの研究所で一通り調べることにした」
「は!?」
やばい、正直な声が出てしまった。相手は王子だし、これって不敬にあたるのか?
「安心しろ。お前の命に関わるような研究はしない。代えがきかないからな」
安心できるんだろうか、それ。でも、さっきの彼女が言っていたモルモットという言葉が理解できた気がする。言葉通りの意味だったってわけか。
「とりあえず、今日はもう遅い。研究員には明日の朝に引き合わせる。お前はその扉の先にある仮眠室で寝ろ。ひどい顔をしているぞ」
「……はぁ」
魔族からお前はモルモット確定だと聞かされて、ひどい顔にならない人間がいるだろうか。いや、いないだろ。
しいて言うなら、命が保障されているということだけが救い……いや、死ぬより恐ろしい実験が待っている可能性だってある。
示された扉に向かいながら、俺はとても寝れないだろうな、と確信していた。
――――結局、仮眠室のベッドが快適過ぎて、即・爆睡した。
§ § §
目を覚まして、まず驚いたのは自分の図太さだ。何も聞かされないまま魔族だらけの場所へ問答無用で連れて来られたというのに、仮眠室のベッドで爆睡。疲れていたからとかそういう問題じゃないと思うんだ。
魔族というのは、魔力はもとより膂力や俊敏性など、人間より総じて能力の高い種族を指す言葉だ。外見は似ているものの、角や尻尾などを持ち、肌の色は灰色もしくは浅黒をしているのが特徴だというのが一般的に流布している知識だ。古代遺跡の埋もれる幻霧の森を隔てているため、人間の国との交流はないと言われているが、俺が引き渡された経緯を考えると、それも嘘なのかもしれない。
基本的に人間からは恐れられ怖がられる存在なので、小さい子のしつけに「悪いことをすると、魔族が連れ去って食べてしまうよ」なんて決まり文句を使ったりする。
そんな魔族の中に放りこまれた俺、爆睡。
(……よくも悪くも普通にしか見えなかったんだよな)
思い出すのは、俺を殿下の部屋に案内する者を決めるのに繰り広げられたジャンケン大会だ。この言い方が正しいのかどうかは分からないが、なんだか人間臭くて拍子抜けした。
コンコン
ノックの音に、俺はまとまらない思考を打ち消し、慌てて返事をする。
「モルモットー。起きてるー?」
「……モルモットじゃないです」
訂正。人を実験動物扱いするのは、やっぱり恐ろしい魔族だからかもしれない。
ひぃ。
俺の喉がごくりと鳴った。悲鳴をなんとか心の中だけに留められたのだけが幸いだ。
「オレの方に事情があってな。それを解決する方法を神問いした結果、託宣されたのがこれだ」
男――アウグスト殿下は、ぺらりと俺に1枚の紙を見せた。そこには銀器を磨いている俺の姿が黒一色のインクながら写実的に描かれていた。託宣というから曖昧な言葉なのかと思えば、どう見ても俺だった。
「明らかに人間の男だったから、持っている銀器に刻印された家紋を辿って所属している国を特定し、ちょっとトップに交渉した」
「……交渉」
俺が見た王と宰相からは、むしろ脅えが見えたんだが。交渉という名の脅迫だったんじゃなかろうか。
「お前がどう役に立つのか分からんのでな、オレの研究所で一通り調べることにした」
「は!?」
やばい、正直な声が出てしまった。相手は王子だし、これって不敬にあたるのか?
「安心しろ。お前の命に関わるような研究はしない。代えがきかないからな」
安心できるんだろうか、それ。でも、さっきの彼女が言っていたモルモットという言葉が理解できた気がする。言葉通りの意味だったってわけか。
「とりあえず、今日はもう遅い。研究員には明日の朝に引き合わせる。お前はその扉の先にある仮眠室で寝ろ。ひどい顔をしているぞ」
「……はぁ」
魔族からお前はモルモット確定だと聞かされて、ひどい顔にならない人間がいるだろうか。いや、いないだろ。
しいて言うなら、命が保障されているということだけが救い……いや、死ぬより恐ろしい実験が待っている可能性だってある。
示された扉に向かいながら、俺はとても寝れないだろうな、と確信していた。
――――結局、仮眠室のベッドが快適過ぎて、即・爆睡した。
§ § §
目を覚まして、まず驚いたのは自分の図太さだ。何も聞かされないまま魔族だらけの場所へ問答無用で連れて来られたというのに、仮眠室のベッドで爆睡。疲れていたからとかそういう問題じゃないと思うんだ。
魔族というのは、魔力はもとより膂力や俊敏性など、人間より総じて能力の高い種族を指す言葉だ。外見は似ているものの、角や尻尾などを持ち、肌の色は灰色もしくは浅黒をしているのが特徴だというのが一般的に流布している知識だ。古代遺跡の埋もれる幻霧の森を隔てているため、人間の国との交流はないと言われているが、俺が引き渡された経緯を考えると、それも嘘なのかもしれない。
基本的に人間からは恐れられ怖がられる存在なので、小さい子のしつけに「悪いことをすると、魔族が連れ去って食べてしまうよ」なんて決まり文句を使ったりする。
そんな魔族の中に放りこまれた俺、爆睡。
(……よくも悪くも普通にしか見えなかったんだよな)
思い出すのは、俺を殿下の部屋に案内する者を決めるのに繰り広げられたジャンケン大会だ。この言い方が正しいのかどうかは分からないが、なんだか人間臭くて拍子抜けした。
コンコン
ノックの音に、俺はまとまらない思考を打ち消し、慌てて返事をする。
「モルモットー。起きてるー?」
「……モルモットじゃないです」
訂正。人を実験動物扱いするのは、やっぱり恐ろしい魔族だからかもしれない。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる