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最終章

最終話 おとぎ話の続き(2)

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   ◆◆◆

「!」

 そしてそれを感じ取ったアランは焦りに身を強張らせた。
 戦っている敵達の誰かが、「今のところ予定通り」という心の声を響かせたからだ。
 つまりあれはただの陽動である可能性が高い。
 ならば、本命はもっと前にいるはず。
 そう思ったアランが探知の線を近距離に集約させた直後、それは見つかった。
 それはやはり近くに、跳ね橋のそばにあった。
 それは黒い空洞に見えた。
 波を吸い込む虚無のような、そこだけ空間に穴が開いているかのような感覚。
 影を濃く纏った時の親友と同じ感覚。
 だからアランは叫んだ。

「その馬車を止めろ!」

 これに、馬の手綱を握っていた男は驚きに肩を跳ね上がらせた。
 その男はなぜ止められたのか、本当に分かっていなかった。
 彼は無関係だからだ。
 荷物を輸送する仕事で生計を立てているだけの男。
 今日はこんなことが起きて不運だった、男はそう思った。
 しかし巻き込まれずに街から出られて幸いだったと、男はそう思っていた。
 しかしそれは間違いだった。
 男は誰よりも不運だった。
 その理由は直後に明らかになった。

「え?!」

 突如、真後ろから響いた二つの音に、輸送業の男は目を見開きながら振り返った。
 それは、箱が空いた音と、荷物にかぶせていたホコリよけの布が、内側から勢いよく盛り上がった何かに翻された音に聞こえた。
 しかし振り返った時には既に遅かった。
 それは既に男の真上にいた。男を飛び越えつつあった。

「……っ!」

 そしてそれを見たアランは男と同じような表情を浮かべた。
 ディーノがもう一人いる、それはそのように見えた。
 ほとんど同じだった。巨体、それを覆う全身鎧、長方形の大盾、本当にそっくりだった。
 違うのは一つ、右手にある武器だけだった。
 それはその巨体と比べても遜色無い、背と同じ長さ、盾として使えそうな幅を有する巨大な剣だった。
 アランはそう思った。違うのは得物だけだと。
 しかしそれが間違いであることが直後に明らかになった。
 その手にある大剣が光り始めたのだ。
 影を纏っているせいか、その輝きは少し鈍い。
 しかしアランは感じ取れた。
 その刃から放たれる波を。心の声を。
 分厚い膜を突破するほどの大きな波が放たれている。それほどの魔力が刀身に込められている。
 そしてその刃は同じ言葉を何度もこだまさせた。
 打ち破る、と。
 何を、それは読まずとも分かった。
 だから守れ、とはアランには叫べなかった。
 もうどうやっても間に合わないことは明らかだったからだ。
 そしてその大男は、ヴィクトルは剣から放たれるその思いを、

「破ァッ!」

 叫びに変えて、やってみせた。
 跳躍の勢いを乗せて振り下ろされた大剣が木製の橋に食い込む。
 そして瞬間、その輝きは解き放たれた。
 放出された光が裂け目を押し広げながら暴れ、交じり合って紐となり、蛇に転じてあふれ出す。
 そして生じた蛇の群れは橋を食い破り、生みの親であるヴィクトルも飲み込んで、嵐となって広がった。

「「「ぅあああぁっ?!」」」

 巻き込まれた橋の守備兵の悲鳴が嵐の音に混じる。

 初手はこれでなくてはならないと、ヴィクトルは確信していた。
 相手は篭城しているかのように強固な陣のそばから動かない。ゆえに普通の奇襲では効果が薄い。
 さらに兵力でも劣るのであれば、民という肉の盾を維持して相手の火力を封じるしかないと、ヴィクトルは判断したのだ。
 だから最初に橋を狙った。脱出路を破壊し、逃げる民を閉じ込めて混乱を維持するためだ。

   ◆◆◆

「!」

 光る嵐が橋を崩すその音が響いた瞬間、ディーノは振り返った。
 そして感じ取った。アランの声を。
 そいつは自分と似ているという。
 ゆえに、ディーノは反射的にそいつがいる方向に向かって走り出していた。
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