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最終章

第五十八話 おとぎ話の結末(5)

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 オレグの次の目標はリーザであった。
 オレグのつま先がバージルからリーザの方へと変わる。

「リーザ!」

 そして気付いたアランが声を上げ、

「!」

 リーザはラルフに投げるはずだった爆発魔法を構えたまま後ろに、オレグの方に向き直った。
 しかし射線が無い。仲間の兵士達を巻き込んでしまう。
 だからリーザは叫んだ。

「道を開けて!」

 その口からは、まったく同じ文面の心の叫びが響いていた。
 ゆえに、兵士達は即座に反応することが出来た。
 潮が引くかのように、海が割れたかのように、射線上にいる兵士達が左右に別れて走り出す。
 だがその行為は何の意味も成さなかった。
 開いた視界の先にオレグの姿は無い。
 兵士の影に隠れ続けるようにオレグも移動した、たったそれだけのこと。
 オレグの方が圧倒的に速いゆえにどうにもならない。

「……!」

 兵士をなぎ払いながら接近してくる獣の姿に、リーザが息を詰まらせる。
 撃てない、魔王のようにはなれない、その意識がリーザを焦らせる。
 ならばどうする、こうするしかないのか、そう思ったリーザが手にある爆発魔法を消して接近戦用の炎魔法に切り替えようとした直後、

「!?」

 オレグは足を止めた。
 懐かしい気配を感じたからだ。
 思わずそちらのほうに視線を向ける。

「!」

 瞬間、オレグの時間は止まった。
 見た目は別人だ。なのにそう思えない。
 そして何かをこちらに向けて構えている。

(細い攻撃意識の線――飛び道具?)

 数瞬の間にそう判断したオレグは即座に防御体勢を取った。
 両手を前に構えて防御魔法を展開する。
 が、直後、

「っ!」

 爆発魔法に似た炸裂音と共に生じた激痛に、オレグは表情を歪めた。
 瞬間、二つの意識が交錯。
 オレグの感情は驚き。
 盾を貫通し、自分の左肩に穴を開けた。
 しかもまったく見えなかった。音と同じくらいに速い。
 対し、シャロンの感情は苛立ち。
 心臓を狙ったのだが、防御魔法で軌道を変えられた。
 ゆえにか、

「「……っ」」

 理由は違えど、二人は同時に奥歯に力を込めた。
 そして先に動いたのはシャロンの方であった。
 次弾の装填を開始する。
 高速演算をしているオレグにとってはそれはとても緩慢な動作であり、隙だらけに見えた。
 そんなにゆっくり準備をしてからまた狙撃するつもりなのかと、オレグは苛立った。
 ゆえにオレグは「なめるな」と声を上げながら地を蹴ろうとしたが、

「リーザ!」

 直後に響いたのは再びのアランの声であった。
 その呼び声にリーザは振り返らなかった。
 なんのための呼び声か、感知を使わずとも分かっていたからだ。
 元の方向に向き直りながら輝く右手を突き出す。
 しかしその手から生まれたのは爆発魔法では無く防御魔法。
 その盾で迎えるはラルフが放った赤い槍。
 勝敗は予想するまでも無かった。

「――っ!」

 リーザの体が吹き飛び、悲鳴が轟音の中に消える。
 大魔法の撃ち合いにおいて、オレグの接近によって生まれた硬直は致命的なものであった。
 さらにラルフはオレグから援護の連絡を虫で受け取っていた。
 だからラルフは悠々と接近してから撃てたのだ。
 そして、その自身の援護の成果を目の前で確認したオレグは新たな目標に、シャロンに向かって地を蹴った。

「!」

 それを見たシャロンが後退を開始する。
 兵士という障害物を利用しながら時間を稼ぐ。
 だが兵士を利用出来るのはオレグも同じ。
 装填が完了しても、

(射線が……!)

 オレグを狙う隙間が無い。
 射線を通すために移動しても即座に対応される。兵士を盾にしつつ、蹴散らしながら近づいて来ている。
 だからシャロンは覚悟を決めた。
 目の前に来れば、攻撃される瞬間であれば射線が通るはずだ、シャロンはそう考えた。
 のだが、

「!?」

 直後にシャロンの眼前に迫ってきたのはオレグでは無かった。
 それは兵士の背中に見えた。

「ぐっ?!」

 オレグに吹き飛ばされた兵士と衝突し、姿勢が大きく崩れる。
 だがシャロンは堪えた。倒れないように踏み堪えた。
 そして銃口を正面に戻しつつ手を発光させる。
 既にオレグは目の前。
 銃口の向きは心臓に定められているが、その指は引き金にかかっていない。
 電撃魔法を使えるシャロンには必要無いからだ。
 使っている火薬は黒色火薬。黒色火薬は静電気による火花などでも着火することが出来る。
 あとは電撃魔法の糸を火薬のそばでショートさせるだけでいい。
 だからシャロンはわずかの差で間に合った、こちらが一手早い、そう思った。
 オレグの拳がまだ届く距離では無いからだ。
 いまから腕を伸ばしても銃の先端に、銃口に触れるのがやっとだからだ。
 シャロンはそう思っていた。
 しかし――
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