上 下
496 / 586
最終章

第五十四話 魔王上陸(13)

しおりを挟む
 そして乱戦という状況が上手く噛み合っている。
 通常、感知能力者は全ての光弾を警戒しているわけでは無い。そんなことはアランほどの計算速度を持っていなければ出来ない。普通は射線が自身に向いているものだけだ。
 その隙を「跳弾」という形で上手くついてきている。
 だからキーラは「面倒」だと思った。
 あくまでも「面倒」であるという程度だ。「厄介」では無い。
 なぜなら、対処法を知っているからだ。
 似ているがゆえか、その対処法は「狼牙の陣」へのそれと同じあった。
 感知の範囲を狭め、取得する情報量を下げ、計算速度を増す。
 音などの情報も一時削除。魔力の動きを重視する。
 そして体の指揮権を本能にゆだねる。
 これはかつてザウルやシャロンが見せたものとほぼ同じ対処法であった。
 自身の感知の制空権に入った攻撃に対し、反射による回避行動を取る。
 周りとの連携が失われるが、自己防衛に特化した状態。
 その状態で四方から飛んでくる光弾を受け、そして避けながらキーラはもう一つ叫んだ。

(しかし、一つ間違いを犯したな!)と。

 それは先に響いた誰かの心の声に対してのものであった。
 先の一発は「狙撃」だと、狙ったと言った。
 確かに、言われてみればあの一撃は都合が良すぎた。
 つまり、あの一発は誰かが、または何かが「命令」して起きたものである可能性が高い。
 つまり、場にいる虫を統率出来るものが、どこかにいる。
 そしてそれは「あいつ」だと思える。
 まだ証拠は無い。ただの女の感だ。
 だがキーラはその思いを声に変えた。

「全員、私を援護しろ!」

 しかしその声に対して真っ先に応えられた者は仲間の影では無かった。
 バージルという巨体の影がキーラの体を覆い尽くさんと迫る。
 しかし二人の影は直後にバージルの手から生まれた光によって白く塗り潰された。

「っ!」

 瞬間、キーラの心に再び同じ言葉が、厄介な、という文面が浮かんだ。
 やはり正面からではほとんど隙が無い。
 だからキーラはこれの相手は仲間に任せることにした。
 迫る光の壁から離れるように地を蹴る。
 すると直後、割り込むように、入れ替わるように三つの影がキーラの前に立った。
 同時に展開された三枚の防御魔法が、一つの協力魔法となってバージルのそれとぶつかりあう。
 しかし三人の力をもってしても、

「「「ぐぅっ!?」」」

 バージルの盾にはかなわない。
 光魔法特有の破砕音と共に、影達の盾が砕ける。
 しかしその時、既にバージルの背に違う影が覆いかぶさろうとしていた。
 先ほどまでバージルと戦っていた者の影。
 獣のように尖らせた輝く爪が背に振り下ろされようとしているのを感じ取ったバージルは、

「ふっ!」

 突進の急停止と同時に、握っている槍斧を手前に鋭く引き戻した。
 石突(いしづき)と呼ばれる、棒状の武器の地面に接する部位を利用した背後への迎撃。
 これを影は光る手刀で叩き払ったが、

「がっ?!」

 同時に放たれた後ろ回し蹴りは捌けなかった。
 そしてその声が最後のものとなった。

「っ!」

 その好機を掴んだケビンの追撃が、光る剣が影のわき腹から入って肺を抜ける。
 そしてケビンは声すら出せなくなったその影を投げ捨てるように剣を体から振り抜き、バージルの背をかばうように位置取りながら叫んだ。

「そっちに行ったぞ、カイル!」

 これにカイルは「もう見えている」と心の声を返した。
 そしてその叫び声がキーラにとって決定打となった。
 ゆえに思った。
 やはり、お前が、と。
 その思いはやはり自然と叫びになった。

「お前がこの場の指揮官だな!」

 これにカイルは「そうだ」と言わんばかりにそれを見せた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...