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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ

第四十七話 炎の紋章を背に(3)

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   ◆◆◆

 一ヵ月後――

「……そうか」

 カルロが死んだという情報をフレディから聞いたサイラスは、そんな淡白な反応を返した。
 しかし長い付き合いであるがゆえに、心読まずともそれが演技であることをフレディは分かっていた。
 サイラスがいま何を気にしているのか、フレディは分かっていた。
 だからフレディはとっておきの情報を出した。

「『感』の良い奴を何人か探りに行かせておいたんですが、どうやら、『あの女』はその戦いに参加していたみたいですぜ。兵士や城下町の連中がその記憶をはっきりと残してました」

 フレディの予想は的中であった。サイラスはその情報にすぐに食い付いた。

「あの女がカルロを倒したのか?」

 これにフレディが頷きを返すと、サイラスはさらなる情報を求めた。

「それで、あの女はどうなった? 生きて戦場から脱出したのか?」

 これにフレディは首を振った。

「……玉座の間が崩壊してからは情報の共有がされていなかったらしく、どんな戦いだったかはよく分からないんですが――」

 フレディは「でも、」と、言葉を続けた。

「アラン達の救助に駆けつけた兵士達の記憶には、あの女の死体がはっきりと映っていたようです」

 これにサイラスは、

「……」

 しばし沈黙した後、

「そうか。分かった」

 と答え、何とも思っていないかのように視線を机の上の書類に戻した。
 それも演技であることをフレディは見抜いていたが、

「では、残っている仕事に戻ります」

 指摘するようなことはせず、部屋を出た。

「……」

 そしてサイラスはしばらくの間、淡々と書類仕事をこなした後、

「……勝ったのか、アラン。あの女に。……あの怪物に」

 ぽつりと、そう漏らした。

   ◆◆◆

 同時刻――



 かつてクリスと問題を起こした男、リチャードは荒れていた。

「糞!」

 口をつけようとした酒瓶に中身が残っていなかった、たったそれだけの理由でリチャードはそれを乱暴に壁に叩き付けた。
 最近何もかも上手くいかないという理由はある。だが、このような癇癪を起こすのは最近に限ったことでは無かった。あれからずっとであった。
 そして上手くいかない理由は明らかであった。
 敵を作りすぎたのだ。
 何をするにも邪魔が入る。
 そして誰からも相手にされない。
 自分はやりすぎてしまったのかもしれない、そんな考えが脳裏に焼きついていたが、リチャードは頑なにその事実を認めようとはしなかった。認めることが、自分を非難することが出来なかった。そしてそれがリチャードを苦しめている元凶であった。
 なんでもいい、好機が欲しい、誰でもいい、味方が欲しい、そんな想いがリチャードの奥底にあった。
 馬鹿では無いリチャードはそれが叶わぬ願いであることを分かっていた。
 だから余計に荒れていた。
 そしてそんなリチャードに対し、

「……あの、旦那様」

 いつの間にか背後に立っていた執事がおずおずと口を開いた。
 いま話しかけるのはマズい。それは執事もよく分かっていた。
 だが、それでも言わねばならないことがあった。
 それはリチャードの娘、ディアナについてのことであった。

「……お嬢様が今日も食事を口にされておりません」

 これにリチャードは一瞬怒気を露にしかけたが、すぐに考えを改めた。
 事態は深刻になりつつあると感じたからだ。
 いや、もう深刻なのかもしれない。
 一日一度は執事からこの話がされている。
 昨日までは無視していた。怒鳴りつけて気晴らしにするだけの話題だった。
 だが、この話は今日で何回目だ?
 4、それとも5?

「……っ」

 思い出せない。そこから生まれる苛立ちから、リチャードは表情を歪めた。
 しかし、執事は勇気を出してさらに一言付け加えた。

「昨日からは水すらほとんど口にしておりません。……リチャード様、一度ちゃんとお話になったほうがよろしいかと」

 この一言が決定打となった。
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