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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(14)

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 二つの閃光が交錯し、光魔法特有の衝突音が鳴り響く。
 しかしリックの中にある台本は比較的静かであった。
 女の考えが一撃離脱であったからだ。
 わざと攻撃を弾かせて互いの片手を止め、次の手が繰り出される前に離れたのだ。後ろから追ってくる大蛇から逃げるためだ。
 それはリックにとっても同じこと。長く足を止めてはいられない。
 そして、女をみすみす逃がすつもりも無かった。
「逃がさん」という意識を女の背に叩きつけながら地を蹴り直す。
 それを感じ取った女は後ろに振り返りつつ、網で迎撃しようとしたが、

「……っ!」

 直後、女は切り替わった。
 網での迎撃を中断したのだ。
 使うならば別の機会のほうがいい、そんな感情が女の意識に流れていた。

(……?)

 これにアランが違和感を抱いた。
 なぜ? 別の機会? 予測される未来に、より都合の良い状況があるということなのか?

(いや、それは……)

 何か違う気がする。あの万華鏡の中をざっと調べても、それらしい情報は見当たらない。

「……っ」

 もどかしさに歯を噛み締めようとも答えは出ない。
 そうしている間に、リックは壁沿いを走るシャロンの真右に並んだ。
 攻撃がぎりぎり届かない距離を維持したまま併走し、アラン達から見て奥側、大広間の入り口側を壁沿いに左隅から右隅へと駆け抜ける。
 その間、およそ数秒。
 二人を追う大蛇に舐められた壁が、石柱が、そして入り口の鉄門が赤く焼け染まる。
 互いに手は出さねども、意識は凄まじい速度で互いの手を読み合っていた。
 そしてその意識の交錯には終わりが近付いていた。
 目の前に部屋の角が、壁が迫っている。
 壁伝いに曲がって逃げるという選択肢は無い。リックが阻止するからだ。そしてそれはお互いに分かっている。
 ゆえに、

「ふっ!」「はっ!」

 二人の動きは同時で、やはり同じだった。
 二人が選んだ行動は角への跳躍。
 直交した二枚の壁を利用して壁蹴りを複数回行えるからだ。
 女は逃げるために、対するリックはそれを阻止するために。
 ゆえに、二人の軌道は交差していた。
 女は右の壁へ、リックはそれを止めるために左の壁へ。
 二人の影が、閃光が交錯しぶつかり合う。

「「くっ!」」

 すれ違い、壁に張り付いた二人の口から同時に声が漏れる。
 女は逃げ道を探していた。
 だが見つからない。リックの意識を振り切れない。それに対しての声。
 そしてリックが声を漏らした理由は女を叩き落せなかったことに対してのもの。
 ゆえに、二人は同じ形でもう一合ぶつかりあった。
 女の影が右から左へ。リックの影が左から右へ。
 されど結果は変わらず。
 ならば、まだだ、と、今度は声無くもう一合。

「「!」」

 その三合目にして遂に結果は変わった。
 ぶつかり合い、速度を落とした二つの影がはっきりとした実像を現す。
 女が放った斬撃をリックの左手が叩き払い、合わせて放ったリックの右拳を女が左手で受け止め、同時に繰り出された女の左膝をリックの右すねが受け止めている。
 形はほぼ五分。
 そして飛び出した速度もほぼ五分。
 だが、一つだけそうでは無いものがあった。
 それは重さ。女の方がやや軽い。
 結果、両者は互いに減速しつつも、リックが女を少し押しのける形になった。
 体がすれ違い、ぶつかり合っていた手足が離れる。
 そして先に壁に辿り着いたのは――

「はっ!」

 女の方であった。
 壁側に寄るように軌道を変えられたことが要因であった。
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