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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十七話 炎の槍(12)
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◆◆◆
クラウスが再び動き始めたのと同時に、
「!」
ベッドの上に横たわっていたアランの意識は覚醒した。
「……うぅっ」
しかし思考の速さと比べると、上半身を起こす動作はあまりにも弱弱しい。
全身を支配しているのは激痛であった。
が、アランの意識は心の中にある奇妙な感覚に向けられていた。
(呼ばれている……?)
声は聞こえない。だが、なぜかそう思えるのだ。
アランは感知の力を使って街の状況を調べた。
(……戦闘が起きている? クラウスが戦っている?)
自分を呼んでいる者の正体を理解した「つもり」になったアランは、ベッドから立ち上がった。
(行かなくては――クラウスが呼んで……?)
しかし直後にアランの心を塗り潰したのは違和感。
(いや……? クラウスとは違う?)
自分を呼ぶ者の気配はクラウスの近くから感じる――が、その者はすごく遠いところにいるような気がする。
矛盾した感覚だ。しかし今はそんなことはどうでもいい。
「とにかく……クラウスのところに行かなくては……」
ふらつく体に鞭打ちながら、アランは足を前に出した。
不思議なことに、満身創痍の自分が戦場に赴いてなんの役に立つのか、などという考えはこの時のアランの頭の中には一切無かった。
◆◆◆
アランが移動を開始した頃、リーザは決断を迫られていた。
防御魔法を展開する両手が疲労で悲鳴を上げ始めたのだ。
魔力の消耗も深刻。これ以上消耗すればただの光弾の撃ち合いすら不利になる。
さらに、目の前の男以外からも攻撃を受け始めた。
それは自分を守る兵士の数がかなり減っているということ。
この状況を改善出来るであろう選択肢は二つ。
一つは爆発魔法。目の前の男を倒せる手はこれしかないように思える。
だがこれは選択肢として弱い。
問題は距離が微妙なこと。全力の爆発魔法を準備するには近すぎる。そして引き撃ちが出来るほどの十分な空間は背後には無い。
さらにその準備中、目の前の男がただ待ってくれるなんてことはありえない。確実に攻撃される。なので必然的に爆発魔法の準備は片手でということになる。もう片方の手で展開した防御魔法で男の攻撃を防ぎながらということだ。
しかしこれは正直出来る気がしない。片手での準備は両手に比べてかなりの時間を要する上、成功率も高いとはいえない。そしてその間、あの跳弾を防ぎきる自身は全く無い。
ゆえに、無難な選択肢は一つしかないということになる。
視線を動かしてその候補となる場所を探す。
(……あった。あそこだ)
それは右にあった。
依然乱戦のままだが、そこは比較的敵の数が少なく、味方がそれなりに残っている。
その場所へ強引に駆け込むのだ。
すぐにでも実行出来る。
(……)
が、リーザは決断を迷った。
単純な選択のはずだ。要は逃げるか、やるか。そして天秤は「逃げ」のほうに大きく傾いている。
迷いなど必要ない、はずなのに――
(……)
数秒ほど思考。
敵の攻撃で視界が激しく明滅する中で、リーザが出した答えは、
(ここは両方!)
であった。
左手で防御魔法を展開し、右手で爆発魔法の準備をしながら、地を蹴る。
リーザの体が鋭く右に流れ始める。
目標地点への到達時間はおよそ三秒。
そう、たった三秒の勝負だ。まず止められはしない。
リーザはそう思っていたのだが、
「!?」
直後、リーザの視界を弾幕が覆った。
カイルが放った散弾。それらは全てリーザの防御魔法に叩き込まれ、閃光を散らした。
そのまばゆさと衝撃にリーザが眼を細めた瞬間、
「っっ?!」
腹部に衝撃。
折れていた肋骨の一本が肉を裂く感覚が伝わり、激痛が走る。
「……っっ!」
息が詰まるほどの痛みに、リーザの足が止まる。
これはなんだ? 全然見えなかった。 ――そんなことはわかりきっている。あの男が放った跳弾だ。そして今はそんなことを考えている場合じゃ無い。
そうだ、爆発魔法は? ――なんとか無事だ。維持出来ている。それよりもあの男はどうして自分の動きにこんなに早く反応出来た?
そのような簡単な疑問と答えが、リーザの脳裏に次々と浮かんでは消えていく。
そして最後の疑問の答えも単純。カイルには見当がついていたのだ。
先にも言ったが、追い詰められた際の人間の行動は大体決まっており、カイルはそれを経験でよく知っている。
人は出来るだけ安全な場所に逃げようとする。命の危険が迫っていればいるほど、追い詰められていればいるほど、その傾向は強くなる。
とてもわかりやすい。哀れに思えるほどに。
だからカイルはリーザが動いたのと同時に撃てたのだ。
そしてカイルの攻撃は一手だけでは無い。
クラウスが再び動き始めたのと同時に、
「!」
ベッドの上に横たわっていたアランの意識は覚醒した。
「……うぅっ」
しかし思考の速さと比べると、上半身を起こす動作はあまりにも弱弱しい。
全身を支配しているのは激痛であった。
が、アランの意識は心の中にある奇妙な感覚に向けられていた。
(呼ばれている……?)
声は聞こえない。だが、なぜかそう思えるのだ。
アランは感知の力を使って街の状況を調べた。
(……戦闘が起きている? クラウスが戦っている?)
自分を呼んでいる者の正体を理解した「つもり」になったアランは、ベッドから立ち上がった。
(行かなくては――クラウスが呼んで……?)
しかし直後にアランの心を塗り潰したのは違和感。
(いや……? クラウスとは違う?)
自分を呼ぶ者の気配はクラウスの近くから感じる――が、その者はすごく遠いところにいるような気がする。
矛盾した感覚だ。しかし今はそんなことはどうでもいい。
「とにかく……クラウスのところに行かなくては……」
ふらつく体に鞭打ちながら、アランは足を前に出した。
不思議なことに、満身創痍の自分が戦場に赴いてなんの役に立つのか、などという考えはこの時のアランの頭の中には一切無かった。
◆◆◆
アランが移動を開始した頃、リーザは決断を迫られていた。
防御魔法を展開する両手が疲労で悲鳴を上げ始めたのだ。
魔力の消耗も深刻。これ以上消耗すればただの光弾の撃ち合いすら不利になる。
さらに、目の前の男以外からも攻撃を受け始めた。
それは自分を守る兵士の数がかなり減っているということ。
この状況を改善出来るであろう選択肢は二つ。
一つは爆発魔法。目の前の男を倒せる手はこれしかないように思える。
だがこれは選択肢として弱い。
問題は距離が微妙なこと。全力の爆発魔法を準備するには近すぎる。そして引き撃ちが出来るほどの十分な空間は背後には無い。
さらにその準備中、目の前の男がただ待ってくれるなんてことはありえない。確実に攻撃される。なので必然的に爆発魔法の準備は片手でということになる。もう片方の手で展開した防御魔法で男の攻撃を防ぎながらということだ。
しかしこれは正直出来る気がしない。片手での準備は両手に比べてかなりの時間を要する上、成功率も高いとはいえない。そしてその間、あの跳弾を防ぎきる自身は全く無い。
ゆえに、無難な選択肢は一つしかないということになる。
視線を動かしてその候補となる場所を探す。
(……あった。あそこだ)
それは右にあった。
依然乱戦のままだが、そこは比較的敵の数が少なく、味方がそれなりに残っている。
その場所へ強引に駆け込むのだ。
すぐにでも実行出来る。
(……)
が、リーザは決断を迷った。
単純な選択のはずだ。要は逃げるか、やるか。そして天秤は「逃げ」のほうに大きく傾いている。
迷いなど必要ない、はずなのに――
(……)
数秒ほど思考。
敵の攻撃で視界が激しく明滅する中で、リーザが出した答えは、
(ここは両方!)
であった。
左手で防御魔法を展開し、右手で爆発魔法の準備をしながら、地を蹴る。
リーザの体が鋭く右に流れ始める。
目標地点への到達時間はおよそ三秒。
そう、たった三秒の勝負だ。まず止められはしない。
リーザはそう思っていたのだが、
「!?」
直後、リーザの視界を弾幕が覆った。
カイルが放った散弾。それらは全てリーザの防御魔法に叩き込まれ、閃光を散らした。
そのまばゆさと衝撃にリーザが眼を細めた瞬間、
「っっ?!」
腹部に衝撃。
折れていた肋骨の一本が肉を裂く感覚が伝わり、激痛が走る。
「……っっ!」
息が詰まるほどの痛みに、リーザの足が止まる。
これはなんだ? 全然見えなかった。 ――そんなことはわかりきっている。あの男が放った跳弾だ。そして今はそんなことを考えている場合じゃ無い。
そうだ、爆発魔法は? ――なんとか無事だ。維持出来ている。それよりもあの男はどうして自分の動きにこんなに早く反応出来た?
そのような簡単な疑問と答えが、リーザの脳裏に次々と浮かんでは消えていく。
そして最後の疑問の答えも単純。カイルには見当がついていたのだ。
先にも言ったが、追い詰められた際の人間の行動は大体決まっており、カイルはそれを経験でよく知っている。
人は出来るだけ安全な場所に逃げようとする。命の危険が迫っていればいるほど、追い詰められていればいるほど、その傾向は強くなる。
とてもわかりやすい。哀れに思えるほどに。
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そしてカイルの攻撃は一手だけでは無い。
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