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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十一話 頂上決戦(6)
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◆◆◆
カルロが赤い光弾を生み出したと同時に、ラルフは足を止めた。
(父の話通りならば、そろそろアレが来るはずだ)
ラルフは知っていた。カルロが何をしようとしているのかを。
正面にいるカルロが光弾を放つ。
その弾は遅く明らかに狙いを外しており、反射用に見えた。
が、そうではないことをラルフは知っていた。
その弾が自身の真左に差し掛かったと同時に、ラルフはその弾に向かって防御魔法を展開した。
瞬間、その光弾は文字通り「破裂」した。
ぼん、という鈍く大きな音と共に、裂けた球の中から炎と、そして大量の火の粉が周囲にあふれ出した。
これはリーザが使っていた爆発魔法と同じものである。
だが、カルロが使うものはリーザのような強烈な衝撃波が発生しない。それは次に述べるカルロの炎が持つある性質のせいである。
カルロは爆発する弾を連続で放った。
それらはラルフの周囲で次々と弾け、熱波と衝撃波を生み出した。
束となって襲い掛かかってくるその波を、ラルフは両手に展開した防御魔法で器用に受け止めた。
(聞いたとおり、威力そのものは大したことが無い)
だが、問題は別にあった。
ラルフの体に火の粉が雨のように降り注ぎ、纏わりつく。
それだけのことなのに痛い。
この火の粉は普通じゃない。自分が知っている火の粉とは、熱した炭などから生まれる火の粉とは明らかに違う。
すぐに消えない。この火の粉は肌に張り付いた後もしばらく眩い赤みを維持している。
肌に小さな水ぶくれが次々と出来てきているのがわかる。
(……まるでゆっくりと焼かれているようだ!)
その表現は正解であった。
言葉の通り、カルロの炎は燃焼速度が遅く、ゆっくりと燃えているのだ。
ゆえにカルロの炎は地獄のそれである。燃焼速度が遅いということは体に纏わりつく時間が長いということであり、それはすなわちゆっくりと焼き殺されるということなのだ。
リーザの炎のほうが残酷性は低い。カルロの炎は対人魔法としては残虐の極みである。
ラルフの体を覆う痛みは蓄積し、我慢出来ないものになるまでさほど時間はかからなかった。
(止まっていては駄目だ!)
痛みを糧にラルフは前進を再開した。
その心にあるのは後悔のみ。
あれほど父から念を押されていたのに足を止めてしまった。些細な警戒心なぞを経験者からの忠告より優先させてしまった。なんと愚かなのか。
(前へ、ひたすら前へ進まなければ!)
ずい、ずい、と、勢いよく足を前に出す。
そして、互いの顔がはっきりと見えるくらいにまで距離が詰まると、カルロの攻撃が緩やかになった。
瞬間、ラルフは察した。
(来る。炎が来る)
カルロが次の攻撃の準備をしていることを。
ラルフは落ち着き無く、感覚を確かめるように手を何度も開閉させた。
緊張が高まり、手と背に冷たい汗が滲む。
焦る原因は分かっている。失敗すれば死ぬからだ。
だから練習した。何度も、何度も。数え切れないほどに。目を瞑りながらでも成功させる自信が出来るほどに。
だが、炎を受けながらやったことは無い。
カルロの炎とは一体どれほどのものなのか。火の粉でこれほどなのだ、炎となれば相当だろう。
「……ふうーっ」
ラルフはわざとらしく大きな息を吐きながら、
(やるぞ、行くぞ)
覚悟を決めた。
カルロが赤い光弾を生み出したと同時に、ラルフは足を止めた。
(父の話通りならば、そろそろアレが来るはずだ)
ラルフは知っていた。カルロが何をしようとしているのかを。
正面にいるカルロが光弾を放つ。
その弾は遅く明らかに狙いを外しており、反射用に見えた。
が、そうではないことをラルフは知っていた。
その弾が自身の真左に差し掛かったと同時に、ラルフはその弾に向かって防御魔法を展開した。
瞬間、その光弾は文字通り「破裂」した。
ぼん、という鈍く大きな音と共に、裂けた球の中から炎と、そして大量の火の粉が周囲にあふれ出した。
これはリーザが使っていた爆発魔法と同じものである。
だが、カルロが使うものはリーザのような強烈な衝撃波が発生しない。それは次に述べるカルロの炎が持つある性質のせいである。
カルロは爆発する弾を連続で放った。
それらはラルフの周囲で次々と弾け、熱波と衝撃波を生み出した。
束となって襲い掛かかってくるその波を、ラルフは両手に展開した防御魔法で器用に受け止めた。
(聞いたとおり、威力そのものは大したことが無い)
だが、問題は別にあった。
ラルフの体に火の粉が雨のように降り注ぎ、纏わりつく。
それだけのことなのに痛い。
この火の粉は普通じゃない。自分が知っている火の粉とは、熱した炭などから生まれる火の粉とは明らかに違う。
すぐに消えない。この火の粉は肌に張り付いた後もしばらく眩い赤みを維持している。
肌に小さな水ぶくれが次々と出来てきているのがわかる。
(……まるでゆっくりと焼かれているようだ!)
その表現は正解であった。
言葉の通り、カルロの炎は燃焼速度が遅く、ゆっくりと燃えているのだ。
ゆえにカルロの炎は地獄のそれである。燃焼速度が遅いということは体に纏わりつく時間が長いということであり、それはすなわちゆっくりと焼き殺されるということなのだ。
リーザの炎のほうが残酷性は低い。カルロの炎は対人魔法としては残虐の極みである。
ラルフの体を覆う痛みは蓄積し、我慢出来ないものになるまでさほど時間はかからなかった。
(止まっていては駄目だ!)
痛みを糧にラルフは前進を再開した。
その心にあるのは後悔のみ。
あれほど父から念を押されていたのに足を止めてしまった。些細な警戒心なぞを経験者からの忠告より優先させてしまった。なんと愚かなのか。
(前へ、ひたすら前へ進まなければ!)
ずい、ずい、と、勢いよく足を前に出す。
そして、互いの顔がはっきりと見えるくらいにまで距離が詰まると、カルロの攻撃が緩やかになった。
瞬間、ラルフは察した。
(来る。炎が来る)
カルロが次の攻撃の準備をしていることを。
ラルフは落ち着き無く、感覚を確かめるように手を何度も開閉させた。
緊張が高まり、手と背に冷たい汗が滲む。
焦る原因は分かっている。失敗すれば死ぬからだ。
だから練習した。何度も、何度も。数え切れないほどに。目を瞑りながらでも成功させる自信が出来るほどに。
だが、炎を受けながらやったことは無い。
カルロの炎とは一体どれほどのものなのか。火の粉でこれほどなのだ、炎となれば相当だろう。
「……ふうーっ」
ラルフはわざとらしく大きな息を吐きながら、
(やるぞ、行くぞ)
覚悟を決めた。
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