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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十六話 ディアナからサラへ(4)

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   ◆◆◆

 一方、バージルの修行の日々は淡々と続いていた。
 それは緩やかであったが、着実に変化していった。
 バージルは今では十秒ほど石を浮かせられるようになっていた。

 そして、リックにも変化が現れていた。
 あの「見えない訓練」の後、右手に巻かれる包帯の量が明らかに減ったのだ。

 そして季節が移り、春が訪れた頃――
 その日、バージルは訓練場にてリックと対峙していた。
 双方は既に構えている。後はどちらが先に仕掛けるか。
 クレアはその様子を少し離れたところから見守っていた。


 一時間前――

「息子と手合わせさせて欲しい?」
「はい」
「……」

 バージルからの突然の申し出に面食らったクレアはすぐには答えられなかった。

「いけませんか?」

 バージルの眼差しに悪意は感じられない。だが、それでもクレアはその訳を尋ねた。

「何故です。見るだけでは不服ですか?」

 これにバージルは「はい」とはっきり答えた。

「……」

 クレアは暫し沈黙し、考えた。

(……精鋭の肩書きを持つ盾の一族の男。息子の修行の成果を見るには不足ない相手。悪い話では無い。それに技の「理」を教えさえしなければ見られるのも組み手も大して変わらない)

 クレアは「いいでしょう」と答えた後、言葉を付け加えた。

「ただし、真剣勝負は許しません。相手を殺さないように手加減すること。それと、有効な手が一撃決まった時点で終わりとします」

 この言葉を聞いたバージルは、深い礼を返した。
 だが、その顔は僅かに笑みを浮かべていた。

(……ここまではよし。後は勝負で技を使わせるだけだ。……お前たちが祖先から受け継いできた技術、もっと見せてもらわねばここに来た意味が無いからな)


 そうして今に至る。
 リックとバージル、双方の距離は少しずつ縮まっていた。
 間合いの広さでは槍斧を持つバージルの方に分がある。既に大きく踏み込めば攻撃を仕掛けられる距離。
 だが動かない。「一撃入った時点で終わり」というルールがバージルに緊張を与え、慎重にさせていた。
 対し、リックの緊張はバージルよりは軽かった。
 それはバージルが構えている武器がリックのよく知るものであったからだ。
 ゆえに、リックは先に仕掛けた。
足に魔力を込め、鋭く踏み込む。

「!?」

 その速度に、バージルは驚きをあらわにしつつも迎撃を放った。
 槍斧を右から左へ水平に一閃。直撃すれば首が飛ぶ一撃。
 これをリックは斧先が届くか届かないかのところで急減速をかけることで回避した。
 リックの足が一瞬止まる。バージルはそれを見逃さなかった。
 さらに一閃。リックの右肩を狙って斜めに振り下ろす。
 これをリックは体を右斜めに大きく傾けて回避した。
 槍斧を振り抜いた隙を突いて踏み込む。
 だが、リックはすぐに足を止め、後方に飛び退いた。
 バージルが光の壁を展開したからだ。
 リックはそのまま距離を取り、構えを整えた。

「……!」

 一方、クレアはバージルが放った一連の攻撃に目を見開いていた。
 加減が全く感じられない。あの振り方で寸止めが出来るとは到底思えない。一体どういうつもりなのか。

「……っ」

 答えの出ない問いに、唇をかみ締める。
 しかしクレアは試合を止めるべきだとは思わなかった。
 息子の回避動作に慣れと余裕が感じられたからだ。
 かつて長物を使う無能力者と何度か戦ったと聞いた。バージルが使っている獲物はそれと似ているか同じものなのだろう。
 そう考えたクレアは見開いていた目を細め、この戦いの行く先を思案した。
 そしてその視線の先、構えたまま微動だにしない息子は、母と同じくバージルとどう戦うべきかを思案していた。

(奴の攻撃、あの無能力者には劣るが侮れん。それに何よりもあの防御魔法、厄介だ)
そう考えた直後、リックはこの戦いが始まる前に母から言われた言葉を思い出した。


「息子よ、もし危ういようであれば奥義を使いなさい」
「バージルに見せてよろしいのですか?」
「構いません。戦場で強者と対峙すれば使わざるを得ないのですから。戦場で見せるもここで見せるも大差はありません」

 クレアは「それに――」と、言葉を繋げた。

「見るだけで簡単に盗めるようなものではありませんし」
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