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Ep1 あなたひとりの章(21)

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 しかし何も無い。足音などは聞こえてこない。あるのはただ風の音のみ。
 ならば、ここには誰もいないのか? 開けても大丈夫なのか?
 いや、それは出来ない。着信音が止まったのだから。可能性は捨てられない。これだけでは安全の保証にならない。
 では、もしも誰かが中にいるとして、そいつはどうして何もしない?
 もしかしたら、相手も自分と同じなのかもしれない。
 出来るだけ音を立てずに様子をうかがっているのかもしれない。
 だとしたら――そう思ったあなたは足を後ろに下げ始めた。
 包丁をドアのほうに構えたまま、後ろ歩きで来た廊下を戻る。
 当然、音は立てずに。
 たまに後ろを振り返って安全を確認する。
 ゆえにやはり牛歩。
 階段を下りる時は前後両方に対応出来るように横向きで。
 そしてあなたは行く時よりも多くの時間を使ってようやく、ソファーのところに戻ってきた。
 すごい疲労を感じる。
 その疲れが精神的なものなのか、それとも肉体的なものなのか、今のあなたには判断がつかなかった。
 音をたてないようにソファーに腰をおろす。
 出来るだけ体を休めるため、背もたれに体を預ける。
 そしてあなたは気付いた。
 後頭部になにかが触れていることに。
 それはカーテンだった。
 あなたは思った。
 さっき同じ場所に座っていた時よりもカーテンが前に出てきているような気がする、と。
 そしてあなたは思い出した。
 それは子供時代の古い記憶。
 かくれんぼでよくカーテンの裏に隠れていたことを。
 知らない相手には鉄板の隠れ場所。
 まさか――あなたはそう思った。
 そんなわけは無い、この裏には誰もいない、そう思える根拠を必死で探した。
 しかしそれは見つからなかった。
 だからあなたは祈った。
 見えない何かに必死で願った。
 しかし答えは返ってこない。
 ただ笑われている、そんな気がした。
 コモリガミ様が真上にある神棚から顔をのぞかせ、病的な目で笑いながらこちらを見下ろしている、そんな気がした。

   ◆◆◆

 一週間後――

 あなたはある番組で紹介されることになった。

「次のニュースです」

 画面の中にいる女性はあなたのことについて喋り始めた。

「山奥にある宿泊施設で、とても凄惨な事件が発生しました」

 ドローンからの撮影だと思われる、上空からの映像が映し出される。
 そこに映っていたのはあのペンションだった。

「警察は私情のもつれではないかという線で捜査を進めており――」

 こうしてあなたひとりの物語はその幕を閉じた。
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