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中等部編

第六話 わたし、中学生です! (7)

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   ◆◆◆

 深夜――

 アイリスは夜の寮を散歩していた。
 いや、それはアイリスの姿をした別人であった。
 そしてアイリスの形をした何者かがある窓の前で止まると、声が響いた。

「今夜は試運転といったところかしら?」

 ずっと尾行してきていたブルーンヒルデの声。 
 これに、アイリスの中にいる何者かは答えた。

「ええ、そんなところ」

 その声から、アイリスを操縦している人格が女性であることをブルーンヒルデは感じ取った。
 危険は無いことも感じ取れている。だからブルーンヒルデは警戒せずに再び口を開いた。

「人格の切り替えができるようになったのね。その技術はあとで教える予定だったけど、手間が省けて助かるわ」

 そう言いながらブルーンヒルデはアイリス(?)の隣に立ち並び、続けて口を開いた。

「だけど、テストするにしても時間を選んでくれない? 徹夜はお肌に悪いの」

 これに対し、アイリス(?)は、

「確かにその通りね。すぐにベッドに戻るわ」

 素直な言葉を返し、部屋へと戻っていった。
 もうテストは終わっていたからだ。途中からは本当にただの散歩だったからだ。

   ◆◆◆

 翌日――

 ついにこの日がやってきました! 中学生としての初登校日です! わたしの新たな青春の1ページ目です!
 私服でもOKと言われたけども、初日はビシッと制服でキメていきます!
 担任の女先生に案内され、教室へと足を踏み入れる。
 教室に入ると同時に大量の視線を感じた。
 大勢の女生徒の視線がわたしに集まる。
 あ、ちなみに男子はいないです。共学になるのは高等部からだそうです。さっき知りました。
 そしてわたしが黒板の前に立つと、担任の先生からお約束のセリフが響いた。

「今日からみなさんと学業を共にすることになった転校生のアイリスさんです」

 そう言ったあと、先生はわたしに自己紹介をうながした。
 あ、やっぱりこの人も感知能力者だ。「自己紹介をして」という言葉が頭の中に響いた。
 わたしはその言葉に従い、教室のみんなに向かって口を開いた。 

「アイリスです。スポーツが好きなので、部活は運動部に入ろうと思っています。みなさんよろしくお願いします」

 キマッた……100点満点の完璧に無難なあいさつと言えるでしょうこれは。誰に対してもトゲをたてない、不快感ゼロのパーフェクトなあいさつです! ウソもついてないし!
 わたしの予想通り、笑われたりすることは無かった。沈黙がうれしい。
 その沈黙を破ったのは先生だった。

「じゃあ、一番後ろの空いている席に座って。授業を始めます」

   ◆◆◆

 ……。

 やっば~い。授業わっかんな~い。
 まあ、島暮らしが長かったからね? 半年のブランクがあるからね? しょうがないよね? これから追い付けばいいのです!
 それよりも! いまは大事なことがあります! 昼休みなのです! この昼休みにやるべきことがあります!
 それは友達作り! キラキラした青春の実現には、ステキな友達が必要なのです!
 でもわたしは転校生。少し出遅れた存在。ゆえにクラスには既にグループができています。
 だがしかーし! わたしはちゃーんと調べていたのです! まだグループに入れていない子の存在を! 休み時間にチェックしていたのです! しかもその子はわたしの隣に座っています!
 その隣の子の印象を一言で言うと、「貴族のお嬢様」だ。
 まず服装が違う。違いすぎる。ドレスをカジュアルにした感じだ。いや~すごい格好だ。大人っぽい。
 物静かな雰囲気をまとっており、優等生という感じがする。姿勢がキレイ。さらに美人だ。
 わたしとは趣味が合わないかもしれない。しかしそんなことは関係無いのです! いまは選んでいる余裕など無いのです! もし趣味が合わなかったとしても、わたし色に染めてしまえばいいのです!
 あとは、この子が弁当派なのか、学食派なのか、どちらなのかということ。
 それは彼女の次の動作で判明する! ……来た!
 お財布を持って立ち上がった! つまり学食派! ここだ! ここで声をかけるんだ!
 わたしは本能のままに声をかけた。

「あなたも学食なの? 一緒に行ってもいい?」

 お嬢様っぽい子は頷きながら答えた。

「うん、いいけど……」

 その言葉と共に感情が伝わってきた。
「わたしでいいの?」って感じの遠慮がちな気持ち。
 いいに決まってるじゃないですか! ひとりぼっち同士、仲良くしましょう! 末永く!
 だからわたしは笑顔で口を開いた。

「よかった! わたしはアイリス、って、もう知ってるか。あなたの名前は?」

 お嬢様はキレイな声で答えた。

「クラリス」

 その名前で思いついたわたしは本能のままにそれを声に出した。

「クラリス?! リスつながりでいい感じだね!」

 わたしの笑顔につられたのか、それともわたしの言葉がおかしかったのかはわからないけど、クラリスは笑みを返してくれた。
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