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中等部編

第六話 わたし、中学生です! (3)

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 それは初めて聞く音では無かった。
 重く速い、エンジンの音。
 音を鳴らしている物はもう見えていた。大通りの前方から近づいてきていた。
 えーと、これはたしか……あ、そうだ! クルマだ!
 わたしがその名を思い出した直後、ヴィーさんが再び口を開いた。

「あれは現在主流になりつつあるガソリン自動車だな。第三共和国のPL社によって開発されたものだ」

 へえ~、そうなんですかあ~。ご説明はありがたいんですけど、あんまり興味は無いというか……カッコいいなとは思うけど。
 ヴィーさんの説明を聞いているうちにクルマは少しずつ減速し、わたし達の前で止まった。
 運転手はイケメンだった。誰がどう見ても好青年と呼べる感じの人だ。
 イケメンさんは窓から身を乗り出し、ヴィーさんに向かって口を開いた。

「お待ちしておりました! お久しぶりです! ……あー、ええと、今はたしかヴィーって名乗ってるんでしたっけ?」

 ヴィーさんは頷きながら答えた。

「ああ、そうだ」

 この時、ヴィーは気付いていた。
 こいつ、危うく俺のことを真名で呼びかけたぞ、と。
 ヴィーのそんな思いをよそに、イケメンはブルーンヒルデにも同じように声をかけた。

「お久しぶりです、ブルーンヒルデさん!」

 この時、ヴィーは思った。
 なんでブルーンヒルデのほうはちゃんと覚えてるんだ、俺のほうがよく会ってるだろ、と。
 そんなヴィーさんの思いをよそに、わたしはブルーンヒルデさんに尋ねた。

「知り合いなんですか?」 
「ええ、まあね。彼の名前は――」

 ブルーンヒルデさんはイケメンさんの名前を憶えているようだったけど、それでも本人に確認した。
 
「あなた、いまはなんと名乗ってるの?」

 イケメンさんは答えた。

「変えてませんよ! イタクァです! レーサー兼、メカニックやってます!」

 レーサーかあ。カッコいい職業ですねえ。
 わたしがそんな感想を抱くと、イタクァさんはわたしと視線を合わせながら口を開いた。

「その子が例の子ですか?」

 例の子ってなんだろう。わたしはどんな風に周知されているのだろうか。
 わたしのそんな疑問をよそに、ヴィーさんは答えた。

「ああ、そうだ」
「ふーん……この子が……」

 イタクァさんは再びわたしと視線を合わせながら、ニッコリと笑った。

「……!?」

 その笑顔に、わたしはちょっとだけ恐怖を覚えた。
 まるで悪だくみをしているかのような、口尻がひきつった笑顔。
 キレイな歯並びを見せつけるようにくちびるは大きく開いている。歯ぐきが少し見えているのが、恐怖をより煽ってくる。
 笑顔がとても残念なイケメンさんだ。
 わたしが怖気(おぞけ)と共にそんな感想を抱くと、イタクァさんはわたし達全員に対して口を開いた。
 
「さあ、みなさんどうぞ乗ってください。学校まで案内しますよ」

 その声に、わたしは喜々として真っ先に乗り込んだ。だってクルマに乗るのなんて初めてなんだもん!
 わたしはブルーンヒルデさんと一緒に後部座席に座った。
 そしてヴィーさんは助手席に座ると同時に口を開いた。
 
「約束までにはまだ時間がある。先に早めの昼食を済ませておきたい」

 この提案を、イタクァさんは了承してくれた。

「いいですね。なにか食べたいものはありますか?」

 一番に最初に口を開いたのはヴィーさんだった。

「酒が飲めるところならどこでもいい」

 これに、ブルーンヒルデさんが即答した。

「却下よ。食事のあとに人に会うんだから」

 わたしも同意です。却下です。飲めないお酒に興味ありません!
 だからわたしが声を上げた。

「ハンバーグかソーセージが食べたいです!」

 この提案にイタクァさんは乗ってくれた。

「イイネ! おいしい白ソーセージを出す店を知ってるよ!」

 白ソーセージ!? おいしそう! やったあ! そんなわたしの喜びと共にクルマは走り出した。
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