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第五話 わたし、島を出ます! (2)
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乗り込んだ船に飾り気は無かった。
あるのは機能美だけ。戦艦だから当たり前だけど。
それでも、ある一室だけはクリスマスのように飾られていた。
それは食堂。大きなケーキと一緒に軍人さん達が迎えてくれた。
乾杯の挨拶と共に宴会が始まり、わたしは遠慮無くごちそうを食べまくった。
対し、軍人さん達は食事を終えた人から自分の仕事に戻っていった。最後まで残っていたのはわたし達と、ルイスさんと数人の軍人さんだけだった。
そしてお腹いっぱいになったわたしは就寝用の部屋へと案内された。
与えられた寝室には飾り気は無かった。しかしベッドはキレイで、新調されたばかりに見えた。
広くも無い。むしろやや狭い。身を寄せ合えばなんとか二人いっしょに寝れる程度の広さ。
そんな寝室でわたしはブルーンヒルデさんに抱き締められながら眠りについた。
◆◆◆
そしてわたしはまたあの夢を見た。
海に惹かれる夢。
気付いた時には既に深く海の中。
目の前に夜のように暗い海が広がっている。
どうせ悪夢だ。すぐに引き返そう。そう思ったわたしは後ろへ振り返ろうとした。
が、瞬間、
「!?」
突如聞こえた声に、わたしの視線は再び闇の方へと向き直った。
耳をすます。
すると再び、かすかな声が聞こえた。
すごく遠くから叫んでいるような声。
声は前方の闇の中から響いているみたいだった。
わたしは怖いのを我慢して耳をすまし続けた。
すると、
「!」
声の主が闇の中から姿を現した。
それは、
「お姉ちゃん!」
再会は絶望的だと思っていた家族の一人だった。
わたしの呼び声に応えるように、お姉ちゃんも口を開く。
「―――!」
でもよく聞こえない。
視界に映るお姉ちゃんの像の大きさから、距離はそれほど遠くないように見える。しかし耳に届く声量はお姉ちゃんはとても遠くにいることを示している。
その矛盾を気にもせず、わたしは声を上げ続けた。
「―――!」
しかしお姉ちゃんの声はやはりはっきりとは届かない。
そしてしばらくすると、日が昇り始めたように視界が明るくなり始めた。
何が起きようとしているのか、わたしにはわかった。わたしが目を覚ましかけているのだ。
だからわたしはお姉ちゃんに向かって手を伸ばしながら泳ぎ始めた。
残り時間は短い。だからほとんど近づけないことはわかってる。それでもわたしは泳いだ。
泳ぎ始めて間も無く、場の明るさが増し、すべてが白く塗りつぶされ始めた。
お姉ちゃんの姿が白の中に溶けるように消え始める。
そしてお姉ちゃんの姿が完全に見えなくなる直前、一つの言葉がはっきりと聞こえた。
夢の中でもその言葉は頭に焼き付いた。なぜならお姉ちゃんは、
“逃げて”
と言ったからだ。
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