上 下
36 / 120

第五話 わたし、島を出ます! (1)

しおりを挟む
   ◆◆◆
 
  わたし、島を出ます!

   ◆◆◆

 試験が終わっても特訓の日々は続いた。
 そして冬が終わりを迎え、季節が春に移った頃、ついにその日は訪れた。

「今日ですよね! 今日なんですよね!」

 朝ごはんを食べながら、わたしは興奮のままにそれを声に出した。

「食べながらしゃべっちゃダメよ、アイリス」

 ブルーンヒルデさんに軽く怒られたが、これくらいでは今日のわたしは動じない。今日のわたしは無敵なのです!
 わたしは口の中の食べ物を飲みこんでから、再び声を上げた。

「今日、船が来るんですよね!」

 これに、ヴィーさんがパンをかじりながら答えた。

「ああ、そうだ。ルイステクノロジーからの迎えの船が来る。……すまないが、そこのジャムを取ってくれ」

 ブルーンヒルデさんはしぶしぶジャムを渡しながら文句を言った。

「だから、食べながらしゃべらないでって言ってるでしょ」

 これに、ヴィーさんは「ああ、悪い」と答えながらまたパンをかじった。まったく悪いと思ってませんよね?
 その態度に、ブルーンヒルデさんはあきらめの表情を浮かべたあと、わたしに向かって口を開いた。

「船は昼頃に到着の予定よ。だから今日は訓練は無し。お風呂に入って、おめかしして、ちゃんと準備して待っていましょうね?」

 確認の返事を求められていると受け取れるその疑問形のアクセントに、わたしは「了解です!」と力強く答え、朝ごはんを口にかきこんだ。

   ◆◆◆

「うわぁ……これはすごい船ですね……」

 沖に姿を現したその船に、わたしは感嘆の声を漏らした。
 それは戦艦だった。
 そしてわたしの感嘆の声に対し、隣にいるヴィーさんは突然語りだした。

「『プリンス・オーク』、海軍が誇る最新のリヴェンジ級戦艦だ。全長190mで、連装砲4基、単装速射砲14基、単装高角砲2基を搭載。すべてが精霊器による演算処理を受けて稼働する。最大の特徴はエンジンで、最新の魔力変換器を搭載。タービンは光魔法の力も利用して駆動し、最大速力は30ノットに達する」

 説明ありがとうございます! でも何言ってるかほとんどわかりませんでした!
 そんな難しい説明を聞きながら眺めていると、戦艦から一隻の小型艇が出てくるのが見えた。
 小型艇はわたし達の目の前で止まり、三人の男の人が乗っていた。
 二人は軍人だった。でももう一人は明らかに違った。
 軍服では無く、スーツを着ている。ビジネスマンにしか見えない。
 三人は船から降り、わたし達のほうへと歩み寄ってきた。
 そしてスーツの男の人が放った第一声によって、わたしの第一印象が正解であることが明らかになった。

「はじめましてアイリス。私はルイス。ルイステクノロジーの社長を務めている者であり、君を保護する者だ」

 この人がルイステクノロジーの社長さん!? 思ってたよりずっと若い。30代くらいに見える。
 その見た目に驚きつつも、わたしは差し出されたルイスさんの右手を掴み、握手に応じた。
 そして握手を終えたあと、ルイスさんはわたしの目を見ながら口を開いた。

「これから君を船に案内する。無骨な船で申し訳無いが、くつろげるように手を入れたつもりだ。食事も特別なものを用意しておいた。もちろん、おやつもある。チョコケーキは好きかい?」

 これに、わたしが「はい! 大好きです!」と元気よく答えると、ルイスさんは笑顔で口を開いた。

「それはよかった。じゃあ行こうか」

 この時、わたしの後ろにブルーンヒルデさんとヴィーさんもついてきていた。
 ここでお別れだと思っていたのだけど、わたしは気にしなかった。
 船にまで一緒に乗ってくれるなんて親切だなあと、わたしは深く考えずにそう思っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

処理中です...