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第一話 The Black Ones (8)
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背後から追ってきているであろう触手を振り切るために全力で走る。
が、
「……っ!」
突如、前方の曲がり角から現れた人達に、わたしの足はまたしても止まってしまった。
全員、顔面に黒い触手が巻き付いている。
その人達は目が見えないはずなのに、即座にわたしを認識して向かってきた。
どうすれば?!
何も思いつかない!
わたしの思考は止まってしまった。
わたしは自分の生存をあきらめかけていた。
せめて痛みが少なく終わってほしい、そんな思考が沸き上がりかけた瞬間、
「っ!?」
炸裂音が後ろから響いた。
花火のようなその音と共に、向かってきていた先頭の一人が倒れる。
それが銃声だと気付いたのと同時に、音はさらに連続で続いた。
音と共に向かってくる人達が次々と倒れていく。
全部倒れ方が同じ。髪を後ろから勢いよく引っ張られたみたいに倒れる。全部頭に当たってる。
そして六人目を倒した直後、今度は銃声のかわりに声が響いた。
「リロードする! 五秒援護しろ!」
その声とほぼ同時に、わたしの真横を大きな影が通り抜けていった。
速かった。だからわたしそれを影としか認識できなかった。
影はあっという間に距離を詰め、手にある何かを振り回した。
銀色の三日月がいくつも描かれ、一瞬遅れて赤い血が飛び散る。
その影の正体があの軍人さんであることと、振り回したのは軍刀だということにわたしが気付けたのは、三人を切り伏せてから呼吸を整えるために動きを止めた後だった。
直後に銃声が再び響き、残りの人達を撃ち倒していく。
そして前方の安全が確保できたと同時に、切り込んだ軍人さんは振り返って声を上げた。
「隊長!」
その声にわたしもつられて振り返った。
するとそこには、銃を持っている人ともう一人いた。
隊長と思われるそのもう一人は、軍刀を振り回してあの触手を切り刻んでいた。
すごい。一瞬だけど、恐怖も忘れて本当にそう思った。
触手は廊下を埋め尽くすほどに多い。でも隊長さんはたったの剣一本でそれらを切り止めている。
そして不思議なことに、剣を振っている回数と描かれる三日月の数が合わない。明らかに三日月の数が多い。
すぐにわたしは気付いた。
二回振るごとに三日月の数が増えてる。
その二回には特徴があった。
キレイな十字を描いている。
その直交した二本の銀色の線は風車のように回転を始めた。
そこから先は速すぎてよくわからなかったけど、しぼむように、いや、交差点に吸い込まれるように回転は小さくなった、と思う。
そして白い球のように圧縮された瞬間、それは弾けた。
いくつもの三日月に砕けて飛び散り、触手を切り刻む。
十字を描いて白い嵐を生み出す、それを繰り返しながら隊長さんは声を上げた。
「甲板へ向かえ! 守り神がすぐ近くに来ている! 神の力を借りてこの状況をひっくり返すぞ!」
その指示に、最前に立っている軍人さんはわたしに視線を移して口を開いた。
「走れるかい? ならついてきて!」
続けて隊長の声が響く。
「後ろは私が食い止める! 先に行け!」
その声に押されるように、わたし達は走り出した。
だけど隊長さんのことが気になるわたしは走りながら振り返って様子を見た。
見ると、隊長さんの背中に何かが覆いかぶさっていた。
いや、まとわりついていると表現したほうが正しいかもしれない。
まるで羽のように軽い衣を身にまとっているよう。
それを見た瞬間、わたしは確信を得た。
あれがあの奇妙の感覚の正体なのだと。
それが今は見える。光ってるから、魔力が充填されてるから見える。
光る衣は関節などの体の各部に巻き付くように繋がっている。
その衣の光が魔力を隊長さんの体に流し込んでいる。流れまで目に見える。
それによって隊長さんの体に力がみなぎっている。それを感じる。
そして隊長さんはその力を示した。
軍刀を二閃。十字を描く。
これまでのどの動きよりの速く、そして大きい。
廊下の端から端まで、そして床から天井まで届くほどに大きな十字が描かれる。
その大きな十字が回転を始めると同時に隊長さんは叫んだ。
いや、その声は口から響いたものでは無かった。頭に直接響いた。それがわかった。
その叫びと共に、隊長は軍刀を突き出し、回転する十字の中心を貫いた。
“穿ち(うがち)えぐる、テンペスタス・ルシス!!”
隊長の叫びと共に十字は差し込まれた剣に吸い込まれ、収束して弾けた。
そして放たれた三日月は、いや、これはもう三日月なんてものじゃ無い。それは荒れ狂う光の洪水だった。
光は大蛇のようにうねりながら群れとなって押し寄せ、触手をズタズタに引き裂いていった。
(すごい……!)
思わず心の中で声が響く。
人間はこんなことができるんだ、その驚きと共にわたしは感じた。自分の中に希望が芽生え始めたのを。隊長の存在は闇を照らし道を示す灯台のように感じられるようになっていた。
が、
「……っ!」
突如、前方の曲がり角から現れた人達に、わたしの足はまたしても止まってしまった。
全員、顔面に黒い触手が巻き付いている。
その人達は目が見えないはずなのに、即座にわたしを認識して向かってきた。
どうすれば?!
何も思いつかない!
わたしの思考は止まってしまった。
わたしは自分の生存をあきらめかけていた。
せめて痛みが少なく終わってほしい、そんな思考が沸き上がりかけた瞬間、
「っ!?」
炸裂音が後ろから響いた。
花火のようなその音と共に、向かってきていた先頭の一人が倒れる。
それが銃声だと気付いたのと同時に、音はさらに連続で続いた。
音と共に向かってくる人達が次々と倒れていく。
全部倒れ方が同じ。髪を後ろから勢いよく引っ張られたみたいに倒れる。全部頭に当たってる。
そして六人目を倒した直後、今度は銃声のかわりに声が響いた。
「リロードする! 五秒援護しろ!」
その声とほぼ同時に、わたしの真横を大きな影が通り抜けていった。
速かった。だからわたしそれを影としか認識できなかった。
影はあっという間に距離を詰め、手にある何かを振り回した。
銀色の三日月がいくつも描かれ、一瞬遅れて赤い血が飛び散る。
その影の正体があの軍人さんであることと、振り回したのは軍刀だということにわたしが気付けたのは、三人を切り伏せてから呼吸を整えるために動きを止めた後だった。
直後に銃声が再び響き、残りの人達を撃ち倒していく。
そして前方の安全が確保できたと同時に、切り込んだ軍人さんは振り返って声を上げた。
「隊長!」
その声にわたしもつられて振り返った。
するとそこには、銃を持っている人ともう一人いた。
隊長と思われるそのもう一人は、軍刀を振り回してあの触手を切り刻んでいた。
すごい。一瞬だけど、恐怖も忘れて本当にそう思った。
触手は廊下を埋め尽くすほどに多い。でも隊長さんはたったの剣一本でそれらを切り止めている。
そして不思議なことに、剣を振っている回数と描かれる三日月の数が合わない。明らかに三日月の数が多い。
すぐにわたしは気付いた。
二回振るごとに三日月の数が増えてる。
その二回には特徴があった。
キレイな十字を描いている。
その直交した二本の銀色の線は風車のように回転を始めた。
そこから先は速すぎてよくわからなかったけど、しぼむように、いや、交差点に吸い込まれるように回転は小さくなった、と思う。
そして白い球のように圧縮された瞬間、それは弾けた。
いくつもの三日月に砕けて飛び散り、触手を切り刻む。
十字を描いて白い嵐を生み出す、それを繰り返しながら隊長さんは声を上げた。
「甲板へ向かえ! 守り神がすぐ近くに来ている! 神の力を借りてこの状況をひっくり返すぞ!」
その指示に、最前に立っている軍人さんはわたしに視線を移して口を開いた。
「走れるかい? ならついてきて!」
続けて隊長の声が響く。
「後ろは私が食い止める! 先に行け!」
その声に押されるように、わたし達は走り出した。
だけど隊長さんのことが気になるわたしは走りながら振り返って様子を見た。
見ると、隊長さんの背中に何かが覆いかぶさっていた。
いや、まとわりついていると表現したほうが正しいかもしれない。
まるで羽のように軽い衣を身にまとっているよう。
それを見た瞬間、わたしは確信を得た。
あれがあの奇妙の感覚の正体なのだと。
それが今は見える。光ってるから、魔力が充填されてるから見える。
光る衣は関節などの体の各部に巻き付くように繋がっている。
その衣の光が魔力を隊長さんの体に流し込んでいる。流れまで目に見える。
それによって隊長さんの体に力がみなぎっている。それを感じる。
そして隊長さんはその力を示した。
軍刀を二閃。十字を描く。
これまでのどの動きよりの速く、そして大きい。
廊下の端から端まで、そして床から天井まで届くほどに大きな十字が描かれる。
その大きな十字が回転を始めると同時に隊長さんは叫んだ。
いや、その声は口から響いたものでは無かった。頭に直接響いた。それがわかった。
その叫びと共に、隊長は軍刀を突き出し、回転する十字の中心を貫いた。
“穿ち(うがち)えぐる、テンペスタス・ルシス!!”
隊長の叫びと共に十字は差し込まれた剣に吸い込まれ、収束して弾けた。
そして放たれた三日月は、いや、これはもう三日月なんてものじゃ無い。それは荒れ狂う光の洪水だった。
光は大蛇のようにうねりながら群れとなって押し寄せ、触手をズタズタに引き裂いていった。
(すごい……!)
思わず心の中で声が響く。
人間はこんなことができるんだ、その驚きと共にわたしは感じた。自分の中に希望が芽生え始めたのを。隊長の存在は闇を照らし道を示す灯台のように感じられるようになっていた。
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