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こんなとこでも

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(……さて。イリアも寝ちゃってることだし少し辺りを見てこようかな)

 心地好さそうに眠っている彼はそのままにしておこう。
 こんなにも無防備な寝姿は付き合って初めてだ。
 ベッドに腰を掛けて眺めていると、何時までもそうして見ていられるような気になってしまう。
 私は、よいしょ。と勢いをつけて立ち上がった。

(なんだか、良い夢でもみてるのかしらね……)

 イリアは私が離れても気付かずに爆睡しているご様子。
 時々何か寝言のようなものを言っているのか、むにゃむにゃと口が動いている。
 顔の側に置いた手もぴくっとたまに動きはするのだが、何かに反応しているわけでもなく。
 一体どんな夢を見ているやら。そもそも竜も人間と同じように夢を見るものなのかな。

 こうして正面から改まって見ると、やはりそれなりには整った顔をしていると思う。
 霧氷の騎士様は美貌の化身だとか何だとか街で散々噂されていたし、実際にそう言われるだけのことはある。
 最初にヒトの姿で出会った時からそう感じていたけれど、まじまじと見詰めていると髪も肌も本当に細やかで綺麗だ。
 その完成度たるや、まるで人を喜ばせるために作り出された完璧なお人形のようにも見えてくる。

 寝ていて動かないから余計に非現実的な生物だ。良い意味ではあるのだけれど。
 同じ竜でもシュルドは傲慢な性格のためか野蛮な雰囲気だったが、イリアはその反対で無機質な美しさがある。
 まさに氷の、といった感じだと思う。
 それでも、彼ら兄弟にはどこか似たような部分が無いわけでもない。
 イリアとて時々は強引だし、目の雰囲気に面影があったりもする。
 なんてことはきっと本人に言ったら相当嫌がるだろう。絶対に黙っておこう。

「……キャル……行かない、で……ください……そっちは、だめです……」

(あら……? あらら?)

 彼から微かに聞こえた寝言に耳をすます。
 部屋を出るのを引き留められたような。そんなことを喋ったような気がしたが、起きる気配はまるで無い。
 すっかり力を抜いて倒れている彼の手に触れてみると、優しく割れ物を掴むような力加減で彼の指が私の手を包んだ。

「……行かないで……ずっと、そばに……い、て……くださ……い……」

 いつからそんなことまで言うようになっていたんだろう。
 温もりが伝わる指を私も握り返してつい朗らかに頷いてしまう。

「大丈夫よ、イリア。何処にも行かないから安心して休んで」

 優しく声を掛けてみると、彼の顔が嬉しそうに綻んだ。
 綴じた目の下で小さく開いた唇がほんの少しだけ震え、無垢な赤ん坊のように幸福(しあわせ)に満たされて弛む。
 出歩くつもりだったのに、また彼の寝顔を見始めてしまうと動けない。だめだこれ。いや、これはだめだ。
 このままでは無限ループに陥ってしまう。

(んっ……!?)

 ふと彼の指が弛んだ隙に手を離す。
 片手を戻したその際。
 何か生暖かい物が動かした手をかすめ、見れば眠っているイリア股の位置辺りの掛布がもぞもぞと不自然に盛り上がっていて。

(前言撤回。ぜんぶ。台無しよ。この最低おバカ……)

 本当に良い夢を見ているのか、私が触れたことで反応したのか。
 寝ている間、無意識な状態では理由はないというし何故だかは解らないが彼の股間が勃起していることに気付いてしまう。
 私は勝手に彼に対して傷心し、また今度は勝手にがっかりしてしまっていた。

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