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逆じゃない

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 イリアとの性交は時々、終わりが来ないんじゃないかと不安になるくらい長いことがある。
 昨晩の風呂場での時はとくにそうだった。
 体を洗おうとこちらから言い出さなければいつまでも繋がっていたかもしれない。そう思うほど互いに求めあっていた。

 人当たりもよく秀麗。使用人たちにも信頼されているイリア。
 しかし、温厚篤実で涼しげな笑みを携えた騎士様の素顔はひっくり返せば性欲の化物……むしろ年がら年中発情期……というか、何時でも何処でも交尾のことばかり考えているいやらしいドラゴン様である。
 屋敷の中でも街に出ても彼の本当の姿や正体は私しか知らないし、私も誰かに話そうと思ったことはない。
 まぁ、言ったところで信じてくれたのは専門医として交流してくれているリメロくらいなものだったわけだし。

ところで私は今、そんな彼(やつ)と至って普通のありきたりなお泊まりデートをすることになって悩んでいる。
 頭を抱えて悩むことはこれまでにもあったけれど、今回は今までにないほど私の中では特殊な案件。
 
(イリアと普通の旅行……? って、なに? 旅行って。一体またどうしたらいいっていうの……?)

 先に述べた通り、イリアなんていう清廉な振りをした竜様の頭の中は毎日性交の事でいっぱいで、野生の魔物だとか眞正のケダモノ野郎だとか思っていた私。
 そんな目で見ていたイリア当人の口から、

「キャル、次の休暇は二人で出掛けましょう。君が思い描く人間同士の恋愛をするために私も考えたんです。使用人たちの目の届かないところへ行って、二人きりの時間をゆっくりと気ままに過ごしましょうね」

 ……だなんて台詞が出たというまさかまさかの案件である。
 しかも、普段の余裕げな表情ではなく、少し遠慮がちに恥じらいながら言うなんて意味深な片手のジェスチャーまで付けてきた日には、私も腰が痛すぎて股から下が抜け飛んだかと思ったくらい驚いてしまった。

 確かにここ最近は急にしおらしくなったりもするし、出会った頃とは比べられないほど色々な表情を見せるようにもなったイリア。
 つい先日なんて私のことを考えるだけで自慰をするようになったと要らない報告までしてきたし、それを女々しい事だと落ち込む素振りまでする始末だ。
 そんな彼がとうとうエッチなことを抜きにして私と付き合いたいとまで言うようになったなんて。

(いや、普通だったら逆なんだけどね。お付き合いしてからそういう関係になっていくものだと思うんだけど……)

 イリアのことを動物的に思い、偏った見方をしていたのには素直に反省。
 端から見た私達の関係は付き合いたてのまだまだ初々しいカップルみたいなものなのだろう。
 誰一人私達が体の関係を最初に済ませていて、都合の良い愛玩遊具みたいな扱いを経てから今の状態になっているとは思うまい。

「お二人でのご旅行、楽しんできてくださいね。素敵なお土産話待ってますから」

「う、うん……」

 勉強会の後に自室まで来てくれ、服選びや荷造りを手伝ってくれているリーサと他愛ない会話を交わしながら明日の準備をする。
 支度が終わる頃には、なんだかんだで楽しみにしてしまうくらいに気持ちも切り替わっていた。



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