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思わせ振りに
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どうして偶然通りがかるのよ。いくらなんでもこの広い港街の大通りで。
これだけ多くの人が往来している中で、さっきまで街の風景だった私達にスポットライトを当て話し掛けてきた顔の綺麗な騎士様を私は睨む。
「……イリアさん。その……本当にキャルとご結婚なさったんですか?」
ネフィは私とイリアを交互に見たあと、少し控えめに尋ねた。
そんな彼女の質問にイリアは一旦私の顔色をうかがうように覗き込み、考えて言葉を選ぼうとゆっくり見詰めるような振りをする。
……嫌な予感が確信に変わる。私には解っている。
こういうときの彼は素振りだけ人間の真似事が出来る魔物だ。
わざと考える顔だけしていて、私の顔色なんて本当はちっとも見ていない。
既に何と答えるか決めてるのにもっと先の思考を巡らせながら、私の出方を待って何か別の悪戯を仕掛けようとしている時の表情だ。
癪なことに、イリアの悪ふざけに引っ掛けられるのを知りながら私はネフィの勘違いを解かねばならない。
「ネフィ、それはただの噂で私たちはね……」
「私はそのつもりですよ」
私の言葉を遮ってイリアが言う。
ほらきた。と内心思いながら、近付いてくる彼を見上げる。
はっきりとした台詞で遮られたことにきょとんとしているのは、ネフィだけじゃなく私もだ。
「今の任務が落ち着いたら小さな教会で式を挙げるつもりです。そうですよね? キャル」
誰もがこの男のこれに騙されてきたであろう必殺の爽やかな笑みがネフィを丸め込んでしまう。
次いで私の頭に頬を寄せて密着しながら確認の言葉は、肯定以外を選ばせる気がないほどの強制力。
私は彼の勝手すぎる先を行きすぎた妄想にも抗えず、眉間にしわを寄せながら、
「イリア……恥ずかしいからヤメテ」
やっとのことで片言混じりの返事をする。
(うわぁ。なんで嬉しそうなのこの人……?! なんで私のほうはこんなに、なってるのに……)
腹が立つほど白々しくて清々しい、満足そうな笑顔のイリアがネフィに礼儀の手本ともいえるお辞儀をした。
その所作に感動したネフィは両手を合わせて目をキラキラさせ、
「招待状、楽しみに待ってます!」
だからね、ネフィ。そうじゃないのよ。気付いて。
……なんて私の気持ちは彼女にはこの場では伝わらなかった。
すっかりイリアの良いように丸め込まれてしまった私に彼女は、
「お幸せに! は、まだ式までとっておかなきゃよね。イリアさん、キャルのことどうぞよろしくお願いします」
と頬を赤くしながら言い残して去ってしまった。
これだけ多くの人が往来している中で、さっきまで街の風景だった私達にスポットライトを当て話し掛けてきた顔の綺麗な騎士様を私は睨む。
「……イリアさん。その……本当にキャルとご結婚なさったんですか?」
ネフィは私とイリアを交互に見たあと、少し控えめに尋ねた。
そんな彼女の質問にイリアは一旦私の顔色をうかがうように覗き込み、考えて言葉を選ぼうとゆっくり見詰めるような振りをする。
……嫌な予感が確信に変わる。私には解っている。
こういうときの彼は素振りだけ人間の真似事が出来る魔物だ。
わざと考える顔だけしていて、私の顔色なんて本当はちっとも見ていない。
既に何と答えるか決めてるのにもっと先の思考を巡らせながら、私の出方を待って何か別の悪戯を仕掛けようとしている時の表情だ。
癪なことに、イリアの悪ふざけに引っ掛けられるのを知りながら私はネフィの勘違いを解かねばならない。
「ネフィ、それはただの噂で私たちはね……」
「私はそのつもりですよ」
私の言葉を遮ってイリアが言う。
ほらきた。と内心思いながら、近付いてくる彼を見上げる。
はっきりとした台詞で遮られたことにきょとんとしているのは、ネフィだけじゃなく私もだ。
「今の任務が落ち着いたら小さな教会で式を挙げるつもりです。そうですよね? キャル」
誰もがこの男のこれに騙されてきたであろう必殺の爽やかな笑みがネフィを丸め込んでしまう。
次いで私の頭に頬を寄せて密着しながら確認の言葉は、肯定以外を選ばせる気がないほどの強制力。
私は彼の勝手すぎる先を行きすぎた妄想にも抗えず、眉間にしわを寄せながら、
「イリア……恥ずかしいからヤメテ」
やっとのことで片言混じりの返事をする。
(うわぁ。なんで嬉しそうなのこの人……?! なんで私のほうはこんなに、なってるのに……)
腹が立つほど白々しくて清々しい、満足そうな笑顔のイリアがネフィに礼儀の手本ともいえるお辞儀をした。
その所作に感動したネフィは両手を合わせて目をキラキラさせ、
「招待状、楽しみに待ってます!」
だからね、ネフィ。そうじゃないのよ。気付いて。
……なんて私の気持ちは彼女にはこの場では伝わらなかった。
すっかりイリアの良いように丸め込まれてしまった私に彼女は、
「お幸せに! は、まだ式までとっておかなきゃよね。イリアさん、キャルのことどうぞよろしくお願いします」
と頬を赤くしながら言い残して去ってしまった。
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