8 / 28
秘密の共有
しおりを挟む
ーーーーと、いったわけで。
エステラがシュルド相手にしてくれたお仕置きにより私は竜の精液を手に入れることが出来た。
生暖かい液体でいっぱいになった瓶を持って帰り、朝早くから診療所に来た私にリメロはとても驚いた様子で、
「一体これをどこで……」
と、瓶の中身を確認しながら聞こうとしてやめ、すぐにイリアの体質改善のための特効薬をすぐに調合してくれた。
「数回分、小瓶にわけてあるわ。行為の前に経口摂取させて。発情を促す効果もあるから注意して使うのよ」
「ありがとうございます、リメロ先生」
お礼を言って立ち去ろうとすると、コホン。と咳払い、「それと」と続ける。
「彼とうまくいったら……要は膣内射精が成功したら経過をみるから必ず通院して」
「わ、わかりました」
解ってはいたけれどみなまで言われると何だか恥ずかしい。
イリアが私を求める目的も、リメロの仕事も理解している。言葉に出してみると実感がわかなくてたどたどしくなってしまうだけ。
(だって、ねぇ……私、キャルはあの晩までは処女だったんだもの……)
それが今となっては。
夜伽をこんなにも楽しみに待っているなんて。
薬の入った小瓶を握ったままベッドの上で足をばたつかせる。
落ち着かない。不思議な気持ち。どうしてこんなにも。
イリアを待っている間に色んな事を考えてしまう。
初めての時はそれこそ本気で嫌がっていたのに、自分から彼の体の問題を解決しようと昨日一日奔走したこと。
エステラとシュルドのお陰で、怖い思いもしたけれど薬をリメロに調合して貰えたこと。
苦労話を思い返してはイリアの顔を浮かべる。彼は私に感謝するだろうか。してくれなかったらなんて言おうか。
そんな風に考えるうち、私は無意識に自分の下着の中に手を入れていたらしい。
「…………キャル?」
「えっ」
私の姿を見てきょとんとするイリアがドアの側に立っていたのにも気付かなかった。
彼が私の下半身に当てている視線を振り払うように慌て、私は下着から手を抜いた。
「これは、ええと……その」
しどろもどろになってしまう。
言い訳を考えてから口に出すことができなくて酸素不足の金魚みたいになった私に、イリアは笑いながら近付き隣に腰を掛けた。
「待ちきれなかったんですね。ふふ。いいですよ、キャル。私もすぐに……」
「ちょっと、待って! 今日はね、イリアに試して欲しいものがあって」
「はい?」
不注意な発情を恥ずかしがっているようにでも彼には見えたんだろうか。
愛想良い笑みで頷いて衣服の前合わせを解(ほど)くイリアに待ての合図をし、
「これ。貴方の為に用意、したの」
とっておきを突きつけた。
瓶の中の液体がぐらりと揺れ、私にあてられていたイリアの視線が薬へと向く。
「貴女の体質改善のために、材料を探しに行ってちょっと色々あったんだけど評判の医者(せんせい)にお願いしてつくってもらったお薬で、だからその」
すかさず私が早口で説明をすれば彼は黙って瓶を受け取り、躊躇(ためら)うことなく一気に飲み干した。
意外な行動に私の方が今度は驚かされてしまう。
(正直、もうちょっと躊躇らったり怪しんだりするかと思ってたんだけど……)
説明をし終わる前に薬を飲みきったイリアが空の小瓶を側のテーブルへ置く。
そうしてゆっくりとこちらを見た彼の目は、気のせいだろうか少し潤んでいるように見えた。
(何か……何か言わなくちゃ……)
黙って私を見つめるイリア。
その表情が何故だか妙に艶っぽくて、変な薬を飲んで奇妙な副作用でも出てしまっているのではないかと、私のほうが疑ってしまいそうになる。
言葉に詰まり無意識に俯く。
私は両手を腿の上でぎゅっと握り締めた。
「キャル」
二人ベッドに腰掛けながら暫くの沈黙。
静まり返った部屋の空気を先に動かしたのはイリアのほうだ。
騎士団で指定されている白いシャツを脱ぎズボンをゆるませ、耳元で囁くように私を呼ぶ。
「えっと……な、なに……?」
「ありがとうございます。その……とても嬉しかったです。貴方が私の為に薬を用意してくれたことが」
薬の効果のことばかり考えてしまっていた私のぎこちない返事にも関わらず、イリアは私に身を寄せながらお礼を述べた。
丁寧に、言葉を選ぶように、真っ直ぐな気持ちで私に心から感謝していると。
その時、私は初めて知ってしまった。
イリアが私が思っていた以上に純粋な気持ちで私のことを信頼して見てくれていることを。改めて、私以上に好いてくれているということを。
この気付きは本当は初めてではない。きっと心のどこかではわかっていて、でもまだ私は彼のことをきちんと受け入れかねていたのだ。
彼のことをよく知らないという理由で軽く見ていた。ただ淫乱なだけの生き物だって見下げていた。
イリアは私の何倍も私との事に真剣で、私を不用心に条件付きで必要としてくれる存在で。
「貴女には必ず私の子を産んでもらいますよ。絶対にです」
そう思っていたところにもう一度声を掛けられて、彼の揺れる瞳の真ん中に映る自分自身を見る。
たまらず視線を外して彼の頬へ、顎へ首へとおろしていく。一番下、腰まで来て、開かれた下穿きの間に妙に惹かれる。
今夜の彼は何故だろうか。特別、特段に魅力的に見えた。リメロから特効薬とはきいていなかったのだけれど。
「……あのさ。そろそろその理由を聞いてもいいかな? イリア」
「はい?」
「だからその。貴方がそうまでして子供を欲しがる理由よ。それを私はまだ聞いてない。薬の事だって、全然用心しないし……っていうか……」
「君が持ってきてくれたものに用心する必要が?」
「ない、けど。例えば毒を飲ませて逃げ出すつもりだったとか、あるかもしれないでしょう?」
私の言葉に「はて」ととぼけた返事をする。
イリアは思っていたよりもずっとずっと単純で明快で気優しいのだ。ネガティブなイメージを山盛り抱えて不安を引っ提げ、気を張っていた私が馬鹿を見るくらいに。
もともと自殺未遂をしたような私だ。私と比べて遥かに前向きで熱心で、出会った時から私の事を信用し過ぎている彼には敵わない。この言い合いにはつい私も笑いだしそうになってしまった。
そんな自然体の笑いすらもイリアに先を越されてしまう。
私の様子に仕方なさそうにほほ笑み、片手で私の顎を引き寄せながら彼は話し始めた。
エステラがシュルド相手にしてくれたお仕置きにより私は竜の精液を手に入れることが出来た。
生暖かい液体でいっぱいになった瓶を持って帰り、朝早くから診療所に来た私にリメロはとても驚いた様子で、
「一体これをどこで……」
と、瓶の中身を確認しながら聞こうとしてやめ、すぐにイリアの体質改善のための特効薬をすぐに調合してくれた。
「数回分、小瓶にわけてあるわ。行為の前に経口摂取させて。発情を促す効果もあるから注意して使うのよ」
「ありがとうございます、リメロ先生」
お礼を言って立ち去ろうとすると、コホン。と咳払い、「それと」と続ける。
「彼とうまくいったら……要は膣内射精が成功したら経過をみるから必ず通院して」
「わ、わかりました」
解ってはいたけれどみなまで言われると何だか恥ずかしい。
イリアが私を求める目的も、リメロの仕事も理解している。言葉に出してみると実感がわかなくてたどたどしくなってしまうだけ。
(だって、ねぇ……私、キャルはあの晩までは処女だったんだもの……)
それが今となっては。
夜伽をこんなにも楽しみに待っているなんて。
薬の入った小瓶を握ったままベッドの上で足をばたつかせる。
落ち着かない。不思議な気持ち。どうしてこんなにも。
イリアを待っている間に色んな事を考えてしまう。
初めての時はそれこそ本気で嫌がっていたのに、自分から彼の体の問題を解決しようと昨日一日奔走したこと。
エステラとシュルドのお陰で、怖い思いもしたけれど薬をリメロに調合して貰えたこと。
苦労話を思い返してはイリアの顔を浮かべる。彼は私に感謝するだろうか。してくれなかったらなんて言おうか。
そんな風に考えるうち、私は無意識に自分の下着の中に手を入れていたらしい。
「…………キャル?」
「えっ」
私の姿を見てきょとんとするイリアがドアの側に立っていたのにも気付かなかった。
彼が私の下半身に当てている視線を振り払うように慌て、私は下着から手を抜いた。
「これは、ええと……その」
しどろもどろになってしまう。
言い訳を考えてから口に出すことができなくて酸素不足の金魚みたいになった私に、イリアは笑いながら近付き隣に腰を掛けた。
「待ちきれなかったんですね。ふふ。いいですよ、キャル。私もすぐに……」
「ちょっと、待って! 今日はね、イリアに試して欲しいものがあって」
「はい?」
不注意な発情を恥ずかしがっているようにでも彼には見えたんだろうか。
愛想良い笑みで頷いて衣服の前合わせを解(ほど)くイリアに待ての合図をし、
「これ。貴方の為に用意、したの」
とっておきを突きつけた。
瓶の中の液体がぐらりと揺れ、私にあてられていたイリアの視線が薬へと向く。
「貴女の体質改善のために、材料を探しに行ってちょっと色々あったんだけど評判の医者(せんせい)にお願いしてつくってもらったお薬で、だからその」
すかさず私が早口で説明をすれば彼は黙って瓶を受け取り、躊躇(ためら)うことなく一気に飲み干した。
意外な行動に私の方が今度は驚かされてしまう。
(正直、もうちょっと躊躇らったり怪しんだりするかと思ってたんだけど……)
説明をし終わる前に薬を飲みきったイリアが空の小瓶を側のテーブルへ置く。
そうしてゆっくりとこちらを見た彼の目は、気のせいだろうか少し潤んでいるように見えた。
(何か……何か言わなくちゃ……)
黙って私を見つめるイリア。
その表情が何故だか妙に艶っぽくて、変な薬を飲んで奇妙な副作用でも出てしまっているのではないかと、私のほうが疑ってしまいそうになる。
言葉に詰まり無意識に俯く。
私は両手を腿の上でぎゅっと握り締めた。
「キャル」
二人ベッドに腰掛けながら暫くの沈黙。
静まり返った部屋の空気を先に動かしたのはイリアのほうだ。
騎士団で指定されている白いシャツを脱ぎズボンをゆるませ、耳元で囁くように私を呼ぶ。
「えっと……な、なに……?」
「ありがとうございます。その……とても嬉しかったです。貴方が私の為に薬を用意してくれたことが」
薬の効果のことばかり考えてしまっていた私のぎこちない返事にも関わらず、イリアは私に身を寄せながらお礼を述べた。
丁寧に、言葉を選ぶように、真っ直ぐな気持ちで私に心から感謝していると。
その時、私は初めて知ってしまった。
イリアが私が思っていた以上に純粋な気持ちで私のことを信頼して見てくれていることを。改めて、私以上に好いてくれているということを。
この気付きは本当は初めてではない。きっと心のどこかではわかっていて、でもまだ私は彼のことをきちんと受け入れかねていたのだ。
彼のことをよく知らないという理由で軽く見ていた。ただ淫乱なだけの生き物だって見下げていた。
イリアは私の何倍も私との事に真剣で、私を不用心に条件付きで必要としてくれる存在で。
「貴女には必ず私の子を産んでもらいますよ。絶対にです」
そう思っていたところにもう一度声を掛けられて、彼の揺れる瞳の真ん中に映る自分自身を見る。
たまらず視線を外して彼の頬へ、顎へ首へとおろしていく。一番下、腰まで来て、開かれた下穿きの間に妙に惹かれる。
今夜の彼は何故だろうか。特別、特段に魅力的に見えた。リメロから特効薬とはきいていなかったのだけれど。
「……あのさ。そろそろその理由を聞いてもいいかな? イリア」
「はい?」
「だからその。貴方がそうまでして子供を欲しがる理由よ。それを私はまだ聞いてない。薬の事だって、全然用心しないし……っていうか……」
「君が持ってきてくれたものに用心する必要が?」
「ない、けど。例えば毒を飲ませて逃げ出すつもりだったとか、あるかもしれないでしょう?」
私の言葉に「はて」ととぼけた返事をする。
イリアは思っていたよりもずっとずっと単純で明快で気優しいのだ。ネガティブなイメージを山盛り抱えて不安を引っ提げ、気を張っていた私が馬鹿を見るくらいに。
もともと自殺未遂をしたような私だ。私と比べて遥かに前向きで熱心で、出会った時から私の事を信用し過ぎている彼には敵わない。この言い合いにはつい私も笑いだしそうになってしまった。
そんな自然体の笑いすらもイリアに先を越されてしまう。
私の様子に仕方なさそうにほほ笑み、片手で私の顎を引き寄せながら彼は話し始めた。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
偽りの婚約のつもりが愛されていました
ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。
だけど私は子爵家の跡継ぎ。
騒ぎ立てることはしなかった。
子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として
慎ましく振る舞ってきた。
五人目の婚約者と妹は体を重ねた。
妹は身籠った。
父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて
私を今更嫁に出すと言った。
全てを奪われた私はもう我慢を止めた。
* 作り話です。
* 短めの話にするつもりです
* 暇つぶしにどうぞ
愛を知ってしまった君は
梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。
実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。
離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。
妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。
二人の行きつく先はーーーー。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?
通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。
王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。
周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。
※以前他のサイトで掲載していた作品です
【完結】お前なんていらない。と言われましたので
高瀬船
恋愛
子爵令嬢であるアイーシャは、義母と義父、そして義妹によって子爵家で肩身の狭い毎日を送っていた。
辛い日々も、学園に入学するまで、婚約者のベルトルトと結婚するまで、と自分に言い聞かせていたある日。
義妹であるエリシャの部屋から楽しげに笑う自分の婚約者、ベルトルトの声が聞こえてきた。
【誤字報告を頂きありがとうございます!💦この場を借りてお礼申し上げます】
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
可愛いあの子は。
ましろ
恋愛
本当に好きだった。貴方に相応しい令嬢になる為にずっと努力してきたのにっ…!
第三王子であるディーン様とは政略的な婚約だったけれど、穏やかに少しずつ思いを重ねて来たつもりでした。
一人の転入生の存在がすべてを変えていくとは思わなかったのです…。
(11月5日、タグを少し変更しました)
✻ゆるふわ設定です。
お気軽にお読みいただけると嬉しいです。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる