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秘密の共有

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 ーーーーと、いったわけで。

 エステラがシュルド相手にしてくれたお仕置きにより私は竜の精液を手に入れることが出来た。
 生暖かい液体でいっぱいになった瓶を持って帰り、朝早くから診療所に来た私にリメロはとても驚いた様子で、

「一体これをどこで……」

 と、瓶の中身を確認しながら聞こうとしてやめ、すぐにイリアの体質改善のための特効薬をすぐに調合してくれた。

「数回分、小瓶にわけてあるわ。行為の前に経口摂取させて。発情を促す効果もあるから注意して使うのよ」

「ありがとうございます、リメロ先生」

 お礼を言って立ち去ろうとすると、コホン。と咳払い、「それと」と続ける。

「彼とうまくいったら……要は膣内射精が成功したら経過をみるから必ず通院して」

「わ、わかりました」

 解ってはいたけれどみなまで言われると何だか恥ずかしい。
 イリアが私を求める目的も、リメロの仕事も理解している。言葉に出してみると実感がわかなくてたどたどしくなってしまうだけ。

(だって、ねぇ……私、キャルはあの晩までは処女だったんだもの……)

 それが今となっては。
 夜伽をこんなにも楽しみに待っているなんて。

 薬の入った小瓶を握ったままベッドの上で足をばたつかせる。
 落ち着かない。不思議な気持ち。どうしてこんなにも。
 イリアを待っている間に色んな事を考えてしまう。

 初めての時はそれこそ本気で嫌がっていたのに、自分から彼の体の問題を解決しようと昨日一日奔走したこと。
 エステラとシュルドのお陰で、怖い思いもしたけれど薬をリメロに調合して貰えたこと。
 苦労話を思い返してはイリアの顔を浮かべる。彼は私に感謝するだろうか。してくれなかったらなんて言おうか。
 そんな風に考えるうち、私は無意識に自分の下着の中に手を入れていたらしい。

「…………キャル?」

「えっ」

 私の姿を見てきょとんとするイリアがドアの側に立っていたのにも気付かなかった。
 彼が私の下半身に当てている視線を振り払うように慌て、私は下着から手を抜いた。

「これは、ええと……その」

 しどろもどろになってしまう。
 言い訳を考えてから口に出すことができなくて酸素不足の金魚みたいになった私に、イリアは笑いながら近付き隣に腰を掛けた。

「待ちきれなかったんですね。ふふ。いいですよ、キャル。私もすぐに……」

「ちょっと、待って! 今日はね、イリアに試して欲しいものがあって」

「はい?」

 不注意な発情を恥ずかしがっているようにでも彼には見えたんだろうか。
 愛想良い笑みで頷いて衣服の前合わせを解(ほど)くイリアに待ての合図をし、

「これ。貴方の為に用意、したの」

 とっておきを突きつけた。
 瓶の中の液体がぐらりと揺れ、私にあてられていたイリアの視線が薬へと向く。

「貴女の体質改善のために、材料を探しに行ってちょっと色々あったんだけど評判の医者(せんせい)にお願いしてつくってもらったお薬で、だからその」

 すかさず私が早口で説明をすれば彼は黙って瓶を受け取り、躊躇(ためら)うことなく一気に飲み干した。

 意外な行動に私の方が今度は驚かされてしまう。


(正直、もうちょっと躊躇らったり怪しんだりするかと思ってたんだけど……)

 説明をし終わる前に薬を飲みきったイリアが空の小瓶を側のテーブルへ置く。
 そうしてゆっくりとこちらを見た彼の目は、気のせいだろうか少し潤んでいるように見えた。

(何か……何か言わなくちゃ……)

 黙って私を見つめるイリア。
 その表情が何故だか妙に艶っぽくて、変な薬を飲んで奇妙な副作用でも出てしまっているのではないかと、私のほうが疑ってしまいそうになる。
 言葉に詰まり無意識に俯く。
 私は両手を腿の上でぎゅっと握り締めた。

「キャル」

 二人ベッドに腰掛けながら暫くの沈黙。
 静まり返った部屋の空気を先に動かしたのはイリアのほうだ。
 騎士団で指定されている白いシャツを脱ぎズボンをゆるませ、耳元で囁くように私を呼ぶ。

「えっと……な、なに……?」

「ありがとうございます。その……とても嬉しかったです。貴方が私の為に薬を用意してくれたことが」

 薬の効果のことばかり考えてしまっていた私のぎこちない返事にも関わらず、イリアは私に身を寄せながらお礼を述べた。
 丁寧に、言葉を選ぶように、真っ直ぐな気持ちで私に心から感謝していると。

 その時、私は初めて知ってしまった。
 イリアが私が思っていた以上に純粋な気持ちで私のことを信頼して見てくれていることを。改めて、私以上に好いてくれているということを。
 この気付きは本当は初めてではない。きっと心のどこかではわかっていて、でもまだ私は彼のことをきちんと受け入れかねていたのだ。
 彼のことをよく知らないという理由で軽く見ていた。ただ淫乱なだけの生き物だって見下げていた。
 イリアは私の何倍も私との事に真剣で、私を不用心に条件付きで必要としてくれる存在で。

「貴女には必ず私の子を産んでもらいますよ。絶対にです」

 そう思っていたところにもう一度声を掛けられて、彼の揺れる瞳の真ん中に映る自分自身を見る。
 たまらず視線を外して彼の頬へ、顎へ首へとおろしていく。一番下、腰まで来て、開かれた下穿きの間に妙に惹かれる。
 今夜の彼は何故だろうか。特別、特段に魅力的に見えた。リメロから特効薬とはきいていなかったのだけれど。

「……あのさ。そろそろその理由を聞いてもいいかな? イリア」

「はい?」

「だからその。貴方がそうまでして子供を欲しがる理由よ。それを私はまだ聞いてない。薬の事だって、全然用心しないし……っていうか……」

「君が持ってきてくれたものに用心する必要が?」

「ない、けど。例えば毒を飲ませて逃げ出すつもりだったとか、あるかもしれないでしょう?」

 私の言葉に「はて」ととぼけた返事をする。
 イリアは思っていたよりもずっとずっと単純で明快で気優しいのだ。ネガティブなイメージを山盛り抱えて不安を引っ提げ、気を張っていた私が馬鹿を見るくらいに。
 もともと自殺未遂をしたような私だ。私と比べて遥かに前向きで熱心で、出会った時から私の事を信用し過ぎている彼には敵わない。この言い合いにはつい私も笑いだしそうになってしまった。
 そんな自然体の笑いすらもイリアに先を越されてしまう。
 私の様子に仕方なさそうにほほ笑み、片手で私の顎を引き寄せながら彼は話し始めた。
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