18 / 74
【5章・イタズラなトモダチ】
『5-4・知らないところで、始まちゃって!?』
しおりを挟むショッピングモールのトイレから足早に去りながら、純恋は自分の早鐘の様な鼓動を鎮めることが出来なかった。ついさっきまで触れていた男性器の感触と、そしてまるでそれに支配されてしまったかのように痴態を晒す椿の姿が、脳裏から離れない。
あんな椿の姿を初めて見た。普段からはとても想像の出来ない、卑猥な姿。興奮し悶え嬌声を上げる。それは純恋の知らない椿だった。
そして何よりも。
椿に男性器が生えていた事が一番のショックだった。
純恋はその光景を何度も反芻しながら、呟く。
「ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない……」
私をだましていたなんて、そんな気持ちが渦巻いていて。純恋は歩いている先に、誰かが立っているのに気が付けなかった。ぶつかって、慌てて顔を上げる。そこに立っていたのは鈴菜だった。
「こんにちは、純恋さん」
鈴菜が妖艶な笑みを見せて、純恋の手を取った。
「少し話があるのだけれど……」
そう言われて、有無を言わさず手を引かれる。純恋が困惑している内に連れていかれたのは喫茶店で、客のいない隅の一画に座らされる。
正直、純恋は鈴菜が苦手だった。こんな所で急に会うとは思っていなかったし、こんな風に突然喫茶店に連れていかれるとも思っていなかった。何の用だろうか。
鈴菜が周囲に人がいないのを、視線だけで確認して。そして口を開く。
「ねぇ、椿さんの身体とってもエッチだったでしょ?」
「え……」
「ごめんなさい、楽しそうだから見てたのだけれど」
あの行為を見られていた、という事に純恋は動揺したけれども。それよりも、鈴菜の口ぶりの方が気になった。
「椿さんの身体はね、今すこしだけおかしくなってるのよ。だから女の子なんだけど、生えちゃってるの」
「何を言っているんですか」
「鈴菜さんも弄ってたでしょ、椿さんのおちんぽ」
その四文字を、ねっとりと鈴菜は言う。その言葉を使う事を楽しんでいる様な口ぶりだった。
純恋にはよく分からないものの、鈴菜はどうやら状況を把握しているらしい。
「でも、それは期限付きなのよ。ある時が来れば、それも治るの」
「……どうしてそれを、知ってるんですか」
「まぁ、それは良いじゃない? それより大事な事があるでしょ?」
「……?」
「椿さんのおちんぽは、いいえ。あんなに敏感になっているのは今だけという事。時間制限があるのよ」
「何を言いたいのか……分かりません」
「あなたって、椿さんの事好きなんでしょ? 恋愛という意味で」
「え、え?」
「良いのよ、分かってるもの」
鈴菜は、その笑顔を崩さない。けれども、言葉の裏には絶対の自信が見える様で。
純恋は頷きはしないものの、否定もしなかった。
鈴菜の指摘は当たっている。純恋は椿の事を恋愛対象として見ていた。ずっと前から片想いをしていた。叶う筈がないと気持ちを押し込めていても、けれども諦めることが出来ない感情。
そして何より、男性というものが嫌いだった。
だから。椿に男性器が生えているのを見た時、裏切られた様に感じた。困惑と動揺と、そして許せないという感情を抱いた。なのに、あの時、男性器を刺激されて悶えている椿の姿に。懇願してくる姿に。昂っている自分がいるのも確かだった。
「……それがどうしたんですか」
鈴菜に向かって努めて冷静に問いかける。
「私と純恋さんで競争しようかな、と思ったの」
「競争?」
「どちらがより早く、椿さんをモノに出来るか」
「え?」
「椿さんの事、好きなんでしょ?」
鈴菜の提案に、純恋は答えに窮した。そもそも無茶苦茶な提案なのに、それなのにその事を微塵も感じていないようで。
純恋の脳内で、卑猥な声を漏らして頬を紅く染める椿の姿が過る。そしてそれと同時に、そうさせている想像上の鈴菜の姿も。
「私が椿ちゃんを好きだったとして、どうして競争なんて」
「理由は二つあるのだけれど。一つは椿さんが元の身体に戻ると私に不都合な事があるの」
純恋は首を傾げる。時間制限付きで身体が変化していると言っていたのに、その原因は防げるということなのだろうか、と。
「だから椿さんに気持ちいい事を一杯教えて戻りたくなくさせたいの。その為に一応の保険として、人手は多い方が良いわ」
「よく分かりません」
「まぁ、私の事情だから分からなくても良いのよ。それともう一つはね」
ふと、鈴菜が純恋の頬に手をやった。突然頬から顎までをなぞられて、驚き身を引く。鈴菜が楽し気に言う。
「私、あなたの事も嫌いじゃないの」
「な、なにをいってるんですか……」
「私のモノにしたいんだけれど、でも、見た目に反して頑固そうだから。勝負にしたいの。純恋さんが先に椿さんをモノにしたら私は潔く手を引くわ。でも、私が勝ったら……、いいえ、条件を設定するまでもないわね。愛しの椿さんが私を選んだなら、あなたはきっと私に屈服せざるを得ないだろうか」
これは宣言、宣戦布告だと思った。そして、何より自信に満ちている。そんな必要ないのに、わざと勝負を持ち掛けている。
それが分かっていても、純恋の中では、椿を渡したくないという独占欲が沸き上がっていた。こんな人に渡してはいけない、と。
「ふふ、楽しみね? 純恋さん?」
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる