上 下
8 / 24
第1章 彼女の力が世界に知れ渡る

第8話 異世界1日目のおわり

しおりを挟む
 室内がシンと静まり返る中、グレンさんは困惑した表情で頭を掻いた。

「ねぇグレンさん。なんでその事を知ってるの?」

「いや戦場からこの街まで馬で何日かかると思ってたんだよ。どう考えてもおかしいだろ……」

「あー。そういえばアリアちゃんもそんなようなこと言ってたかも」

「それにな嬢ちゃん。ロクサンヌ帝国とアイン王国が戦争になってるのは街のみんなが知ってるんだ。戦争の結果次第じゃ、いつこの街にロクサンヌ帝国が攻めてくるかも分かんねぇからな。そんな緊迫した状況でギルドに情報がまわってこないわけねぇだろ?」

「ギルドの情報網が優秀ってこと?」

「まあそうゆうことだ。なんせ冒険者達の命に関わることだからな。それに冒険者によっては国から依頼を受けて戦争の助っ人に行くこともあるんだぞ? 戦況の情報なんかすぐまわってくるさ」

(なるほど。逆になにかあればギルドに聞いて見れば分かることも多いってことか)

「それにしてもまさか嬢ちゃんが報告書に書いてあった草原の悪魔だとはなぁ……」

「失礼な!! こんなに可愛いのに!」

「やってることがえげつねえからだろ。数万単位の人間を焼き払ったんだろ?」

「うん。殺すって言われたし。ついカッとなって」

「またそれかよッ!! 嬢ちゃんは我慢って言葉を知らねぇのか!?」

「私もう我慢はしないって決めたんです!!」

「いや限度があんだろッ!!」

 グレンさんはテーブルに肩肘をついて手を顎に当てながら、呆れた顔で私を見つめる。

「てか嬢ちゃんはこれからどうするんだ?」

「えっ? どうするって?」

「おいおい……。まさか自分の置かれてる状況がわかってねぇのか?」

 グレンさんが何を言ってるのか理解できず、首をかしげる。

「まじかよ……」

「もう!! 勿体ぶってないで教えてよ!」

「いや、だってよぉ。それだけの力を持った人間をほっとく国があると思うか? もし報告通りなら嬢ちゃん一人で国を落とせるだろ。空も飛べんだよなぁ?」

「飛べるよ? ほら」

 私は風魔法をつかって自分の身体を少しだけ空中に浮かばせた。

「うわー。まじかあ……。やっぱり本当に飛べんのか……。嬢ちゃんをこの目で見るまでは報告書を読んであまりに馬鹿げた内容だったから信じてなかったんだけどなぁ……。たくっ。このことを俺は明日どう上に報告すりゃいいんだ……」

「報告しなきゃいいんじゃない?」

「そういう訳にもいかねぇだろ……。俺が今回の件を隠してたのがもしバレたらギルドを首になるだけじゃすまねえよ」

「それは可哀想だ。あっ、グレンさんじゃなくてメイちゃんがね!」

(あんな可愛い子から父親を奪うことはしたくないもんね)

「……なぁ嬢ちゃん。一つ聞いていいか?」

「ん? 内容にもよるけど。何を聞きたいの?」

「報告書に嬢ちゃんが巨大な火球を作り出したってあんだけどよお。それは連続で使えるのか? それとも一日一回とかしか使えねぇのか?」

「んー? 何回使えるんだろう。わたしにも分からないかなぁー」

「はぁ……。その言い方だと全然まだ余裕がありそうだな」

「まぁそうだね」

 グレンさんはうつむきながら大きく溜息をついた。

「まあようするにだ! そんな強大な力を持っている嬢ちゃんをなんとか手に入れようと、いろんな奴らがこれから言い寄ってくると思うぞ」

「えぇ……。それはめんどくさいなぁ」

「自業自得だろ? まあなにか対策は考えておいたほうがいいかもな」
 
(んー、少し目立ちすぎたかな? グレンさんの言う通りなにか対策は考えたほうがいいかもしれない)
 
「まあ頑張れや! なにかあれば俺も出来るだけ力になるからよ!」

「おぉー!! ありがと!」

「気にすんな! これもなにかの……。ん?」

 グレンさんと話していると廊下を元気よく走ってくる小さな足音が聞こえてきた。

 メイちゃんだ。
 お風呂からでてきたばかりなのか、体から湯気を立ち昇らせて頭にはタオルが巻かれている。

 私と目が合うと、瞳をキラキラさせながら私に駆け寄ってきた。

「ふわあああ─ッ!! おねーたん! お空飛べるの? メイも飛んでみたーい!」

「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ?」

 私は風魔法を使ってメイちゃんを少しだけ宙に浮かしてあげた。

「ふわあああっ!! ねえねえっ!! おとーたん! みてみて!! メイ飛んでるッ!!」

 メイちゃんは凄く嬉しそうにはしゃぎながらグレンさんの方へ顔を向けるが、グレンさんはそれどころじゃない。

 顔を青くしてあたふたしながら、

「お、おい!! 嬢ちゃん! これ大丈夫なんだよな!?」
「大丈夫だよー。安心して?」

「ほ、本当だな? 何かあったらタダじゃおかねえからな!?」

「はいはい。大丈夫だって。信用してよ。それよりメイちゃんがずっと呼んでるよ?」

 グレンさんはハッとしてメイちゃんのほうに顔を向ける。

 メイちゃんはグレンさんを見つめながら、不機嫌そうに口を尖らせている。

「もぉー!! おとーたん! おとーたん! 見てよぉ!! ねえったら!!」

「あ、あぁ!! 本当だっ! メイお空飛んでるなぁー!!

「うんっ!! へへっ。いいでしょう!!」

「いいなぁ~! うらやましいなぁ~!」

 グレンパパは必死にメイちゃんのご機嫌をとっている。なんというか。パパも大変なんだなぁ……。

 感嘆しながらグレンさんを眺めていると、お風呂上がりのメアリーさんが居間にもどってきた。

「あらあら。これはどういう状況なのかしら?」

 メイちゃんはメアリーさんに気がつくと、満面の笑顔でメアリーさんに向かって手を振った。

「おかーたんっ!! みてみてっ!! メイ飛んでるのぉー!」

「あら! メイちゃんよかったわねぇー。お母さんも飛んでみたいわぁー」

「へへっ!」

 メアリーさんは娘が空を飛んでいるというのにまったく動じることもなくメイちゃんに微笑みかけながらそばに近寄っていくと、優しくメイちゃんの頭を撫でた。

 グレンさんとは大違いだね。


 しばらくメイちゃんと遊んだ後、グレンさんに寝床まで案内してもらった。

「嬢ちゃん。さっきはメイと遊んでくれてありがとな」

「気にしないでー。メイちゃんも喜んでくれてたみたいでよかったよ。メイちゃん可愛いよね」

「ガハハハッ! だろ? 俺の自慢の娘だ!じゃあ嬢ちゃん。今日はここでゆっくり休んでくれ!」

「うん。ありがとう」

 グレンさんにお礼をいって部屋の中に入る。

 それほど広くはないけど、寝るだけなら十分な広さだ。部屋の中にはベットと小さなテーブルと椅子が置かれている。

 鎧のまま寝るのも気が引けるので、鎧を脱いでアイテムボックスにしまってから両手を上げて大きく伸びをした。

「んー……。なんか濃い1日だったからすこし疲れたなぁー」

 部屋の明かりを消してからベットに横になって目をつぶる。

 今日はぐっすり寝れそうだ。おやすみなさい……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優秀すぎた俺が隠居生活を決め込んだ結果。〜鍛治とポーション作りを始めたら、思っていたのとは違う方向に注目を集めてしまっていたらしい〜

カミキリ虫
ファンタジー
冒険者になり、その優秀さを遺憾無く発揮していた主人公、エディ。 それ故に、完全に俗世では浮いてしまっていた。 やることなすこと、注目の的になり、まるで彼を中心に世界が回っているかのようだった。 そんな彼は休養を兼ねて、昔住んでいた山奥の家に帰ることにした。 しばらく畑で作物でも作りながら、一人でゆっくりと生活しよう。 ……そう思っていても、彼のことを知っている者達が放っておくはずわけも無い。 次から次にやってくる、一癖も二癖も強い少女たち。翻弄される主人公。それきっかけで、他にやるべきことも見えた。 その結果、さらに彼を注目されることになり、そんな日々も悪くはないと、そう思うのだった。

創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん
ファンタジー
ケモミミ大好きなプログラマー大地が、ひょんなことから異世界に転移!? 転移先はなんとケモミミが存在するファンタジー世界。しかしケモミミ達は異世界では差別され,忌み嫌われていた。 人間至上主義を掲げ、獣人達を蔑ろにするガドール帝国。自分達の欲の為にしか動かず、獣人達を奴隷にしか考えていないトーム共和国の領主達。 大地はそんな世界からケモミミ達を守るため、異世界転移で手に入れたプログラマーというスキルを使いケモミミの為の王国を作る事を決めた! ケモミミの王国を作ろうとする中、そんな大地に賛同する者が現れ始め、世界は少しずつその形を変えていく。 ハーレム要素はあまりありませんのであしからず。 不定期での更新になりますが、出来る限り間隔が空かないように頑張ります。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

冒険者をやめて田舎で隠居します

チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。 東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。 唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。 ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。 えっ?この街は何なんだ? ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精? ただの村ですよ? ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...