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第1章 彼女の力が世界に知れ渡る

第4話 それぞれの思惑

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 ー ロクサンヌ帝国 帝都 ー
 ロクサンヌ8世 視点。


「な、なんだとッ!!  たった一人に2万の兵士が殲滅されただとッ!?」

 王城の謁見の間にロクサンヌ8世の怒号が響き渡り、周囲に控えている者達に緊張がはしる。

 膝をつき首を垂れて報告をしている兵士は青ざめた顔でおもわず唾を飲み込み、額から滴る汗を拭いながら口を開いた。

「さようでございます。空より突如として飛来した一人の少女が我が軍に手をかざすと、燃え盛る炎が出現し、い、一瞬のうちに我が軍の兵士達を焼き尽くしました......。重傷者も多数でております」

 ロクサンヌ8世の顔が驚愕に強張り、額に手を当てて天井を見上げた。

「信じられん......。その女は何者なのだ。我が国に一体何の恨みがあると言うのだ」
「そ、それが......」
「......?」

 兵士の表情が強張り、言葉が途切れる。

「なんだ? いいから申してみよ!」
「ハッ!! 我が軍の兵士と言い争いになり、その直後あのような惨劇が引き起こされたようです!」
「なっ!? たったそれだけのことで? 2万もの兵士を焼き払った理由が言い争いをしたからだと......?」

 王の横に控えていた宰相のルーズベルトは静かに口を開いた。

「まるで悪夢のようですな。無論我々にとってはですが......。敵国のアイン王国にとってはまさに彼女は救世主でしょうな。......陛下いかがなさいますか?」

「うむ......。その女はその後どこに行ったのだ?」
「ハッ!! 敵国の兵士を連れて東の空に飛び立っていったそうです! 周辺にいた兵士によりますと、近くの街や国に向かうような会話をしていたと報告を受けております!」

「ふむ。ではアイン王国と関係がもともとあった訳ではないのか......」
「どうやらそのようですな」

 ロクサンヌ8世は玉座の肘掛を指先で叩きながら、険しい顔で横に控える宰相の方へ視線を送った。

「ルーズベルトよ。お主はどう思う?」
「そうですね......。あそこから一番近い街となるとアイン王国にあるヘンゼルの街かもしれませんね」

 ロクサンヌ8世は首を横に振り、大きくため息をついた。

「そうではない。その女が万が一にも我が国の敵になった場合、勝算はどのくらいあると考えているのか正直に申してみよ」

「......恐れながら申し上げます。その力をどれだけ使えるのか分かりませんが、もし複数回使えるのだとしたら我が国に勝ち目はないかと。相手は空まで飛べるのです。逃げることすら難しいでしょうな」

「ふむ......」

 やはりルーズベルトはワシと同じ考えか。そもそも空を飛んで、王城の上空まできて城を焼き払えばいいのだ。

 どんな強者とて、その少女を止めることなどできぬであろう。

 だがその強大なる力をもつ少女を我が国に迎え入れることができれば、この大陸。いや世界全てを手に入れることも夢ではないかもしれん......。


 ロクサンヌ8世は視線を戻し、膝をつき首を垂れている兵士や貴族達を見つめながら大きく息を吸い込んだ。

「皆のものよく聞けッ!! 今後その女に手を出すことを禁ずるッ!! 禁を破った者は即刻極刑に処す!!」

『ハッ!!』

「すぐにヘンゼルの街に潜伏している者達と連絡をとり、その女を見つけだし接触を試みるのだ。我が国へ国賓として招待したいと伝えろ」

 その言葉に、周囲に控えていた兵士や貴族は騒然となりざわめきだす。

「恐れながら申し上げます! どこの馬の骨ともわからぬ小娘を王城に招き入れるなど、少々問題があるのではないでしょうか?」

 貴族の一人が立ち上がり意を唱えた。

「では貴殿が2万人の兵士を上空から燃やし尽くした少女をどうにかしてくれるのですかな? 彼女がその気になれば、すぐにでも帝都を燃やし尽くすことも可能かもしれないのですよ?」

 ルーズベルトの言葉を受けて、燃え盛る炎に焼かれる帝都を想像し、意を唱えた貴族のみならず謁見の間にいた全ての人間が言葉を失っていた。

 静寂が謁見の間を支配する。

「よいかッ! これは王命であるッ!! 必ず彼女を探しだすのだッ!!」

「ハッ!!」

 ロクサンヌ8世の威厳に満ちた声が謁見の間に響き渡った。




 ー アイン王国 ヘンゼルの街 ー

 アルバード家三女 アリア視点。


 私は屋敷にもどりすぐに父のもとを訪れ、ことの顛末を全て報告した。

「し、信じられん。アリアよ。それは本当なのか?」

「はい。数万の兵士は燃え盛る炎でほぼ全滅かと思われます。残りの兵士もあれでは戦いを続けることは困難でしょう」

 お父様は顎に手を当てながら険しい表情で考え込む。

「それが事実なら此度の戦いにも希望が見えてきたかもしれんぞ!それでその少女。いやミサキ殿はいまどこにおるのだ?」

「街を見て周りたいとのことでしたので、我が家の紋章をお渡しして、お礼も兼ねて我が家での夕食に招待致しました」

「うむ!! アリアよ。でかしたッ!!」

「ありがとうございます。お父様」

「こうしてはおれん!! すぐにでもこのことを王に伝えてこなければッ!!」

 お父様は歓喜を浮かべながら、慌てた様子で自室の扉から出て行った。

 お父様の背中を見送りながら、戦場で自分の身に起きた出来事を今更ながら思い返して、身体が恐怖で僅かに震える。

 私は戦場で死にかけたのだ。

 いや実際にはミサキさんがいなければ確実に死んでいただろう。

 彼女は一体何者なのだろうか......。

 空を自由自在に高速で飛び回り、何万もの敵兵達を燃やし尽くしたあの神の如き力。
 
 あの凄惨な光景を思いだすと、いまでも恐怖で身体が震えてくる。

 だが彼女が我が国に力を貸してくれれば、此度の戦にも勝機が見えてくる。なんとしてもミサキさんと友好を深め我が国に力を貸して貰わないといけない。

 ふとアリアは自身がまだ鎧を着たままなことに気がついた。

 真っ白で綺麗な鎧だったのに土汚れと返り血により今は見る影もない。

 アリアはため息をつくと首を横に振った。

「こんな汚い格好のままじゃ恥ずかしくて夕食に出席なんてできないわね。ミサキさんが来る前にお風呂に入って着替えないと」


 アルバード家がミサキが門前払いされたことを知り大騒ぎになるのは、日が暮れてからのことだった。
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