上 下
82 / 105

絶望 ②

しおりを挟む
 今僕は、虚無の中で息をしている。

 ルーカス様に語りかけられても反応せず、食事を拒み、虚な目で天蓋を見つめ1日が終わる。

 それでもルーカス様の命令で侍女が僕の世話をしに来る。
 はじめは丁寧に対応してくれていた侍女も、何も反応しない僕に嫌気がさし、僕の前でも噂話、陰口、作り話までし始めた。

「ねぇねぇ、この前レオナルド様が倒れられたのってどう思う?」
「どう思うって?」
「私、あれはルーカス様の気を引くための、演技だと思うの。だってレオナルド様ってルーカス様の妃候補だけど、皇帝陛下は他にも妃候補を探されてるでしょ?だから、候補が出る前に婚約したいのよ」
「え!自作自演ってことでしょ?怖~い」
「でもレオナルド様はこの前のことで流産したとも、聞いたわよ」
「自作自演でも流産は無理よね」
「それでもルーカス様とレオナルド様って、大人同士の関係っぽくないじゃない?だったらお腹の子供はきっとサイモン様の子供よ」
「本当だわ!サイモン様の子供だと、その子は宮廷から追い出されるわよね」
「こんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、どうせ育てられない子供だったら、初めから生まれなくてよかったんじゃない?」
「確かにね」

 僕のことはなんと言われてもいい。
 でも僕の話にルーカス様を巻き込まないで。
 生まれてきたくても、生まれてこれなかった赤ちゃんのこと、そんな風に言わないで!

 僕が育てられなくても、どこかですくすく育ち、幸せに暮らしをしていると思う。
 生まれなくていい子なんていない!
 だから、そんな酷いこといわないで!

 何も感じなくなくなったはずなのに、涙が出てくる。
 反論したいのに言葉は出ずに、涙が出てくる。

「もう、レオナルド様ってすぐ泣く。涙の跡があったらルーカス様に怒られるから、泣かないでくださいね」
 乱暴に涙を拭かれた。

「今日も何も食べられないんですか?でもスープは飲んでくださいね。もう、これ以上、私たちの手を煩わせないでください」
 体を起こされベッドテーブルの上にスープを置かれる。

 食べたくないけど、食べないとまた酷いことを言われる。
 僕のことはいい。でもルーカス様や赤ちゃんのことは、絶対に言われたくない。

 味のないスープを無理やり胃の中に流し込んだ。
 今日もまた1日が過ぎていく。無意味な1日が過ぎていく。

 西陽が部屋に入り込む頃。部屋のドアならノックされ、ルーカス様が入ってくる。
「体調はどうだ?」
 優しく微笑みながら、ベッドのヘリに座る。僕は上半身を起こし、何も言わずにルーカス様に微笑み返す。
 あれ以来、僕は意識しても言葉が出ない。
 こんなに優しくしてくださるルーカス様に対しても、言葉が出ない。
 ルーカス様、本当にごめんなさい。
 そう思うと涙だけは自然と出て、それがいらだだしい。
「レオ、焦らなくていい。ゆっくりでいいんだ」
 ルーカス様はこんな僕を抱きしめてくれる。
 そっと瞳を閉じると、また暗闇が襲ってくる。
「今日はレオに紹介したい人がいるんだ」
 紹介?
 僕が目を開けるとドアがガチャリと開いて、帽子のベル・エポックを深々と被った女性が旅行鞄を手に入ってきた。
 誰?
 ルーカス様を見上げる。
「ご無沙汰しております、レオナルド様」
 女性が帽子を取り、お辞儀をして顔を上げた。
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月
BL
 オメガバース。  成瀬瑞稀《みずき》は、他の人とは違う容姿に、幼い頃からいじめられていた。  そんな瑞稀を助けてくれたのは、瑞稀の母親が住み込みで働いていたお屋敷の息子、晴人《はると》  瑞稀と晴人との出会いは、瑞稀が5歳、晴人が13歳の頃。  瑞稀は晴人に憧れと恋心をいただいていたが、女手一人、瑞稀を育てていた母親の再婚で晴人と離れ離れになってしまう。 そんな二人は運命のように再会を果たすも、再び別れが訪れ…。 お互いがお互いを想い、すれ違う二人。 二人の気持ちは一つになるのか…。一緒にいられる時間を大切にしていたが、晴人との別れの時が訪れ…。  運命の出会いと別れ、愛する人の幸せを願うがあまりにすれ違いを繰り返し、お互いを愛する気持ちが大きくなっていく。    瑞稀と晴人の出会いから、二人が愛を育み、すれ違いながらもお互いを想い合い…。 イケメン副社長秘書α×健気美人訳あり子連れ清掃派遣社員Ω  20年越しの愛を貫く、一途な純愛です。  二人の幸せを見守っていただけますと、嬉しいです。 そして皆様人気、あの人のスピンオフも書きました😊 よければあの人の幸せも見守ってやってくだい🥹❤️ また、こちらの作品は第11回BL小説大賞コンテストに応募しております。 もし少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。  

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

番犬αは決して噛まない。

切羽未依
BL
 血筋の良いΩが、つまらぬαに番われることのないように護衛するαたち。αでありながら、Ωに仕える彼らは「番犬」と呼ばれた。  自分を救ってくれたΩに従順に仕えるα。Ωの弟に翻弄されるαの兄。美しく聡明なΩと鋭い牙を隠したα。  全三話ですが、それぞれ一話で完結しているので、登場人物紹介と各一話だけ読んでいただいても、だいじょうぶです。

処理中です...