56 / 105
白い粉と訪問者 ①
しおりを挟む
サイモンは毎日、僕に愛を囁いてくれた。
優しい眼差し、抱きしめ大きな胸に包み込んでくれる。
愛おしそうに僕を撫でキスをしてくれる。
僕がそばにいないと寂しいと言ってくれ、一緒にいても方時も僕を離さない。
僕は口には出していないのに嫌だと思ったこと、苦手だなと思ったことは、それに触れさせないようにして、絶対にさせない。
なのに夜、2人だけになると昼間とは別人のように、僕の身体を甘く溶かしながら躾けていく。
サイモンにキスをされただけで、触られただけで、見つめられただけで、僕の心は満たされ身体は熱を持つ。
サイモンは僕を大切に大切に扱ってくれる。
それは僕がミカだといっているから。
サイモンは僕のことをミカだと思っているから。
僕を通してミカをみているから、愛してくれているのはわかっている。
だけどサイモンの前だけ、夢を見たかった。
サイモンと一緒にいる時だけは、夢を見させて欲しかった……。
でも……。
「ミカエル様、お客様です」
ドアをノックして部屋に入ってきたエマさんが、伝えてくれた。
僕にお客様?
今まで僕を訪ねてくれる人なんていなかったし、心当たりもない。
「誰?」
「ミカエル様のお母様です」
「母様?」
驚きすぎて声が上ずる。
「なんでもミカエル様と2人きりでお話がしたいそうです。客間にお通ししていますので、今からお支度を」
「は、はい」
今まで僕のことなんて見えないモノのようにされていた母様が、わざわざこんな遠くまで僕に会い?
不思議に思いながら僕はエマさんに言われるがまま、母様に会う用意をした。
客間に行くと母様は出されたお茶にも手をつけず、部屋に飾られている絵や豪華な調度品を、歩きながら見ていた。
「母様、お久しぶり、です」
実の母に会うのに、お義母様に会うより緊張する。
「久しぶりミカエル、元気そうでよかったわ」
チラリとエマさんを見てから、母様は僕に優しく微笑みかける。
「え?」
思わず声が出てしまった。
僕の記憶の中の母様は、いつも僕を嫌なモノでも見るような目で見ていて、微笑みかけられたことなんてなかった。
「エマさん、だったかしら?いつもミカエルのお世話、ありがとう。ミカエルはたまに妄想の話をするんだけど、そんなことはあった?例えば自分が誰かの身代わりだとか……」
母様はエマさんに探りを入れていると、すぐにわかった。
「ミカエル様はとても現実的で、そのような話はされていません」
はっきりとエマさんが答えたので、母様はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「よかったわ。でももし何かあっても、聞き流してちょうだいね」
と言い、エマさんにはわからないように僕を睨んだ。
「ちょっと今からミカエルと大切な話があるから、席を外してちょうだい。もしサイモン様が来られても、話の間は通さないでちょうだいね」
「サイモン様は今、仕事で出かけらおられますが、帰ってこられましてもお通ししないようにしておきます」
エマさんが退室するまで母様は笑顔を崩さなかったのに、
「お前は私達に恥をかかせたいの?」
僕と2人だけになると、僕が知っている嫌悪を隠さず僕を見てくる母様になった。
「恥……ですか?」
なんのことを言われているのかわからず、首を傾げると、
「白々しい。本当にお前は嫌な子ね」
母様は僕に背を向けた。
「この前、とある子爵の奥様が邸宅にいらした時に、お前はまだサイモンと番になってないと聞かされたのよ。その時は話を繕ったけど、今日来てみたら本当にまだチョーカーをつけてるじゃない。私達がどんなに恥ずかしい思いをしたのか、わかってきるの?番になっていないとは、どういうことなの?」
「それは…ミカに申し訳なくて……」
「申し訳ない?何を言っているの?ミカはあなたでしょ?それにアルファのところに嫁いだオメガが一番はじめにする仕事は、番になることでしょ?あなたは自分の立場と仕事を、ちゃんと理解しているの?」
「それは……」
「なんのためにサイモンと結婚したの?カトラレル家が潰れてしまってもいいの?あなたの弟か妹を路頭に迷わすつもり?本当のミカなら、そんなこと言わなくても全部わかって、きちんとしてたわ」
「……」
ミカならきちんとできる。
本当のことで何も言い返せない。
優しい眼差し、抱きしめ大きな胸に包み込んでくれる。
愛おしそうに僕を撫でキスをしてくれる。
僕がそばにいないと寂しいと言ってくれ、一緒にいても方時も僕を離さない。
僕は口には出していないのに嫌だと思ったこと、苦手だなと思ったことは、それに触れさせないようにして、絶対にさせない。
なのに夜、2人だけになると昼間とは別人のように、僕の身体を甘く溶かしながら躾けていく。
サイモンにキスをされただけで、触られただけで、見つめられただけで、僕の心は満たされ身体は熱を持つ。
サイモンは僕を大切に大切に扱ってくれる。
それは僕がミカだといっているから。
サイモンは僕のことをミカだと思っているから。
僕を通してミカをみているから、愛してくれているのはわかっている。
だけどサイモンの前だけ、夢を見たかった。
サイモンと一緒にいる時だけは、夢を見させて欲しかった……。
でも……。
「ミカエル様、お客様です」
ドアをノックして部屋に入ってきたエマさんが、伝えてくれた。
僕にお客様?
今まで僕を訪ねてくれる人なんていなかったし、心当たりもない。
「誰?」
「ミカエル様のお母様です」
「母様?」
驚きすぎて声が上ずる。
「なんでもミカエル様と2人きりでお話がしたいそうです。客間にお通ししていますので、今からお支度を」
「は、はい」
今まで僕のことなんて見えないモノのようにされていた母様が、わざわざこんな遠くまで僕に会い?
不思議に思いながら僕はエマさんに言われるがまま、母様に会う用意をした。
客間に行くと母様は出されたお茶にも手をつけず、部屋に飾られている絵や豪華な調度品を、歩きながら見ていた。
「母様、お久しぶり、です」
実の母に会うのに、お義母様に会うより緊張する。
「久しぶりミカエル、元気そうでよかったわ」
チラリとエマさんを見てから、母様は僕に優しく微笑みかける。
「え?」
思わず声が出てしまった。
僕の記憶の中の母様は、いつも僕を嫌なモノでも見るような目で見ていて、微笑みかけられたことなんてなかった。
「エマさん、だったかしら?いつもミカエルのお世話、ありがとう。ミカエルはたまに妄想の話をするんだけど、そんなことはあった?例えば自分が誰かの身代わりだとか……」
母様はエマさんに探りを入れていると、すぐにわかった。
「ミカエル様はとても現実的で、そのような話はされていません」
はっきりとエマさんが答えたので、母様はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「よかったわ。でももし何かあっても、聞き流してちょうだいね」
と言い、エマさんにはわからないように僕を睨んだ。
「ちょっと今からミカエルと大切な話があるから、席を外してちょうだい。もしサイモン様が来られても、話の間は通さないでちょうだいね」
「サイモン様は今、仕事で出かけらおられますが、帰ってこられましてもお通ししないようにしておきます」
エマさんが退室するまで母様は笑顔を崩さなかったのに、
「お前は私達に恥をかかせたいの?」
僕と2人だけになると、僕が知っている嫌悪を隠さず僕を見てくる母様になった。
「恥……ですか?」
なんのことを言われているのかわからず、首を傾げると、
「白々しい。本当にお前は嫌な子ね」
母様は僕に背を向けた。
「この前、とある子爵の奥様が邸宅にいらした時に、お前はまだサイモンと番になってないと聞かされたのよ。その時は話を繕ったけど、今日来てみたら本当にまだチョーカーをつけてるじゃない。私達がどんなに恥ずかしい思いをしたのか、わかってきるの?番になっていないとは、どういうことなの?」
「それは…ミカに申し訳なくて……」
「申し訳ない?何を言っているの?ミカはあなたでしょ?それにアルファのところに嫁いだオメガが一番はじめにする仕事は、番になることでしょ?あなたは自分の立場と仕事を、ちゃんと理解しているの?」
「それは……」
「なんのためにサイモンと結婚したの?カトラレル家が潰れてしまってもいいの?あなたの弟か妹を路頭に迷わすつもり?本当のミカなら、そんなこと言わなくても全部わかって、きちんとしてたわ」
「……」
ミカならきちんとできる。
本当のことで何も言い返せない。
12
お気に入りに追加
900
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる