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白い粉と訪問者 ①

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 サイモンは毎日、僕に愛を囁いてくれた。
 優しい眼差し、抱きしめ大きな胸に包み込んでくれる。
 愛おしそうに僕を撫でキスをしてくれる。
 僕がそばにいないと寂しいと言ってくれ、一緒にいても方時も僕を離さない。

 僕は口には出していないのに嫌だと思ったこと、苦手だなと思ったことは、それに触れさせないようにして、絶対にさせない。
 なのに夜、2人だけになると昼間とは別人のように、僕の身体を甘く溶かしながら躾けていく。
 サイモンにキスをされただけで、触られただけで、見つめられただけで、僕の心は満たされ身体は熱を持つ。

 サイモンは僕を大切に大切に扱ってくれる。
 それは僕がミカだといっているから。
 サイモンは僕のことをミカだと思っているから。
 僕を通してミカをみているから、愛してくれているのはわかっている。
 だけどサイモンの前だけ、夢を見たかった。
 サイモンと一緒にいる時だけは、夢を見させて欲しかった……。
 でも……。

「ミカエル様、お客様です」
 ドアをノックして部屋に入ってきたエマさんが、伝えてくれた。

 僕にお客様?
 今まで僕を訪ねてくれる人なんていなかったし、心当たりもない。
「誰?」
「ミカエル様のお母様です」
「母様?」
 驚きすぎて声が上ずる。

「なんでもミカエル様と2人きりでお話がしたいそうです。客間にお通ししていますので、今からお支度を」
「は、はい」
 今まで僕のことなんて見えないモノのようにされていた母様が、わざわざこんな遠くまで僕に会い?
 不思議に思いながら僕はエマさんに言われるがまま、母様に会う用意をした。

 客間に行くと母様は出されたお茶にも手をつけず、部屋に飾られている絵や豪華な調度品を、歩きながら見ていた。
「母様、お久しぶり、です」
 実の母に会うのに、お義母様に会うより緊張する。
「久しぶりミカエル・・・・、元気そうでよかったわ」
 チラリとエマさんを見てから、母様は僕に優しく微笑みかける。

「え?」
 思わず声が出てしまった。
 僕の記憶の中の母様は、いつも僕を嫌なモノでも見るような目で見ていて、微笑みかけられたことなんてなかった。
「エマさん、だったかしら?いつもミカエルのお世話、ありがとう。ミカエルはたまに妄想の話をするんだけど、そんなことはあった?例えば自分が誰かの身代わりだとか……」
 母様はエマさんに探りを入れていると、すぐにわかった。

「ミカエル様はとても現実的で、そのような話はされていません」
 はっきりとエマさんが答えたので、母様はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「よかったわ。でももし何かあっても、聞き流してちょうだいね」
 と言い、エマさんにはわからないように僕を睨んだ。

「ちょっと今からミカエルと大切な話があるから、席を外してちょうだい。もしサイモン様が来られても、話の間は通さないでちょうだいね」
「サイモン様は今、仕事で出かけらおられますが、帰ってこられましてもお通ししないようにしておきます」
 エマさんが退室するまで母様は笑顔を崩さなかったのに、
「お前は私達に恥をかかせたいの?」
 僕と2人だけになると、僕が知っている嫌悪を隠さず僕を見てくる母様になった。

「恥……ですか?」
 なんのことを言われているのかわからず、首を傾げると、
「白々しい。本当にお前は嫌な子ね」
 母様は僕に背を向けた。
「この前、とある子爵の奥様が邸宅にいらした時に、お前はまだサイモンと番になってないと聞かされたのよ。その時は話を繕ったけど、今日来てみたら本当にまだチョーカーをつけてるじゃない。私達がどんなに恥ずかしい思いをしたのか、わかってきるの?番になっていないとは、どういうことなの?」

「それは…ミカに申し訳なくて……」
「申し訳ない?何を言っているの?ミカはあなたでしょ?それにアルファのところに嫁いだオメガが一番はじめにする仕事は、番になることでしょ?あなたは自分の立場と仕事を、ちゃんと理解しているの?」
「それは……」
「なんのためにサイモンと結婚したの?カトラレル家が潰れてしまってもいいの?あなたの弟か妹を路頭に迷わすつもり?本当のミカなら、そんなこと言わなくても全部わかって、きちんとしてたわ」
「……」
 ミカならきちんとできる。
 本当のことで何も言い返せない。
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