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すれ違い 11
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雅成が目を覚ました時、隣には拓海はいなかった。
時計を見ると、まだ朝の4時。
トイレにでも行ったのかと、再び目を閉じた。
次に雅成が目を覚ました時、また隣には拓海はいなかった。
時計を見ると、朝の5時。
拓海が寝ていただろう場所を触ると冷たくて、しばらく拓海がベッドにいなかったことを示している。
(体調でも悪いのかな?)
雅成もベッドから起き上がり、拓海を探しに寝室を出た。
トイレに行くがいなかった。
書斎に行くがいなかった。
バルコニーにもいなかった。
最後にキッチンに行くが電気は付いていない。
ドアを開けると、暗がりなのにコーヒーのかすかな香はした。
「拓海?」
声をかけると、カサッと何かが動く音がした。
「拓海、いるの?」
電気を入れると、アイランドキッチンの中で佇んでいる拓海がいた。
「! びっくりした~。いるならいるって言ってよ~」
雅成が声をかけると、虚な目の拓海がフラフラと雅成に近づいてきて、雅成の肩に頭をのせる。
「どうかしたの?」
「……」
「体、しんどい?」
「……」
「嫌なことあった?」
「……」
問いかけても何も返ってこない。
「拓海?」
背中に手をまわすと、
「逃げよっか……」
消え入りそうな拓海の声がした。
「密輸船とかに乗せてもらってさ、どこか遠くに行こう……」
雅成の肩に頭を置いているので、拓海が今、どんな表情をしているかはわからない。
だから余計に思い詰め沈んだ声が、際立って聞こえた。
「逃げよっか……」
拓海の肩が震える。
「泣いてるの?」
「……」
何も答えてくれない拓海の顔を覗き込もうとすると、きつく抱きしめられた。
「他の誰かを助けるために雅成が辛い思いをするのなら、他の誰かなんて助けたくない。それでも助けないとだめなんだったら、もう逃げるしかないじゃないか……」
独り言のように拓海は言う。
「なんのこと?」
聞き返すと、
「今日の午後、空いてる?」
質問で返された。
「今日の午後は……」
ルイと会う約束をしている。
「病院に行かないとダメで……」
嘘を付いた。
ここ何日もずっと病院にも研究室にもいっていないが、拓海には「病院に行ってくる」と出かけてルイと会っている。
「そっか……。じゃあ俺、一緒に行って待ってるよ」
「それは……ほら、何時に終わるかわからないし、拓海はお義祖父様に呼ばれてるんでしょ? そっちに行かないと」
ルイと会っているのは拓海には知られてはいけない。
「会長にはうまく断っておくから大丈夫。俺、待ってるよ」
「お義祖父様の約束を断るなんてダメだよ。怒られちゃうよ」
「いいよ……怒られたって……」
「ダメだよ。行ってきて……きゃっ!」
話の途中だったのに、乱雑に抱き上げられ調理台の上に押し倒される。
「雅成は俺といるの、そんなに嫌?」
怒りの目で拓海が雅成を睨みつける。
拓海にきつく料理台に押し付けられた両肩が痛い。
「痛いよ拓海……」
「そんなこと……そんなこと聞いてない!!」
さらに肩を押しつけられ、大声で怒鳴られる。
「そんなこと聞いてない! 俺といるのが嫌なのか!? って聞いてる!」
鼻と鼻がくっつきそうなほど近づかれ、声を張り上げられた。
時計を見ると、まだ朝の4時。
トイレにでも行ったのかと、再び目を閉じた。
次に雅成が目を覚ました時、また隣には拓海はいなかった。
時計を見ると、朝の5時。
拓海が寝ていただろう場所を触ると冷たくて、しばらく拓海がベッドにいなかったことを示している。
(体調でも悪いのかな?)
雅成もベッドから起き上がり、拓海を探しに寝室を出た。
トイレに行くがいなかった。
書斎に行くがいなかった。
バルコニーにもいなかった。
最後にキッチンに行くが電気は付いていない。
ドアを開けると、暗がりなのにコーヒーのかすかな香はした。
「拓海?」
声をかけると、カサッと何かが動く音がした。
「拓海、いるの?」
電気を入れると、アイランドキッチンの中で佇んでいる拓海がいた。
「! びっくりした~。いるならいるって言ってよ~」
雅成が声をかけると、虚な目の拓海がフラフラと雅成に近づいてきて、雅成の肩に頭をのせる。
「どうかしたの?」
「……」
「体、しんどい?」
「……」
「嫌なことあった?」
「……」
問いかけても何も返ってこない。
「拓海?」
背中に手をまわすと、
「逃げよっか……」
消え入りそうな拓海の声がした。
「密輸船とかに乗せてもらってさ、どこか遠くに行こう……」
雅成の肩に頭を置いているので、拓海が今、どんな表情をしているかはわからない。
だから余計に思い詰め沈んだ声が、際立って聞こえた。
「逃げよっか……」
拓海の肩が震える。
「泣いてるの?」
「……」
何も答えてくれない拓海の顔を覗き込もうとすると、きつく抱きしめられた。
「他の誰かを助けるために雅成が辛い思いをするのなら、他の誰かなんて助けたくない。それでも助けないとだめなんだったら、もう逃げるしかないじゃないか……」
独り言のように拓海は言う。
「なんのこと?」
聞き返すと、
「今日の午後、空いてる?」
質問で返された。
「今日の午後は……」
ルイと会う約束をしている。
「病院に行かないとダメで……」
嘘を付いた。
ここ何日もずっと病院にも研究室にもいっていないが、拓海には「病院に行ってくる」と出かけてルイと会っている。
「そっか……。じゃあ俺、一緒に行って待ってるよ」
「それは……ほら、何時に終わるかわからないし、拓海はお義祖父様に呼ばれてるんでしょ? そっちに行かないと」
ルイと会っているのは拓海には知られてはいけない。
「会長にはうまく断っておくから大丈夫。俺、待ってるよ」
「お義祖父様の約束を断るなんてダメだよ。怒られちゃうよ」
「いいよ……怒られたって……」
「ダメだよ。行ってきて……きゃっ!」
話の途中だったのに、乱雑に抱き上げられ調理台の上に押し倒される。
「雅成は俺といるの、そんなに嫌?」
怒りの目で拓海が雅成を睨みつける。
拓海にきつく料理台に押し付けられた両肩が痛い。
「痛いよ拓海……」
「そんなこと……そんなこと聞いてない!!」
さらに肩を押しつけられ、大声で怒鳴られる。
「そんなこと聞いてない! 俺といるのが嫌なのか!? って聞いてる!」
鼻と鼻がくっつきそうなほど近づかれ、声を張り上げられた。
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