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すれ違い ④

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「拓……わぁっ!」
 拓海にあったら胸に飛び込みたいと思っていたのに、雅成が胸に飛び込む前に拓海が雅成をきつく抱きしめる。
 抱きしめながら、拓海は涙でくぐもった声でポツリと言った。

 はっきりとした言葉ではなかった。
 でも雅成には、しっかりと聞こえた。
「ただいま、拓海……」
 雅成が拓海の背中に腕を回す。
「……えり……。おか、えり……」
 何度も呟き、頬を涙が伝っていた。

 雅成以上に衰弱してしまったのではないだろうかと思うほど、拓海は目の下にクマを作り頬はこけている。

「拓海、ご飯食べてた?」
 拓海は少し考え、首を横に振る。

「ちゃんと寝た?」
 また少し考え、首を横に振る。

「お風呂に入ってないでしょ」
 拓海は自分の体の匂いを嗅いで、恥ずかしそうに頷き、
「臭いって言われても、離れないからな」
 唇を尖らせた。

 思いもよらない答えに、雅成は「ふふふ」と笑い、
「僕だって入ってないから、おあいこだね」
 深呼吸し拓海の香を思いっきり吸い込んだ。

 安心する香。
 また頭がふわふわし睡魔が襲ってくる。
 ゆっくりと目が閉じられていく。

「雅成!? しっかりしろ、雅成!」
 雅成の異変に、瞬く間に緊張が走った。
「心配しないで……。拓海が傍にいてくれて……安心したら、少し眠たく……なってきただけ……」
 周りが慌ただしくなり、ストレッチャーが運び込まれる。
 腕に血圧計、指に心拍計をつけられ、点滴の用意が整っていく。

(嫌だ! このまま、また拓海の離れ離れにされてしまうの?)
 
 薄れゆく意識。
「嫌……」 
 雅成は拓海にしがみつく。

「家に……拓海と、僕の家に……帰りたい……」
 このまま病院で過ごした方がいいのか?
 雅成を抱きしめたまま、今すぐにでも連れて帰りたい気持ちを押し殺した拓海の手に力が入る。

「ほな、拓海、雅成が帰る用意したり。帰ってゆっくりさせるんやで」
「いいん、ですか?」
 まさか帰宅の許可が下りるとは思っておらず、思わず拓海は聞き返した。

「ええ。その代わり容体が急変した時に対応できるよう、医師と看護師を常駐させる。ええな?」
「はい! よろしくお願いします」
「拓海、任せたぞ」
「はい!」
 力強く拓海が返事をする。

 拓海と一緒に帰れる安心感を胸に、雅成はまた眠りについた。
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