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南部 柚 ①

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木々の葉が青々とし、セミの声が響き渡る8月初旬。
ひまわりは咲き乱れ、朝咲いたであろう朝顔は、日差しを避けるようにしぼんでいる。

快晴が続き、その日も日差しがきつかった。
お気に入りのキャップにお気に入りのリュックを背負った5歳になったばかりの柚は、白い日傘をさした母親に手を引かれ、日差しの照り返しで陽炎ができた長い坂を道を登っていた。
そして坂道を上り切ったところに、決して大きくない、ある施設の前までやってきた。

『春日山児童養護施設』

門のそばには、そう書かれた立て札がかけられている。


「ねぇお母さん、どうしたの?中に入らないの?ここ、どこ?」
門の前まで来て立ちすくむ母親を、柚は見上げた。
すると母親は柚の目線になるまでしゃがんだ。
「ここはね、今日から柚の新しいお家よ」
「ふぅ~ん。前のお家はお部屋が一つだけだったけど、今度の新しいお家は大きいね。お母さんとお家で鬼ごっこできそう‼︎」
「‼︎」
「ねぇ早くお家に行こう」
柚の言葉に驚く母親の手を柚はひっぱりる。
「そうね…。早く行こうね」
そういうと、母親は悲しそうに微笑んだ。
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