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半年記念日

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それからというもの、蒼は違うクラスの伊吹のところへ休み時間ごとに通い、そして伊吹と常に行動を共にするようになった。

はじめは、そんな蒼との行動がどう見られているのか心配だったり、恥ずかしがっていた伊吹だったが、そのうち蒼の伊吹の思う気持ちに触れ伊吹は蒼と一緒にいたいという気持ちが大きくなった。
そして一緒にいない時は寂しくて仕方なくなっていた。




「伊吹、ごめん。しばらく休み時間、会いにいけなくなった」

昼休み、誰もいない屋上の地面に座る伊吹を後ろから抱きしめるように座っいた蒼が、伊吹の髪にキスをした。

「どうして?」
寂しそうな顔で伊吹は蒼を見上げた。
「生徒会の書記の人が、軽いんだけど自転車で事故ったらしくて今欠員出て、ほんの数日だけその人の助っ人に呼ばれて…。先輩からの頼みだから断れないんだ」

仕方ないけど、寂しい……

無意識にしゅんとした伊吹を見ると、蒼はクイッと伊吹の顎を上げ、後ろを向かせた。
「伊吹、そんなに悲しそうな顔をして煽らないで。俺、伊吹の事になると、いっぱいいっぱいなんだから…」
ゆっくりと伊吹の唇に近付いたかと思うと唇を奪い、舌を口内に忍び込ませ伊吹の口の中に舌を入れた。
蒼のキスはすぐに伊吹の意識を朦朧とさせ幸せな気持ちにする。

蒼、大好きだよ……

まだ蒼に言ったことのない言葉を、伊吹は心の中で呟く。

俺も、もっと素直になったら言えるようになるのかな?

自分に自信の持てない伊吹は、ふと考えた。

「伊吹、俺とのキスの時になに考えてたの?」
「あ……」

濃厚なキスをしていた蒼が、突然、伊吹の唇から自分の唇を離した。

やめないで……

また伊吹が心の中で呟く。

「誰のこと、考えてた?」

蒼が悲しそうな顔で伊吹の顔を覗き込んだ。

そんなの決まってるじゃん。
蒼のこと以外考えられないよ。
だから、そんな悲しそうな顔しないで…

「……」

心の中でどれだけ伊吹が言っても、それは蒼には伝わらない。
黙ったままの伊吹を見た蒼は、ますます不安そうになる。

「俺の知ってる人?」

伊吹は声に出しては答えず頷いた。

「じゃあ………」

蒼の顔が暗く曇る。

違う!
蒼にそんな顔させたいわけじゃない!

伊吹は勇気を振り絞り、

「…蒼のこと…考えてた…」

自信のないような小声で言った。

「え⁉︎」

驚いた蒼が目を見開く。

「だから、蒼のこと考えてた。俺がもっと素直になれたら、蒼のこと………………」

そこまで言いかけて、言葉が詰まった。

「俺のこと、何って?」

蒼は真っ直ぐな瞳で伊吹を射抜く。

俺は……
俺は……

伊吹は大きく息を吸い込み、

「俺は……」

あー、やっぱり言えない……
蒼はいつも俺に『好きだよ』って言ってくれるけど、蒼の好きはいつまで俺に向けられるか、わからない。
だって俺はベータだから。
アルファの蒼の番には、運命のオメガがいる。
その人が現れたら、俺は……
だから、俺は変な期待はもたない。
いつでも蒼から離れられる準備をしておかないと……

「秘密」

伊吹は蒼も自分も誤魔化すように笑った。

「伊吹、俺はいつまでも伊吹が好きだよ。何があっても…」
伊吹を抱きしめる蒼の腕に力が入る。
それはまるで『俺を信じて』とでもいうように……

目を伏せる伊吹の頭を蒼がそっとなでると、話を変えるかのように明るい口調で、
「伊吹、今日で俺たち付き合って半年って覚えてた?」
伊吹の顔を覗き込んだ。
「覚えてる。……だから、そのー、蒼に予定がなかったら……」
伊吹が口ごもる。
「え?俺が伊吹との記念日に、伊吹以外の予定入れると思う?」
蒼は驚きを通り越して、呆れ顔だ。
「じゃあ、俺ん家に来ない?」
「‼︎」
先ほどまでの呆れ顔が、今度は驚きで目が見開かれる。
「き、今日、父さんも母さんも帰りが遅くて……。だから……、だから……」
その続きの言葉が伊吹の口からなかなか出ない。
「え⁉︎待って‼︎……それって、もしかして……」
蒼がさらに驚いて伊吹の顔を覗き込み、キラキラした瞳で見上げた。
「も~内緒!」
恥ずかしさのあまり、蒼に抱きしめられていた伊吹だったが、その腕の中きらするりと抜け出すと、
「帰り、教室で待ってるから!」
それだけ言い残して、伊吹はダッシュで屋上をあとにした。
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