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初夜 ①

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 翌日から僕とカイトくん達は読み書き、計算などを勉強したりした。そして毎日夕食後はアレク様を膝枕をしながら、日中の話をするのが日課となっていた。

 ある時、僕が勉強を頑張っているカイトくんの話ばかりするので、アレク様が「他の男の話ばかりするな」と拗ねた時は、お腹を抱えて笑ってしまった。

 子ども達と触れ合う中、他の使用人達とも話す機会が増え、日を重ねるごとにアレク様や子ども達、後宮内との人たちとの距離の距離が近くなり始めていた。
 なのに殿下とは膝枕をしながら今日あった話だけで、肝心なお互いの話はしていない。 

「僕は殿下とも仲良くなりたいのに……」
 部屋で1人、窓から園庭を見ながら呟いていると、
「その言葉、聞きましたからね!」
 いなかったはずのクロエが目を三日月型にし、ニヤリと笑いならがら立っていた。

 なんだか嫌な予感しかしない……。
 すごくまずい予感しかしない!

「その問題、このクロエが解決して見せましょう!」 
 クロエは自分の胸を2回叩き、意気揚々と部屋を後にし、またすぐに帰ってきた。

「ユベール様、今夜こそ続きをするときがやってきました!」
 クロエはあの本・・・を僕の目の前に差し出す。
 あの本……。

ー白い薔薇が赤く染まる時ー

 あの官能小説!
 ということは……。

 恐る恐るクロエの方を見ると。
「そうです。お察しの通り、今日こそ『初夜』のやり直しをするのです!」

 やっぱり……。

「やはり殿下と親密になるには、肌と肌との触れ合いが必要です。ユベール様は殿下の愛情を全身で感じられ、愛を深められるのです」

 クロエは自分の両指を絡め合わせ、祈るポーズで天井を見上げる。
 ああ……完全に想像の世界に飛んでいっている……。

「クロエが僕のことを考えてくれているのは嬉しいけれど、これは陛下のお気持ちも大切で……」
 とりあえず、早すぎる展開をどうにか止めようとしたのに、
「なんの問題もございません」
 そこに現れたのはヒューゴ様。

「クロエからこの話を聞き、すぐに殿下にお伝えしたところ、殿下は夢見心地でいらっしゃいます。なのでなんの問題もございません。あとはユベール様のご意志だけです」
「僕の……意識?」
 もう一度、あの官能小説のページを捲ると、あの挿絵が出てくる。

 心臓がドキンと跳ねた。 

 僕と殿下があんなことするの?
 想像しただけで、体がカッと熱くなる。
 殿下を膝枕するのとは、話が違う。

 だって2人とも裸だよ?
 殿下が僕の裸を見るんだよ。

 この女の人みたいにふくよかな胸もないし、柔らかい体もない。
 こんな貧弱な体見せられないよ……。

 無意識に両手で体を隠そうとした。
「ユベール様はお美しいですよ。殿下との関係を踏み出されたいと思われるのならば、一歩踏み出してみませんか?」
「でも……僕、この本みたいなことできない……」

 僕は何も知らない。
 知らなすぎる。
 それが怖いしはずかしい。

「殿下に身を預けるだけです。殿下の愛を全身で受け止めるだけです。ユベール様は殿下に愛されるべき方なんです」

 殿下に身を預けるってなに?
 愛を全身で受け止めるってなに?
 僕が殿下に愛される存在なの?
 殿下との距離を縮めたい。
 一歩を踏み出したい。

「殿下は僕と一歩踏み出すことを、望まれていますか?」
 僕がヒューゴ様に訊くと、
「心から」
 真剣な表情でヒューゴ様が言った。
 殿下は僕と一歩踏み出すことを願っている。

 だったら僕も……。
「僕も一歩、踏み出したいです」
 覚悟を決めた。
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