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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

山崎宅 ④

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 結局その日も、鈴木は気に入った物件を見つけることなく瑞稀くんと帰ってきた。
 新居を探しに行って希望の物件が見つからなかったわりに、鈴木はなんだか嬉しそうで上機嫌だった。
 むしろ新居が見つからなくて安堵しているように
 この鈴木の反応に違和感を感じる。

 鈴木がおかしいといえば、ここのところずっとおかしい。
 仕事では有能な秘書だが、いざ家に帰ってくると、わざと元気にふるまったり、時折何かを考えているように上の空だったり。
 どうしたのか?と聞いても「なんでもないです」と微笑むが、その微笑みがひどく辛そうで……。
 何か悩んでいることは確か。
 だがそれが何かわからないことが、歯痒かった。

 先日も夜中目が覚めえたので、水を飲みに行こうとしたら、すでにキッチンの電気がついていて、中で鈴木がコーヒーを見ながら暗く所々に部屋の電気が漏れている夜景を見ていた。

「どうした?」
 ガチャリとドアを開けて声をかけると、鈴木はびくりと肩を上下し、俺の方を振り返る。
「ちょっと眠れなくて」
「眠れなくてコーヒー飲んでいるのか?カフェインで余計に眠れなくなるぞ」
 そう言うと、そのことにはじめて気がついたように鈴木はハッと目を見開いて、
「本当ですね」
 と苦笑いした。
 鈴木がブラックを飲んでいたので、眠れなく覚悟をしながら俺もブラックをマグカップに淹れ、鈴木の隣に立つ。
「悩み事か?」
「悩み事というか、父さんのことを思い出していました」
 鈴木の親父さんはブラックコーヒーが好きだったって言ってたな。
「そうか……。そんなに鈴木に慕われていた親父さんに会ってみたかったな。きっと素敵な方なんだろうな。今度墓参りにいく機会があったら声かけてくれよ。俺も一緒に行きたい」
 生前会うことはできなかったが、墓参りすることで少しでも鈴木の父親に会える気がした。
「え?」
 鈴木は目を見開く。
「それは副社長としてですか?内藤さんとしてですか?」
「え?」
 鈴木の言っている意味がわからず、首を傾げる。
「それは仕事で行くのか、プライベートで行くのか、という意味なのか?もしそうなら、もちろんプライベートだ」
「そう、ですか」
 一度鈴木は悲しそうに目を伏せ、すぐ俺の方を向き直った。

「変なこと聞いてすみません。変なことついでにもう一つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「内藤さんは一度決めたことを、途中でやめようと思ったことはないですか?例えば絶対復讐しようと思っていたのを、やめようと思うこととか」
 復讐という物騒な言葉が出てきたが、例え話をわかりやすくするためだろう。
「復讐とか物騒なことはしないが、俺はだいたい一度決めたことはやり抜くタイプだ。やり抜くまで大変だが、必ず結果がついてくる」
「そう、ですよね」
 うん。と鈴木な頷く。
「なんだか吹っ切れました。ありがとうございます」
「なら、よかった」
 吹っ切れたという割に、鈴木の表情は晴れなかった。
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