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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜
山崎宅 ③
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晴人のマンションに着いた時には、もう瑞稀くんちは帰ってきていてた。
「お邪魔します」と鈴木は部屋に入り、
「瑞稀さん山崎さん、今日はお招きありがとうございます。これお口に合えば嬉しいのですが……」
鈴木は瑞稀くんにケーキの入った箱を渡すと
「ご丁寧にありがとうございます」
瑞稀くんが受け取る。
「けいたく~ん!」
鈴木の姿を見つけた千景が鈴木に駆け寄る。
「久しぶり千景くん。今日も元気だね」
千景に抱きつからな鈴木は照れ笑い。
「千景、いつから鈴木のこと『圭太くん』って呼ぶぐらい仲良くなったんだ?」
俺でもまだ呼んだことないのに。
「だって僕、けいたくんとお友達だもん。昴くんはどうしてけいたくんのこと『鈴木』って呼ぶの?お友達同士は、お名前で呼ぶんだよ」
千景のいう『お名前』とは、多分下の名前のことだろう。
俺は鈴木の直属の上司であり、同居人だ。
でも俺はそんな関係より、友達より、俺は俺は……。
「俺は鈴木とは友達にはなれないな」
ポロッと気持ちが出てしまう。
「ふ~ん」
俺の答えの意味がわからないと首を傾げる千景の隣で、鈴木が傷ついた顔をし
「友達も無理なんですね……」
今度は鈴木がポツリと呟いた。
「鈴木?」
呼びかけると、鈴木はハッと我に帰り笑顔を作る。
鈴木と俺の間に気まずい空気が流れた。
「お鍋の用意ができましたよ~」
瑞稀くんの元気な声がする。
鍋がセットされている食卓に行くと、鈴木と俺は隣同士に座るように促される。
家で鈴木と一緒に食事はするが、いつも向かい合ってなので隣あって食べるのは初めてだ。
一年を通して鍋をする山崎家定番は、豚しゃぶだそうだ。
小さな鍋も用意してあり、野菜多めで肉団子とぶり鍋もある。
これは多分千景用なのだろう。
「たくさん作ったので遠慮なく食べてください」
自家製ポン酢とゴマだれが入った小鉢を手渡してもらい、俺と瑞稀くんはノンアルコール、晴人と鈴木はビール、千景と清貴はお茶で乾杯した。
瑞稀くんは清貴の世話をしつつ、よく鈴木に話かけてくれた。
本当は俺から鈴木の話をよく聞いていたので、瑞稀くんの中の鈴木情報は色々あったはずなのに、瑞稀くんは鈴木が好きなことを聞き出し、はじめてそのことを聞いたようなリアクションをとり、話を広げていく。
鈴木も瑞稀くんが話をよく聞いてくれるので、ほどよくまわるアルコールに誘われて楽しそうに話をしていた。
「そういえば鈴木さんに家庭菜園を勧めてくれた人って、この前植物園であった方?」
先ほどまで鈴木と猫の話をしていた瑞稀くんだが、ここで話を変えた。
「はい。谷川さんと言います」
「やっぱり。植物園に来ている人だから、植物が好きな人なんだなって思って。どんな方?」
「いい人ですよ」
「そうなんだ。どんな感じにいい人なの?」
「僕が興味があることとか、知りたいこととか何もいわなくてもよく知っていて、さきさき気を回してくれる人です」
「へ~。仕事では鈴木くんと違う部署で働いているんでしょ?それなのに鈴木くんのことをよく知っているって、鈴木くんのことばかり見ているのかな?僕、晴人さんのこと子供の頃から知っているけど、まだまだ知らないことだらけだよ。鈴木くんのことなんでも知ってる谷川さんって、どうやって鈴木さんのことそんなに詳しく知ってるんだろう?」
「……。本当ですね、どうしてだろう?」
「ね」
ふわっと瑞稀くんが微笑むと鈴木もつられて微笑む。
俺と晴人は顔を見合わせた。
瑞稀くんは谷川のことを聞き出し、谷川のことを『いい人』だと思っている鈴木に、周りから見た谷川の不審な点をそれとなく伝える。
なんの違和感もなく自然な流れで。
「僕ね、いい人って4種類のあると思うんだ」
瑞稀くんは指を一本ずつ立てながら話す。
「裏表なくいい人。いい人と思われたいだけで無害な人。表向きはいい人だけど打算的で、いつでも相手のことをだましてやろうとしている人。いい人のふりをして、相手のことをどんなことをしても思い通りにしようとしている人」
「……」
「この最後の人の怖いところは、一番初めに言った裏表なくいい人と見分けがつきにくいところ。その人が自分には本当にいい人だから、その人が言うことは絶対で、周りがどんなに『あいつは危ない』って言っても聞けなくなってしまうんだ」
「……」
「鈴木さんは本当に純粋な人だから、そんな奴に騙されないでほしい。僕たちは鈴木さんのことを本当に大切に思っている。だからこれからもし何かあったとしても、僕たちの声にも耳を傾けてほしいし頼って欲しい」
瑞稀くんは鈴木の手をとり「お願い」と付け加えた。
「お邪魔します」と鈴木は部屋に入り、
「瑞稀さん山崎さん、今日はお招きありがとうございます。これお口に合えば嬉しいのですが……」
鈴木は瑞稀くんにケーキの入った箱を渡すと
「ご丁寧にありがとうございます」
瑞稀くんが受け取る。
「けいたく~ん!」
鈴木の姿を見つけた千景が鈴木に駆け寄る。
「久しぶり千景くん。今日も元気だね」
千景に抱きつからな鈴木は照れ笑い。
「千景、いつから鈴木のこと『圭太くん』って呼ぶぐらい仲良くなったんだ?」
俺でもまだ呼んだことないのに。
「だって僕、けいたくんとお友達だもん。昴くんはどうしてけいたくんのこと『鈴木』って呼ぶの?お友達同士は、お名前で呼ぶんだよ」
千景のいう『お名前』とは、多分下の名前のことだろう。
俺は鈴木の直属の上司であり、同居人だ。
でも俺はそんな関係より、友達より、俺は俺は……。
「俺は鈴木とは友達にはなれないな」
ポロッと気持ちが出てしまう。
「ふ~ん」
俺の答えの意味がわからないと首を傾げる千景の隣で、鈴木が傷ついた顔をし
「友達も無理なんですね……」
今度は鈴木がポツリと呟いた。
「鈴木?」
呼びかけると、鈴木はハッと我に帰り笑顔を作る。
鈴木と俺の間に気まずい空気が流れた。
「お鍋の用意ができましたよ~」
瑞稀くんの元気な声がする。
鍋がセットされている食卓に行くと、鈴木と俺は隣同士に座るように促される。
家で鈴木と一緒に食事はするが、いつも向かい合ってなので隣あって食べるのは初めてだ。
一年を通して鍋をする山崎家定番は、豚しゃぶだそうだ。
小さな鍋も用意してあり、野菜多めで肉団子とぶり鍋もある。
これは多分千景用なのだろう。
「たくさん作ったので遠慮なく食べてください」
自家製ポン酢とゴマだれが入った小鉢を手渡してもらい、俺と瑞稀くんはノンアルコール、晴人と鈴木はビール、千景と清貴はお茶で乾杯した。
瑞稀くんは清貴の世話をしつつ、よく鈴木に話かけてくれた。
本当は俺から鈴木の話をよく聞いていたので、瑞稀くんの中の鈴木情報は色々あったはずなのに、瑞稀くんは鈴木が好きなことを聞き出し、はじめてそのことを聞いたようなリアクションをとり、話を広げていく。
鈴木も瑞稀くんが話をよく聞いてくれるので、ほどよくまわるアルコールに誘われて楽しそうに話をしていた。
「そういえば鈴木さんに家庭菜園を勧めてくれた人って、この前植物園であった方?」
先ほどまで鈴木と猫の話をしていた瑞稀くんだが、ここで話を変えた。
「はい。谷川さんと言います」
「やっぱり。植物園に来ている人だから、植物が好きな人なんだなって思って。どんな方?」
「いい人ですよ」
「そうなんだ。どんな感じにいい人なの?」
「僕が興味があることとか、知りたいこととか何もいわなくてもよく知っていて、さきさき気を回してくれる人です」
「へ~。仕事では鈴木くんと違う部署で働いているんでしょ?それなのに鈴木くんのことをよく知っているって、鈴木くんのことばかり見ているのかな?僕、晴人さんのこと子供の頃から知っているけど、まだまだ知らないことだらけだよ。鈴木くんのことなんでも知ってる谷川さんって、どうやって鈴木さんのことそんなに詳しく知ってるんだろう?」
「……。本当ですね、どうしてだろう?」
「ね」
ふわっと瑞稀くんが微笑むと鈴木もつられて微笑む。
俺と晴人は顔を見合わせた。
瑞稀くんは谷川のことを聞き出し、谷川のことを『いい人』だと思っている鈴木に、周りから見た谷川の不審な点をそれとなく伝える。
なんの違和感もなく自然な流れで。
「僕ね、いい人って4種類のあると思うんだ」
瑞稀くんは指を一本ずつ立てながら話す。
「裏表なくいい人。いい人と思われたいだけで無害な人。表向きはいい人だけど打算的で、いつでも相手のことをだましてやろうとしている人。いい人のふりをして、相手のことをどんなことをしても思い通りにしようとしている人」
「……」
「この最後の人の怖いところは、一番初めに言った裏表なくいい人と見分けがつきにくいところ。その人が自分には本当にいい人だから、その人が言うことは絶対で、周りがどんなに『あいつは危ない』って言っても聞けなくなってしまうんだ」
「……」
「鈴木さんは本当に純粋な人だから、そんな奴に騙されないでほしい。僕たちは鈴木さんのことを本当に大切に思っている。だからこれからもし何かあったとしても、僕たちの声にも耳を傾けてほしいし頼って欲しい」
瑞稀くんは鈴木の手をとり「お願い」と付け加えた。
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