上 下
180 / 202
愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

山崎宅 ②

しおりを挟む
『はい、鈴木です』
 鈴木とは表向き副社長と秘書。
 電話の向こうに谷川がいるので、馴れ馴れしくしてはいけない。
「急に電話悪い。今晴人の家に来ていて、瑞稀くんがどうしても鈴木と話がしたいって。変わっても大丈夫か?」
『それはもちろん』
 俺は瑞稀くんにスマホを渡す。

「鈴木さんご無沙汰しています、瑞稀です。さっき鈴木さんの話が出ていて、もしよろしければ鈴木さんも我が家でお食事いかがですか?……、いえ迷惑だなんて。昴さんと晴人さんが家まで送りますので、安心してくださいね。絶対、絶対、絶対来てくださいね。千景と清貴も待ってますので。電車にのられましたら昴さんに電話ください。迎えに行ってもらいます。それでは失礼します」
 一気にそういうと瑞稀くんは通話を切った。

 なんだかいつもの瑞稀くんと、今さっき鈴木と電話をしていた瑞稀くん、別人だ。
「瑞稀、あんな強引な誘い方で大丈夫なのか?」
 心配そうに晴人が聞くと、
「大丈夫です。晴人さん、お鍋の具材買いに行きますよ。昴さんはここで待機でお願いします。家の鍵はこれですので鈴木さんから連絡があったらすぐ迎えに行ってください。ないとは思いますが、万が一、谷川さんも来られていたら、嫌な顔せず車に乗せて、晴人の家ここで待っていてくださいね」
 そう言いながら、瑞稀くんはテキパキと買い物に行く準備をする。

 いつも瑞稀くんの周りだけ時間がゆっくり流れているのに、今の瑞稀くんの周りだけ時間が倍速で流れているようだった。


 鈴木から電車に乗ったと連絡があり、改札から出てきたのは鈴木だけで、ほっと胸をひとなでした。
 鈴木を車に乗せ走り出す。

「瑞稀さんからの突然のお誘いって珍しいですよね」
 やはり鈴木にも、さっきの瑞稀くんの誘い方は強引だと感じたようだ。
「そうか?」
 なんと答えれば正解なのかが分からず、とりあえず話を濁しておく。

「谷川はよかったのか?」
 特に気にしてなさそうに聞いてみたが、それが1番気になる。
「本当は一緒に来たがっていましたが、それはおかしな話なので断っておきました」
 すごいな。瑞稀くんの万が一が当たりそうだったんだ。

「他に何か言ってたんじゃないか?」
「『休日に呼び出しなんて、非常識にも程がある』って怒ってましたけど『副社長からの呼び出しじゃなくて、山崎さんのパートナーさんからのお誘いで、俺はその誘いを嬉しく思ったから行くだけで、怒ることはひとつも無い』って言っておきました。谷川くん、いい人なんですが副社長関係になると直ぐに苛立つので」

 やや困った顔で鈴木は言う。
 谷川に敵意を向けられていると感じていたが、やはり間違いではなかったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜

天白
BL
オメガバース。家族モノ。ほっこりハッピーエンドBL。R18作品。 ~主な登場人物~ ・須中藍時…24歳。男性のΩ。フリーター。あることがきっかけで、純の「ママ」として扇家で働くことになる。失声症を患わっており、手話と筆談で会話する。なぜか純の前でのみ、声を出して話すことができる。秀一の妻であるヒナに顔立ちが似ているらしい。身長は168㎝。 ・扇秀一…31歳。男性のα。純の父親。大柄な男で強面だが、他人には優しく穏やかに接する。藍時の雇い主。仕事人間で一年前に妻に逃げられたと藍時に話す。身長は198㎝。 ・扇純…4歳。秀一の息子。出会った当初から藍時をママと呼んでいる。歳のわりにしっかり者だが、まだまだ甘えん坊なママっ子。 〜あらすじ〜 恋人からの暴力により声を失い、心と身体に深い傷を負ったΩの青年・須中藍時は己の人生を悲観していた。人知れずして引っ越した場所では、頼れる家族や友人はおらず、仕事も長く続かない。 ある日、藍時は自分を「ママ」と呼ぶ迷子の少年・扇純と、その父親・扇秀一に出会う。失われたと思っていた声は、なぜか純の前では出せるように。しかしαの秀一に得体の知れない恐怖を感じた藍時は、彼らからのお礼もそこそこに、その場から逃げ出してしまう。 そんな二人の出会いから一週間後。またも職を失った藍時は、新たな仕事を求めて歓楽街へ訪れる。そこで見知らぬ男達に絡まれてしまった藍時は、すんでのところを一人の男によって助けられる。それは秀一だった。 気を失った藍時は扇家にて介抱されることになる。純は変わらず藍時のことを「ママ」と呼び、終始べったりだ。聞けば純の母親は夫である秀一に愛想を尽かし、家を出て行ってしまったという。藍時はそんな妻の顔に、よく似ているらしいのだ。 そしてひょんなことから提案される「家事代行ならぬママ代行」業。期限は純の母親が戻ってくるまで。 金も職もない藍時は、秀一からの提案を受けることに。しかし契約が交わされた途端、秀一の様子が変わってしまい……? ※別サイトにて以前公開していました自作「FAKE FAMILY〜その家族は期間限定!?〜」(現在は非公開)を改題、リメイクしたものになります。 Pixiv、ムーンライトノベルズ様でも公開中です。

国で一番醜い子は竜神の雛でした。僕は幸せになれますか?

竜鳴躍
BL
~本当は美しい竜神の子と亡国の王子の物語~行商人のお兄さん×成人したての竜神。 ダスティは孤児である。鱗のようなものが全身にあり、醜いので引き取り手もなく、教会で下働きをしていた。唯一可愛がってくれた行商人のグランド様をひそかに慕っている。ある日、やっと引き取られた先は見世物小屋で―――――。その時、グランド様が助けに来てくれた。傷を負っても助けてくれた彼を守りたくて、僕は羽化する。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎
BL
 後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。  見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。  踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。  しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。 ⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。 ⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。 ‪ ☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆

ロンドンの足長おじさん

花町 シュガー
BL
『これが僕らの〝出会い〟、僕らの運命。 ーーでも、こんな形があってもいいと思うんだ。』 シルクハットの似合う長身のおじさんが、僕の運命の番でした。 運命の番との出会いを断る大人の、長い長い言い訳の物語。 〈おじさん × 高校生〉オメガバース この作品は、Blove様主催【第一回短編小説コンテスト】にてグランプリをいただきました。 ------------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

アルファ嫌いの子連れオメガは、スパダリアルファに溺愛される

川井寧子
BL
オメガバース/オフィスラブBL/子育て/スパダリ/溺愛/ハッピーエンド ●忍耐強く愛を育もうとするスパダリアルファ×アルファが怖いオメガ●  亡夫との間に生まれた双子を育てる稲美南月は「オメガの特性を活かした営業で顧客を満足させろ」と上司から強制され、さらに「双子は手にあまる」と保育園から追い出される事態に直面。途方に暮れ、極度の疲労と心労で倒れたところを、アルファの天黒響牙に助けられる。  響牙によってブラック会社を退職&新居を得ただけでなく、育児の相談員がいる保育園まで準備されるという、至れり尽くせりの状況に戸惑いつつも、南月は幸せな生活をスタート!  響牙の優しさと誠実さは、中学生の時の集団レイプ事件がトラウマでアルファを受け入れられなかった南月の心を少しずつ解していく。  心身が安定して生活に余裕が生まれた南月は響牙に惹かれていくが、響牙の有能さが気に入らない兄の毒牙が南月を襲い、そのせいでオメガの血が淫らな本能を剥き出しに!  穏やかな関係が、濃密な本能にまみれたものへ堕ちていき――。

【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

きよひ
BL
番犬系後輩アルファ(24)×おじさま好き鈍感オメガ(26)のリーマンボーイズラブコメ。 オメガ性の藤ヶ谷陸は、父親くらい年上のおじさまアルファが大好きな営業マン。 だが番のいるアルファに憧れを抱くせいで、取引先とトラブルになることも。 その度に、仕事の後輩でありアルファである杉野誠二郎に「自覚が足りない」と叱られてしまう。 本人は至って真面目に恋愛したいだけだというのに。 藤ヶ谷と杉野がバーで飲んでいたある夜、理想のおじさまアルファが藤ヶ谷に声を掛けてきた。 何故か警戒している杉野が幾度も水を差すが、舞い上がった藤ヶ谷はどんどんおじさまに惚れ込んでいく。 そんな中、藤ヶ谷にヒートがやってきて……。 不器用な2人が一進一退しながら両思いになりたい物語。 ※なかなかくっつきませんが、ハピエンです。 ※R18シーンは、挿入有りの話のみ★をつけます。挿入無しは⭐︎です。 ●第11回BL小説大賞応募作品です。応援・感想よろしくお願いします!! *オメガバースとは* 男女性以外にアルファ、オメガ、ベータという第二性がある世界 ・オメガには発情期(ヒート)があり、甘いフェロモンを出してアルファをラット(発情期)にさせる。 ・ヒート中、アルファとの性交行いながらオメガがうなじ(首周り)を噛まれることで番関係が成立する。 ・番関係にあるオメガのヒートは番のアルファ以外には分からなくなる。 ・アルファは何人でも番を持つ事が可能だが、オメガは1人しか番えない。 ・アルファから番解消することは出来るが、オメガからは基本的には解消することは出来ない。

処理中です...