上 下
178 / 202
愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

植物園 ②

しおりを挟む
 行く場所ね~。
 昔は行きつけのバーのマスターに昼から店を開けてもらってバーを貸し切って仲間と飲んだり、使いきれない物や服を大量に買ったり、国内外に旅行に行ったり。
 でもいつも1人ではなく誰か一緒にいた。
 だが相手はいつも俺の肩書きや家柄に釣られてやってくる。

 その時はそういうものだと割り切って付き合っていたが、晴人と一緒に仕事をし始めて遊んでいる時間があれば仕事して、そうなると自然と以前付き合っていた人たちとは疎遠になっていった。
 だがその疎遠になった人たちともう一度一緒にいたいかと問われると、それは御免だ。

「ここがいいんだ。な、千景」
 俺の隣に座り、ショートケーキを食べる千景に同意を求めると、千景も「ね~」と笑顔で返してくれる。
 最近できた俺の新しい親友千景は、なんの欲もなく俺に接してくれる。
 俺はそれに救われている。
 でもそれとはまた別の感覚で、鈴木との生活で俺は救われている。
 果たして鈴木はどうなのだろうか?

 動物園に着いたが臨時休業。
 次に水族館に行こうと思い調べると、改装中のため閉鎖。
 そこで植物園に行くことになった。
 今日鈴木も行っているが出発した時間も鈴木の方が早かったし、植物園内でそんなに長い時間いることもないと思っていたが、
「あ……」
「副社長?」
 熱帯雨林ゾーンを歩いていると、谷川と一緒にいる鈴木に会った。

「よく会うな」
「本当に、よく会いますね」
 気まずそうに俺と鈴木が言うと、
「本当に!よく会いますね!」
 少しキレ気味の谷川も言い、俺は谷川に睨まれた気がした。

 何か言わないと、流石にこう何度も会うのはおかしい……。
 色々考えていると、
「あ!鈴木さんだ~」
 鈴木の姿を見つけた千景が駆けてくる。

「やぁ千景くん。今日はみんなでお出かけ?」
 鈴木は千景と同じ目の高さになるようにしゃがんだ。
「うん!僕とパパとママと清貴と昴くんで来たんだ~。僕と昴くんはしんゆうなんだよ!」
 自信満々に千景が言うと、
「親友か~、羨ましい」
 鈴木が言う。

 俺と親友な千景が羨ましい?
 それって鈴木も俺の親友になりたいのか?

「じゃあ、鈴木さんも昴くんに『お友達になってください』って言えばいいんだよ。ね、昴くん」
 千景に同意を求められて
「あ、ああ」
 と返事をした。

「そっか……」
 と言った後、消え入る声で
「でも俺は親友じゃなくて他のものになりたいな」
 と呟いた。

 親友じゃなくて他のもの?
「副社長は山﨑さんご家族と来られてたんですね。俺はてっきり圭太・・のことをつけられているのかと思いましたよ」
 やれやれといったふうに言われ、さすがの俺も言い返そうとしたが、
「谷川くん、だったっけ?身の程をわきまえた方がいいと思うよ」
 そばで様子を見ていた晴人がグイッと前に出てきた。

「相手が副社長だから、思ったことを言ってはダメってことですか?」
 谷川が晴人を睨む。

「そんなことは言っていない。ただ、自分の立ち位置、言葉に責任が取れないことを言ったり、したりすることは考えものだよ、と言いたかっただけだよ」
 にこやかに晴人は言うが、目が座っている。
 相当怒っている。

「晴人もういいよ。じゃあ鈴木くんも谷川くんも楽しんで」
 俺は鈴木と谷川のそばを通り過ぎた。

ー圭太ー

 俺だってまだ鈴木のことを下の名前で呼んだことがないのに、谷川はもう……。
 どろっとしたものが胸の中で生まれた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...