上 下
166 / 202
愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

N社との話し合い ②

しおりを挟む
「やっぱり山崎さんは凄いですね」
 晴人たちが使ったコップを下げながら、鈴木が呟く。
「山崎さんは素敵な旦那様で、いいお父さんで、優秀な秘書。俺なんて足元にも及びません」
「そんなことないぞ。鈴木は鈴木で頑張ってるじゃないか。晴人が人間離れしてるだけだ」
 晴人は優秀中の優秀。『全てに関して完璧だが、家族のことになるとデレデレした、ヤバい奴だぞ』と言おうと思ったが、せっかくある鈴木の中の晴人のイメージをわざわざ壊すこともないかと、やめておいた。

「……しなきゃ……」
「ん?なんて?」
 よく聞き取れなかったので聞き返すと、
「なんでもないです」
 笑顔で鈴木が答えた。
「晴人は特別だ。あまり気にするな」
 そう言うと、
「はい」
 いつもより少し沈んだような、焦ったような返事が返ってきた。


 2日後の夕方、晴人が俺の元にやって来た。
 N社が世代交代の話が出ているのは正しかった。
 だが、まだ世代交代が本格的に進んでいないことで、ましてや今ある契約の見直しをすることは、情報者も初耳だったそうだ。
「晴人の情報者って?」
 ダメもとで聞いてみたが、
「秘密ですが、情報は信用していいと思います」
 晴人、刑事みたいだな。
 そんなことを思いながら、N社がどうしてそんな架空の話を持って来たのか、よくよく考えがわからない。

 今度直接会った時は探りではなく、単刀直入に聞いてみよう。
 鈴木に長野さんとの話の場をセッティングしてもらおうと鈴木の姿を探すが、見当たらない。
「あれ?」
 あたりを見回していると、
「私が来た時、鈴木くんはいませんでしたよ」
 俺の言いたいことに気がついた晴人が言った。

 そういえば晴人が来る少し前「少し出ます」と言って、どこかに行ったな。
 時計を見ると、鈴木が俺に声をかけてから30分ぐらい経っている。
 ちょっと席を外すには長い。
「おかしいですね」
 晴人も不審に思い出した時、社長室からの内線がなった。

「はい」
『あの話はどうなった?』
「社長からお聞きしていた話と、長野さんの話では食い違うところがあるので、また後日、長野さんとの話の場を作って、真意を聞いてみようと思っています」
『後日?さっき廊下で鈴木に会ったんだが、その時今から長野に会いに行くと言ってたから、渡して欲しい書類をことづけたのだが……。今日話し合いをするんじゃなかったのか?』
「え?そんな話聞いてません」
『そうか。では次回長野に会う前、鈴木に渡しておいた書類に目を通しておくように』
「はい……」
 そう言い、内線を切った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

零れる

午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー あらすじ 十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。 オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。 ★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。 ★オメガバースです。 ★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

身代わりβの密やかなる恋

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
旧家に生まれた僕はαでもΩでもなかった。いくら美しい容姿だと言われても、βの僕は何の役にも立たない。ところがΩの姉が病死したことで、姉の許嫁だったαの元へ行くことになった。※他サイトにも掲載 [名家次男のα × 落ちぶれた旧家のβ(→Ω) / BL / R18]

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

【続篇完結】第四皇子のつがい婚―年下皇子は白百合の香に惑う―

熾月あおい
BL
嶌国の第四皇子・朱燎琉(α)は、貴族の令嬢との婚約を前に、とんでもない事故を起こしてしまう。発情して我を失くし、国府に勤める官吏・郭瓔偲(Ω)を無理矢理つがいにしてしまったのだ。 その後、Ωの地位向上政策を掲げる父皇帝から命じられたのは、郭瓔偲との婚姻だった。 納得いかないながらも瓔偲に会いに行った燎琉は、そこで、凛とした空気を纏う、うつくしい官吏に引き合わされる。漂うのは、甘く高貴な白百合の香り――……それが燎琉のつがい、瓔偲だった。 戸惑いながらも瓔偲を殿舎に迎えた燎琉だったが、瓔偲の口から思ってもみなかったことを聞かされることになる。 「私たちがつがってしまったのは、もしかすると、皇太子位に絡んだ陰謀かもしれない。誰かの陰謀だとわかれば、婚約解消を皇帝に願い出ることもできるのではないか」 ふたりは調査を開始するが、ともに過ごすうちに燎琉は次第に瓔偲に惹かれていって――……? ※「*」のついた話はR指定です、ご注意ください。 ※第11回BL小説大賞エントリー中。応援いただけると嬉しいです!

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

彼のいない世界が輝きはじめるとき

riiko
BL
オメガの蓮は、大好きな夫で番がいた。 彼は3年前、蓮を残してこの世を去る。3年間夫を忘れることなく、ずっと恋をしたまま生きてきた蓮。本来なら死別した番との縁は切れて、オメガとして他のアルファを誘うフェロモンが出て発情期もあるはずだが、それを失った。 夢の中でしか会えない夫に現在進行形で恋をし続ける。 ある日、今年は3年ぶりにホワイトクリスマスになると知った。 もしも今年のクリスマスに雪が降ったら、もしも雪なら……願掛けをする蓮。 しかし決意をした翌日、過去に振った運命の番だった人と再会した。 彼が言う。 クリスマスまで、自分の体を自由に使っていい。それが終わる時、これからのあなたの未来を決めて欲しい。「彼の願いをどうか叶えてあげて」と。 蓮は不思議に思うも、翌日尋ねてきた運命の男は、中身がまるで変わっていて…… クリスマスが見せる奇跡の3日間の物語。よくある題材ですが、riikoなりに作り出した世界観をお楽しみいただけたら幸いです。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...