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愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

圭太との買い物 ②

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 朝食を食べてから2人で買い出しに出かけた。
 鈴木は俺の事をずっと『副社長』と呼ぶが、外で『副社長』呼びをされると何かと誤解されそうなので、プライベートでは『内藤』と呼ぶように頼んだ。
 初めて鈴木に『内藤さん』と呼ばれた時は、あの日のことを思い出してしまい胸がチクリとして、失恋とはこんなにも引きずるものなのかと驚いた。

 鈴木との2人での買い出しは何故か鈴木に「内藤さんの金銭感覚はバグってる」や「庶民の気持ちを考えてない」など怒られっぱなし。
 あまりに怒られるので「そうなのか?」と聞き返すと呆れられ、翌日その話を晴人にすると、あの晴人に爆笑された。

 晴人が育休に入って4ヶ月、鈴木と一緒に住み始めて約5ヶ月住んでみて、彼は本当に努力家だと感じた。
 家事は得意な方がすればいいと言ったのに「俺も家事、得意になりたいのです!」と言い取り組もうとするが、やはり空回り。
 そこでポイントを教えてやると律儀にメモを取り即座に実行。

 はじめて見たような大惨事は徐々になくなったが、俺のカシミヤのセーターが普通に洗濯されダメになったり、掃除機に洗濯ネットを吸わせてダメにしたりと、面白事件は健在だ。
 料理は夕飯は外食が多いが朝食は家でなるべく食べようということになり、月、水、金曜日は俺が担当。火、木、土曜日は鈴木が担当で日曜日は2人で作る。
 そして今日は火曜日。鈴木が担当の日でキッチンからは焦げた匂いが。

 多分今日はベーコンを焦がしている。
「おはよ。今日の朝ごはんはベーコンエッグ?」
「おはようございます。すみません……」
 やはり今日も挨拶の後は謝罪から入る。
「気にするなって」
 フライパンの上で焦げているベーコンとカチカチに焼けすぎた目玉焼き2人分皿に乗せる。
「ちゃんと目玉焼きになってるじゃないか」
 きちんと黄身が白身の中にある。初めて鈴木が目玉焼きを作った時は、卵の殻が入ったスクランブルエッグのようなものだった。

「でもベーコンも卵も焼きすぎで……」
 鈴木はしゅんと項垂れる。
「確実に上手くなってる。気にするな」
 頭をくしゅくしゅと撫でると、嬉しそうに笑う。
 そうやって少しづつ自信をつけていってもらえらばいいと思う。

「あ、明日のお昼。山崎さん一家が挨拶に来られるそうです」
「晴人一家?」
 一家で来るなんて何か約束でもしていたか?
「明日、清貴きよたかくんの検診だそうで、その帰りに瑞稀さんが同僚の方のところに寄られるられて、そのついでだそうです」
 ついでって……。
 晴人とはは高校の時からの付き合いで、俺が先輩、晴人が後輩で、親友みたいな関係でもある。
 晴人が大変な時期を一緒に過ごし、お互い何も言わなくても、何を言いたいか分かってしまう家族以上の関係だ。
 晴人とそんな関係だからこそ、仕事場にほかの要件のついでに来られても嫌ではない。

 清貴とは3ヶ月前に生まれた晴人の次男。生まれたばかりの清貴に会いに行ったが、その後行っていなかったので、清貴はだいぶ大きくなっているだろう。
 子供の成長は早い。
 一家ということは、晴人のパートナーの瑞稀くんと長男千景も来るのか。
 2人に会うのも楽しみだ。
「千景くんはチョコチップクッキーとホットミルク、瑞稀くんはカフェオレが好きだから用意してあげて。晴人はなんでもいいよ」
「承知いたしました」
 鈴木はそう言ったが、きちんと晴人の好きなコーヒーのメーカーを用意すると思う。
 朝食を済ませると迎えにきた車に乗り込む。
 今日の予定を確認し仕事に入る。
 忙しい時期は越え、最近はホッと一息入れられる時間もできてきたと思っていたが……。
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