上 下
142 / 202

父親 ④

しおりを挟む
 どうして今まで一緒にいなかったのか?
 千景の素朴な疑問。
「どうしてママは、パパのこと教えてくれなかったの?」
「……」
「他のお友達はママとパパ、一緒にいるよ? どうして僕のママとパパは一緒にいなかったの?」
「それは……」
「ねぇ、どうして?」
 千景の中の『どうして?』が膨れ上がる。

千景の中にわだかまりを残さないように、、千景がわかるような言葉で、きちんと正直に話をしないと。
 
 瑞稀は千景の手を握り、しっかりと視線を合わせた。
「あのね、ママがパパのお話を聞かず、間違った方を選んでしまって、千景がママのところに来てくれたことを知らせずに、パパの元を離れっちゃったんだよ。だから晴人さんは千景のパパだということを知らずに、離れ離れで暮らすことになってしまってたんだよ」
  
 本当はもっと複雑でいろいろなことが重なっていた。
 でもそんな大人の事情、今の千景に話してもわからないことだらけだ。
 それでも、瑞稀は自分のせいで晴人と千景が離れ離れになってしまったことをきちんと伝えたかった。

わかってくれだだろうか?

 瑞稀の話を聞いて、千景は俯く。
「千景?」
「……」
 名前を呼んでも、返事がない。
「千景?」
 もう一度呼ぶと、
「――それって僕のせいってこと……? 僕のせいでママはパパとさよならしたの?」
 キラキラ輝いていた千景の瞳が暗くなり、次第に涙が浮かんでくる。
 思いもよらない千景の言葉に、瑞稀は目を見開き、
「ちがっ」
 一瞬言葉に詰まった。

どうしよう。
なんて言えばいい?
もっと千景にわかるように、どう説明したらいい?

 瑞稀が頭の中で、言葉を探していると、

「違うよ。そんなことは絶対にない。俺は瑞稀のことを愛しているし千景くんのことも大好きだよ。大人はね、たまにどうしようもなくつまらないことでけんかをしたりするものなんだ」
 静かな声で晴人が言った。

「ママもパパも僕とお友だちみたいに、けんかするの?」
 不思議そうに千景が晴人を見上げる。
「ああ、喧嘩してしまうんだよ。だからパパとママは仲直りがしたいんだ。千景くんはパパとママのけんか、許してくれるかい?」

「もう怒ってない?」
「ああ、怒ってない」
「嫌いにならない?」
「絶対にならないよ」
 晴人が断言すると、暗かった千景の表情があかるくなる。
「わかった」
 千景は瑞稀と晴人を交互に見て、
「「ごめんなさい」って言ったら仲直りなんだよ!」
 瑞稀と晴人の手を握らせた。

「晴人さん。何も言わずにいなくなってしまって、ごめんなさい」
「瑞稀が悩んでいたことに気付いてやてなくて、ごめん」
 晴人が瑞稀を引き寄せ、膝の上に座っている千景と一緒に抱きしめる。
 瑞稀もそっと千景を抱きしめると、千景も瑞稀に抱きついてきた。

 千景と晴人の体温が、瑞稀の体の中に入ってくるようだ。
 瑞稀はあの時、晴人との別れを決断した自分に言ってやりたい。
 晴人さんは全て受け止めてくれる。
 怖がることなく、その胸に飛び込めばいいと。
 どんなに周りが反対しても、離れ離れになるべきではないと。
 
「これで、もう仲直りだね」
 瑞稀と晴人に抱きしめられ、高揚し頬をピンクに染め、今度こそ満面の笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

零れる

午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー あらすじ 十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。 オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。 ★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。 ★オメガバースです。 ★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。

身代わりβの密やかなる恋

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
旧家に生まれた僕はαでもΩでもなかった。いくら美しい容姿だと言われても、βの僕は何の役にも立たない。ところがΩの姉が病死したことで、姉の許嫁だったαの元へ行くことになった。※他サイトにも掲載 [名家次男のα × 落ちぶれた旧家のβ(→Ω) / BL / R18]

記憶の欠片

藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。 過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。 輪廻転生。オメガバース。 フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。 kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。 残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。 フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。 表紙は 紅さん@xdkzw48

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...