139 / 202
父親 ①
しおりを挟む
昴が院長に話をしてくれていたため入院中、千景はあらゆる検査、治療をしてもらった。
そのおかげもあって容態は安定して、予定通り病院に運び込まれてから2日後、無事に退院の運びとなった。
退院の際、千景は治療してくれた看護師や医師に折り鶴を手渡し、みんなにおしまれつつの退院となり、病院から家までの道のりは、晴人が運転する車で帰った。
初めて晴人の車に乗るだけでも大喜びな千景なのに、車内内蔵のモニターで子供向け番組をかけてもらい大興奮。
家についても「まだ降りない」と言い出すしまつ。
結局30分の番組が終わるまで、3人でドライブとなった。
「今日はお忙しい中、わざわざ送ってくださりありがとうございました」
車を降り運転席に座る晴人に瑞稀が礼を言うと、
「晴人さん、ありがとう」
千景もお礼をいい、晴人に折り鶴を手渡す。
今までの千景は晴人のことを『山崎さん』と呼んでいた。
だが今回のことで瑞稀が千景の前で晴人のことを『山崎さん』ではなく『晴人さん』と呼ぶようになり、いつの間にか千景も晴人のことを『山崎』から『晴人さん』と呼ぶようになっていた。
「上手に作ったね。じゃあまたお礼のお手紙書いて、ママに託けておくよ」
晴人が車内から手を伸ばし千景の頭を撫でると、千景は嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「それじゃあ何かあったら連絡して」
瑞稀にそう言い、晴人はそのまま帰ろうとした時、
「あのっ!」
瑞稀は晴人を呼び止めた。
「あの、もしよろしければコーヒーでも、いかがですか?」
「え!?」
晴人は心底驚いたように、目を大きく見開いた。
「晴人さんのお好きなコーヒーの銘柄も用意していますので、あの、その……、このままさよならするのは、寂しいといいますか……」
以前の瑞稀なら恥ずかしすぎて言えず、そのままだったが、きちんと気持ちは言葉にしようと決めたので勇気を振り絞った。
「……」
晴人は口をポカンと開け、目をぱちぱちさせているだけで、何も言わない。
そうだよね。
忙しいなか、時間を割いてもらっているのに、さらに一緒にいたいから家に寄って欲しいなんて、虫が良すぎるよね……。
「すみません、変なこと言って……」
瑞稀がもう一度礼を言って帰ろうとした時、
「瑞稀待って!」
後から呼び止められた。
振り返ると、
「ぜひ! ぜひ、お邪魔させてもらうよ!」
目をきらきらさせながら、晴人は食い気味に言う。
「え? いいんですか?」
瑞稀はそんな晴人の姿を見たことがなかったため、少し面食らった。
「もちろん! それじゃあ、車停めてくるから、少し待ってて」
生き生きしながら急いで駐車場を探しに行った晴人の姿が可愛く思え、瑞稀はふふふと笑ってしまった。
そのおかげもあって容態は安定して、予定通り病院に運び込まれてから2日後、無事に退院の運びとなった。
退院の際、千景は治療してくれた看護師や医師に折り鶴を手渡し、みんなにおしまれつつの退院となり、病院から家までの道のりは、晴人が運転する車で帰った。
初めて晴人の車に乗るだけでも大喜びな千景なのに、車内内蔵のモニターで子供向け番組をかけてもらい大興奮。
家についても「まだ降りない」と言い出すしまつ。
結局30分の番組が終わるまで、3人でドライブとなった。
「今日はお忙しい中、わざわざ送ってくださりありがとうございました」
車を降り運転席に座る晴人に瑞稀が礼を言うと、
「晴人さん、ありがとう」
千景もお礼をいい、晴人に折り鶴を手渡す。
今までの千景は晴人のことを『山崎さん』と呼んでいた。
だが今回のことで瑞稀が千景の前で晴人のことを『山崎さん』ではなく『晴人さん』と呼ぶようになり、いつの間にか千景も晴人のことを『山崎』から『晴人さん』と呼ぶようになっていた。
「上手に作ったね。じゃあまたお礼のお手紙書いて、ママに託けておくよ」
晴人が車内から手を伸ばし千景の頭を撫でると、千景は嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「それじゃあ何かあったら連絡して」
瑞稀にそう言い、晴人はそのまま帰ろうとした時、
「あのっ!」
瑞稀は晴人を呼び止めた。
「あの、もしよろしければコーヒーでも、いかがですか?」
「え!?」
晴人は心底驚いたように、目を大きく見開いた。
「晴人さんのお好きなコーヒーの銘柄も用意していますので、あの、その……、このままさよならするのは、寂しいといいますか……」
以前の瑞稀なら恥ずかしすぎて言えず、そのままだったが、きちんと気持ちは言葉にしようと決めたので勇気を振り絞った。
「……」
晴人は口をポカンと開け、目をぱちぱちさせているだけで、何も言わない。
そうだよね。
忙しいなか、時間を割いてもらっているのに、さらに一緒にいたいから家に寄って欲しいなんて、虫が良すぎるよね……。
「すみません、変なこと言って……」
瑞稀がもう一度礼を言って帰ろうとした時、
「瑞稀待って!」
後から呼び止められた。
振り返ると、
「ぜひ! ぜひ、お邪魔させてもらうよ!」
目をきらきらさせながら、晴人は食い気味に言う。
「え? いいんですか?」
瑞稀はそんな晴人の姿を見たことがなかったため、少し面食らった。
「もちろん! それじゃあ、車停めてくるから、少し待ってて」
生き生きしながら急いで駐車場を探しに行った晴人の姿が可愛く思え、瑞稀はふふふと笑ってしまった。
19
お気に入りに追加
680
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる