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父親 ①

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 昴が院長に話をしてくれていたため入院中、千景はあらゆる検査、治療をしてもらった。
 そのおかげもあって容態は安定して、予定通り病院に運び込まれてから2日後、無事に退院の運びとなった。
 退院の際、千景は治療してくれた看護師や医師に折り鶴を手渡し、みんなにおしまれつつの退院となり、病院から家までの道のりは、晴人が運転する車で帰った。

 初めて晴人の車に乗るだけでも大喜びな千景なのに、車内内蔵のモニターで子供向け番組をかけてもらい大興奮。
 家についても「まだ降りない」と言い出すしまつ。
 結局30分の番組が終わるまで、3人でドライブとなった。

「今日はお忙しい中、わざわざ送ってくださりありがとうございました」
 車を降り運転席に座る晴人に瑞稀が礼を言うと、
「晴人さん、ありがとう」
 千景もお礼をいい、晴人に折り鶴を手渡す。
 今までの千景は晴人のことを『山崎さん』と呼んでいた。
 だが今回のことで瑞稀が千景の前で晴人のことを『山崎さん』ではなく『晴人さん』と呼ぶようになり、いつの間にか千景も晴人のことを『山崎』から『晴人さん』と呼ぶようになっていた。

「上手に作ったね。じゃあまたお礼のお手紙書いて、ママに託けておくよ」
 晴人が車内から手を伸ばし千景の頭を撫でると、千景は嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「それじゃあ何かあったら連絡して」
 瑞稀にそう言い、晴人はそのまま帰ろうとした時、
「あのっ!」
 瑞稀は晴人を呼び止めた。
「あの、もしよろしければコーヒーでも、いかがですか?」
「え!?」
 晴人は心底驚いたように、目を大きく見開いた。
「晴人さんのお好きなコーヒーの銘柄も用意していますので、あの、その……、このままさよならするのは、寂しいといいますか……」
 以前の瑞稀なら恥ずかしすぎて言えず、そのままだったが、きちんと気持ちは言葉にしようと決めたので勇気を振り絞った。
「……」
 晴人は口をポカンと開け、目をぱちぱちさせているだけで、何も言わない。

そうだよね。
忙しいなか、時間を割いてもらっているのに、さらに一緒にいたいから家に寄って欲しいなんて、虫が良すぎるよね……。

「すみません、変なこと言って……」
 瑞稀がもう一度礼を言って帰ろうとした時、
「瑞稀待って!」
 後から呼び止められた。
 振り返ると、
「ぜひ! ぜひ、お邪魔させてもらうよ!」
 目をきらきらさせながら、晴人は食い気味に言う。
「え? いいんですか?」
 瑞稀はそんな晴人の姿を見たことがなかったため、少し面食らった。
「もちろん! それじゃあ、車停めてくるから、少し待ってて」
 生き生きしながら急いで駐車場を探しに行った晴人の姿が可愛く思え、瑞稀はふふふと笑ってしまった。
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